第7話 「露見」
俺の目の前にはセントラム王国の第一王女がいる。
世情に疎い俺ですら彼女を知っている。
セシリア・セントラム。別名、白銀の美姫。
その美しい銀髪と美貌により大陸中にその名を轟かせている王女。
性格は聖女のように優しく、頭脳明晰。内面も完璧だとか。
(落ち着け俺。ここは無難に対応しつつ、深く関わらないようにしよう)
俺はそう決めて、王女に対応することにする。
「アルス様ですか。素敵なお名前です。」
「ありがとうございます。」
微笑みながら、俺に話しかけてくる王女。
確かに、容姿と相まってその物腰の柔らかさは聖女に見える。
「アルス様、助けて貰ったお礼をしたいのですが、一緒に王城まで来て貰えるでしょうか?」
「…………………」
(流れから予想はしていたが、どうする俺?ここで了承するのは論外。かといって、普通に断ってしまえば無礼に当たる。なんとか角が立たないように断りたいものだが……)
「どうでしょうか?」
「…………………先程も言ったとおり、当たり前のことをしたまでです。お礼をされるほどのことではありません。」
と王城にはついていかないと暗に伝える。
ここで諦めてほしかったが、そうはうまくいかない。
「いえ、アルス様が来てくださらなかったら、私達はどうなっていたことか………アルス様には正式な形でお礼をしたいのです。だめでしょうか……?」
どうしようか。
彼女の懇願をうまく断る方法が見つからない。
いっそ逃げるか、そんな事を考えていると―――――
「もしかして、王城に行きたくないのでしょうか?」
「…………………ええ」
やはり、はっきり断らなくてはいつまでもこのやり取りは続くだろう。
せっかく相手がその機会を作ってくれたのだ。
俺は王女様の問いに対し首肯する。
「…………そうですか。それでは仕方ありませんね。」
やっと諦めてくれたか。
悲しそうな表情をしている彼女を見ると罪悪感が湧き出てくるがこればかりは仕方ない。
「申し訳ありません。」
「いえ……私も無理を言ってすみませんでした。」
「それでは、私は用があるのでここで失礼します。」
と俺はそう言って、王女様にむかって一礼をする。そして、すぐにこの場から立ち去ろうとする。
その時、向かい側から突風が吹き起こった。
周囲で砂埃が起こり、視界が狭まる。
王女様の姿が見えなくなり、王女様もこちらの姿が見えない状態だ。
「急になんなんだ…………王女様大丈夫でしょうか?」
砂埃が止み始め、視界が戻りそうになったところで俺は王女様に声をかける。
「ええ、大丈夫です。アルス様も大丈………………」
俺の声に反応し、応答する王女。
その時には砂埃が完全に収まっており、視界も良好の状態に戻る。
「突然でしたね。風も強くなってきたことですし、馬車の中に戻ってはどうでしょうか?」
「…………………」
「……王女様?どうかしましたか?」
砂埃が止み終わった後から、彼女は目を見開いていて、起こる前とは様子が明らかに違う。
どうしたのだろうか。
彼女は目を見開きながら俺をずっと見つめてくる。
とても居心地が悪い。
(おお、騎士達はさっきの突風に関わらず膝をついて頭を下げている状態を維持してる。すごい忠誠心だな。)
そんなことを思っていると―――――――
(ん?)
少し今の自分の状態に違和感を感じる。
なんかさっきより視界が良好すぎるというか、視界が広くなったというか―――――
その時心地いい風が吹く。
さっきのとは違い穏やかな風だ。
俺の髪を靡かせながら通り過ぎる。
「ッ!?」
その時俺はある事に気づく。
さっきの風は俺の髪を靡かせた。
本来ローブを纏っている俺の髪は靡かないはずだ。
それなのに靡いた。
それが意味するところは――――――――
俺は突然の出来事に動転してしまい、すぐに彼女の前から立ち去ったのだった。
◇
セシリア・セントラムとの邂逅の数時間後、俺はギルドに立ち寄り依頼報告、その後これから住むことになる宿屋に来ていた。
現在はその宿屋で借りた自室。
俺はベッドに座りながら俯いていた。
ベッドに座りながら、数時間前の出来事を思い出している。
(やってしまった…………)
俺は現在失意の底。
あれだけ気をつけて、準備もしていたのにも関わらず、この失態。
「まさか、ローブが外れるとは……」
そう、立ち去ろとした時に起きた突風により、顔を隠していたローブが外れてしまった。
しかも、王女様の前で。
普段災厄として纏うローブは特別製。
耐久性を備えつつ、顔が絶対見えないように魔法がかけられている。
忘れていた。
俺がつけていたのはそこら辺の店で買った普通のローブだと。
(顔を見られたことは確実。幸い騎士達は下を向いていたから、目撃したのは王女一人だけ。)
どうしてこうなったのだろうか。
神様もう一回言おう。俺は人助けという讃えられる行いをしたのにもかかわらず、この仕打ち。
酷くないだろうか、神様。
もう、神を信じないことに決めた俺は、その日は早めに就寝に就いたのだった。
◇
セントラム王国。王城。とある一室。
真夜中に彼女は窓際に立っていた。
外から注ぎ込まれた月の光は彼女の美しい銀髪を輝かせている。
「ふふっ」
彼女は手元にある書類を見て嬉しそうに笑う。
その書類とは学園入試者一覧の物。
そこにとある人物の写真が貼られている。
それを見る彼女は普段周囲に見せないような無邪気な表情をする。
「あれほど強くて、素敵な殿方は初めて見ました。」
彼女はそう独りごちて、ニコニコと笑う。
「学園生活がとても楽しみになりました。あなた様も楽しみにしているでしょうか?アルス様……………いえ、ルクス様」
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