愛猫家たちへ
私は犬派である。
しかし、我が家には今、一匹の猫がいる。
一昨年くらいまで、家には犬がいた。
脳をやられて、目が見えず、耳が聞こえず、そして飼い主すらわからないかもしれない状態だった。
結構辛い最後を迎えたので、私は「もう犬は飼わない」と家族に宣言したのだ。
その宣言に異を唱えたものがいた。私の妻と、私の息子だ。
つまり、私以外が異を唱えた。
学校から家に帰ってきて、誰もいないのは寂しい、ときたもんだ。
私はその一言にさらに異を唱える。よくあるパターン、ちゃんと育てられるのか、世話はするのか、の問い。
このときばかりは、全部イエスでくる。よくある話だ。
しかし私は折れない。
私自身が幼少の頃より、ほとんど犬と一緒ににる生活を送ってきた。そして最後はだいたい病気でこの世を去ってしまう。とてもつらいものだ。
最後の犬。この犬は飼う予定のなかった我が家が引き取った形になったのだが、病気が進行していくのを見て、やはりもういいかな、と思った。
そんな中で、妻が「猫がいい」という。
考えたこともなかった。
私自身は鳥、熱帯魚、そして犬、と色々飼ってきた。一回だけ鶏の雛を親がもらってきたのだが、今話題になった猫の胃袋に収まったことがある。
また妻の実家にも猫がいたのだが、それはそれはなつかない。
引っかかれて血がダラダラと流れたことさえある。だっこするなんて以前に触らせることすらさせてくれない。
犬派の人が苦手とする、よく思わない代名詞といえばいいだろうか。
猫派の人が書いているサイトなどを見ると、「孤高」「プライド」なんて挙がっているが、相手にしない(されない)、ただいるだけのペットを世話するなんて、言ってしまえば無駄だとも思っていた。
だが、私の思いはどこえやら。結局飼うことになった。
ペットショップに行けば、かなりのお値段。ここも正直に言えば、お金を払いたくなかった。
そして、どうせ飼うなら、里親募集なんかでいいのではないか、と提案した。
探すのは私だ。里親募集サイトで探すことになる。一度、アメリカンショートヘアーの子猫を里親募集している、という情報を得て、早速連絡してみた。
「耳がとても珍しい、私も手元に置きたいくらいの猫なんです。5万円頂きたいのですが」
里親募集でも、注射代や、それまでの経費を求める方はいらっしゃるが、無料と謳っておいて、いざというときにそのような話をしてくるのはいかがだろうか。
少しお話して、そういう条件でも飲む方がいらっしゃればその方へ、と辞退させて頂いた。このとき、割と猫ブームだったことに、私は全く把握しておらず、しばらく難航したものだった。
2ヶ月くらい経ったときだろうか。
隣県で、里親募集している、と聞きつけ、家族で見に行ったのだ。既に2ヶ月ほど探していて、隣の県まで猫を見に行く、というのはただただ、家族愛にほかならない、としておこう。
「キジトラの11ヶ月くらい、人馴れしているので安心」
そういう紹介文をもとに、行った先で見た猫は、人馴れどころか、里親さんからも脱兎の如く逃げる猫だ。ガリガリで目やにも多い。耳が切れているのは、去勢済の証。私達がダメだったら地域猫になるらしい。
大丈夫なんだろうか。
この人は、手放したいがために言っているだけなんじゃないだろうか。
私の顔は笑顔で話すが、内心は不安でいっぱいだった。
しかし家族は了承する。この子にしましょう、と。帰りの車の中でも、震えているらしい。本当に大丈夫なのか、と何度も聞いた。
家に着いた。案の定逃げ回り、家具の隙間に隠れ、出てこない。
それが一週間以上も続いた。
そこでもう一度私は言った。このままだったとして、これは「飼う」ことになるのか。それでいいのか、と。不安でいっぱいだった。
しかし、そんなこんなで1年経った。
相変わらず呼んでも来ない。しかし息子が呼べばくる。
甘えてこない。しかし足元にはいる。手を出せば逃げる。
ボールを投げたら取りに行って持ってくる。しかし犬のように飽きず、終わりがない。
私の膝の上にはパソコンがあり、これを書いているが、その前に膝の上に乗っていたのは、その猫だ。
今私は、100歩下がって、猫もいいのではと思っている。
そう、意地っ張りなのだ。