第6話 「邂逅」
「ショット」
「グギャア!」
俺は木の上から気配を消しゴブリンを攻撃する。
氷が頭に直撃し、緑色の血液を噴出しながら絶滅するゴブリン。
これで五体目のゴブリンだ。
今回受けた依頼はゴブリン五体討伐ということなので、これで依頼達成ということになる。
まだDランクの依頼だからだろうか、そこまで苦労せずにすぐに終わった。
まあ、最弱の魔物だしこんなものか。
俺はギルドに戻るためにサーチを使い、戻り道を確認する。
(ん?)
すると、近くに多くの人間の反応を示す。
サーチによると少なくとも十は超えるくらいだ。
冒険者のパーティーとも考えられるが、こんな森に大人数のパーティーで挑むとは考えづらい。
(行ってみるか)
俺は気になったのでその場所に向かうことにした。念のため気配を消しながら移動し、ある程度近づいたところで止まる。
そこはセントリアに繋がる整備された道だった。
木の上から見下ろすように見ると、そこには馬車と鎧の甲冑を纏った騎士が数人、見るからに荒くれ者のような者達が数十人いた。
おそらくは山賊だろう。
騎士が馬車を守るように山賊と対峙している。
この状況を見るに騎士を連れた馬車が通った時に山賊に襲われたのだろう。
騎士を連れているところを見るとおそらく馬車に乗っている人は貴族。
馬車の外装も豪華ではあるし、そこに目をつけられたのか。
戦況を確認すると、騎士の人数に比べて山賊の数の方が圧倒的に多い。
騎士は完全に守りに入っており、防戦一方の状態。個々の能力としては騎士の方が高そうだが、数の暴力は驚異。
騎士達の陣形が崩れるのも遅くないだろう。
(あっ、騎士の一人がやられた。これは陣形が崩れるぞ)
俺の見解は的中し、騎士の一人がやられたことにより陣形は崩壊。
戦況が山賊に傾いた。
騎士達も耐えることが限界だろう。その証拠に騎士達の表情に絶望が現れ始めている。
(……仕方ないな。助けてやるか)
まあ別に助ける理由はないが、見捨てる理由もないしな。
山賊の中で先頭に立ち、指示を飛ばしているボスらしき奴に向かって一瞬で迫る。
集団を瓦解させるにはボスを消すのが手っ取り早い。
そいつの背後に降り立ち氷の剣を一瞬で生産。
その流れで首を切り落とす。
突然の出来事に山賊、騎士ともに固まってしまう。
だが、数秒で山賊の一人が立ち直り俺に向かって叫ぶ。
「て、てめえぇぇぇ!よ、よくもボスを!!」
それを機に次々と山賊、騎士共に立ち直り始める。
「い、いつからいたんだ!?」「お前気づいてか!?」「い、いや。気づかなかった」「というか、あいつボスを一撃で……」「何者なんだ……」
山賊側はかなりパニックになっているようだ。
いきなり戦場に入ってきた俺、いや、気づいたら戦場にいた俺に対し、戸惑いを隠せない様子だ。
俺が殺した山賊が予想通りボスだったらしく、それも相まって山賊達に動揺を生んでいる。
「……あなたは一体?」
「襲われているところを見て、助太刀に来た者です」
「……それは感謝申し上げます。私達はもうもたないところでした」
山賊と同様、戸惑いを隠せない様子の騎士達に手短に紹介する。
こんな戦況だからだろうか、すんなりと騎士達は受け入れた。
「あなた達は馬車の守りに集中してください。前には俺がでます。」
「い、いや、しかし!一人では危険なのでは!?」
「いえ、心配無用です。」
というより、俺一人の方が手っ取り早い。騎士達がいると邪魔になりそうだしな。
山賊達はいつまで混乱しているつもりだ。
ボスが殺されたことがそんなにでかかったか。
そんな山賊達を待つつもりはない。
俺は魔力を練り上げる。
俺の周りに氷の矢が生成される。
右手に持っている剣を山賊達の方に向かって振りかざすと勢いよく矢が飛んでいく。
「い、いてぇぇぇ!」「た、たすけてくれぇぇ!」
「し、止血を!」「早くしろ!!」
阿鼻叫喚。
あえて殺さないように脚や腕などを狙った。
あっという間に陣形は崩壊。
騎士達はその様子を茫然と見ていた。
「てめぇぇぇぇぇぇ!!!」
残った山賊達が剣を持って襲いかかってくる。
俺は右手に持っていた剣を消し、新たに氷の槍を生成する。
槍のリーチを生かし、山賊達が俺に到達する前に槍を振るう。
山賊達は躍起になっていたのか、俺を襲うのに横一列にちょうど並んでいたため全員が吹き飛んだ。
全員意識が吹き飛んだようで、気絶していた。
もう、残っている山賊はいない。
振り返って茫然としている騎士達の方に向かう。
「終わりました」
「え、ええ……見事でした。」
「いえ、あなた方のおかげで山賊達も弱っていましたから」
と自分の実力のおかげだけでないというニュアンスを含み騎士に言う。
「そんなことはないと思いますが……申し遅れました。私達はセントラム王国に仕える騎士です。危ないところを助けていただきありがとうございました。」
「いいえ」
彼らのことを助けたことだし、深入りしないようにここらで退散するか。
騎士達と話しながら、そう考えている時、馬車の扉が開き、誰かが出て来た。
「ひ、姫様!まだ、外は危ないです、中にいてください!」
(ひ、姫様!?)
「大丈夫ですよ。それに私達を救ってくれた恩人の方に挨拶しなければいけません」
「い、いえ、しかし……」
「あなた達が挨拶したというのに、その主人たるわたくしが挨拶しないのは無礼というものです」
「……分かりました」
馬車から出てきたのは、一人の美しい少女。
銀色の髪は肩のあたりに切り揃えられており、肌が白く、容姿もとても整っている。
絶世の美少女といっても過言ではない少女がそこにいた。
容姿だけでなく、気品に満ち溢れており、所作がとても洗練されている。
彼女が出てくると騎士達は膝をついて、頭を下げる。
彼女は騎士達の前を歩き俺に近づいてくる。
「危ないところを助けていただきありがとうございました。あなた様が来てくださらなかったらどうなってたことか…………」
「いえ、当たり前の事をしたまでです。」
「ふふっ、お強いのに謙虚ですのね。」
「いえ………」
微笑みながら俺に話しかけてくる彼女。
常人ならその一挙手一投足に目を奪われてしまうかもしれない
だが、俺にはそんな余裕はなかった。
何故なら、俺の予想が合っていたら最悪な人物と関わってしまったかもしれないからだ。
「自己紹介が遅れてしまいましたね。私はセントラム王国第一王女セシリア・セントラムです。」
「…………………ア、アルスと申します」
神様はなんてひどいのだろうか。
俺は人助けという讃えられる行いをしたのにもかかわらず、この仕打ち。
ローブを着けているとはいえ、俺がこの国で最も関わり合いたくない地位の者。
それは王族。
しかも、その中で最も関わり合いたくない人間。
近隣諸国、いや大陸中にその名を轟かせ、その絶世の美貌により白銀の美姫と知られる王女、セシリア・セントラムと俺こと災厄ルクスとの邂逅だった。