第5話 「依頼」
現在俺の眼前には男の拳が迫ってきている。
いきなり絡まれて、穏便に済まそうと努力した結果がこれだ。
ここで殴られても構わないのだけれど、わざとやられたふりをしても相手を増長させるだけだ。
今日かぎりだったらそれでもよかったけど、俺は冒険者になったのだ。これからもギルドには通う。
ここで舐められたら、その度に絡まれるだけだ。
それは流石にめんどくさいし、舐められるのは勘弁だ。
一応俺にも災厄としてのプライドはある。
それに俺は仏ではない。こっちが下手に出てれば、いい気になるこいつらには少し痛い目にあってもらわないとな。
こんな奴らには魔法を使うまでもないか。
俺は迫ってくる二つの拳を一つは半歩横にずれてすれすれで避け、もう一つの拳は相手の腕を絡めとり簡単にいなす。
二人は自分の拳が完全な不意打ちにも関わらず、当たらなかったことに驚いているようだった。
よくもまあ、相手を目の前に驚愕で固まることができるな。
こいつらもしかして俺が反撃しないと思っているのか。
おめでたい奴らだ。
俺は身体的技術を駆使し、一瞬で二人に近づく。
恐らく周りには消えたように見えただろう。
魔法だけでなく、体術も極めているのが災厄だ。
俺は災厄として暗殺の仕事を何回もしてきた。
そのため俺は人間の人体構造を知り尽くしている。
俺は固まっている二人のうち片方の奴にむけて、俺は人差し指でそいつの肩を素早く突く。
すると―――――――――
「い、いてぇぇぇぇ!!!」
「お、おい!どうしたんだ!?」
指を離すと相手は地面に転がり発狂する。
もともと酔っ払って真っ赤だった顔がさらに赤くなって、痛みを訴える。
急に仲間が痛がりだしたことに戸惑うもう一人。
俺がしたことは単純だ。
ただ、相手の肩の関節を外しただけだ。
人体構造をすべて知り尽くしている俺ならこのくらい造作もない。
「おい!てめぇがなにかやったのか!!」
やったのかと聞かれて、はいと答えるわけがない。
なぜ、自分がやったことをいちいち相手に教えなくてはいけないんだ。
戦闘中に余裕ぶって自分の技を相手に解説する奴がたまにいるが、俺はそんなマヌケとは違う。
獅子は兎を狩るのにも全力を尽くす。
俺は獅子とは違って本気は出さないが、優しくやるつもりもない。
俺は答える代わりに相手の額に人差し指をぶつける。
いわゆるデコピンだ。デコピンをした瞬間そのまま後ろに吹っ飛び壁にぶつかった。
一人は地面にうずくまって発狂しており、一人は壁際で気絶している。
(こんなもんか……)
俺はそのまま受付嬢のところに向かい、手に持っていた依頼書を差し出す。
「この依頼を受けたいんですけど」
「………………」
「あのー?」
「……っ!?は、はい!分かりました!!」
固まっていた受付嬢はびくんっとして、やっと俺に対応を始める。依頼書にギルドの判子を押し申請完了だ。
俺は判子を押されたことを確認すると、出口に向かって歩き出す。
(………少し目立ちすぎたか?まあ、こんな時のためにこんな格好をしているんだから別に大丈夫か。)
俺はそう考えた。
さっきまでの出来事を頭の中から振り払いながら初めての依頼に向けてギルドのドアを開けたのだった。
◇
ギルドでの騒動が終わり、俺は現在首都セントリアを出てすぐにある森に来ていた。
この森は比較的安全で、魔物の中で最弱とされているゴブリンが住んでいる。
ゴブリンは新人冒険者が最初に闘う相手としては適任とされている。
だから、Dランクのボードに貼ってあったのだろう。
森は結構大きく分布しており、奥深くまで茂っている。この広さでは普通ならゴブリンを探すだけで人苦労だろう。だが―――――
(サーチ)
俺は周囲を確認するために使われる魔法、サーチを発動する。
サーチは下級魔法で発動するのは簡単だがその効果は個々に依存する。
すべての魔法がそうだ。
同じ位の魔法だからといって、全員が同じ威力とは限らない。
個々の技術や魔力に影響する。
サーチは最も個々で差がでる魔法の一つだ。
普通なら自分を中心とした半径百メートルくらいが一般的だろう。
だが、俺は違う。
俺のサーチは自分を中心とした半径十キロだ。
まあ、これでも組織内(災厄)では一番低いんだけ
ど………
サーチを発動すると頭の中に俺を中心とした半径十キロすべてが浮かぶ。
今回受けた依頼はゴブリンを五匹討伐ということだから、ここら辺がいい狩場かな。
サーチでゴブリンを発見し、早速その場所へ向かう。
強化魔法を自分に施し、木の上をつたいながら移動する。
誰も周囲にいないことでさらに魔力をこめて強化魔法を上げ、身体能力をさらに飛躍させることで素早い移動を可能にさせる。
数分後、目的地に到着した。
そこには緑色の肌に、醜悪な顔をして腰には布切れを巻いており、手には木でできた棍棒を持っている魔物がいた。
これがゴブリンだ。
三匹のゴブリンがそこにおり、雑談でもしているのか向き合いながら楽しそうにしている。
俺は木の上に身を潜ませており、気配を消している。
俺はそこから気づかれないように魔法を発動。
人差し指をゴブリンに向けると指先には青色の魔力が集中し始める。そして―――――
「ショット」
ゴブリンを目掛けて人差し指からでた小さい氷がゴブリンの頭に突き刺ささり、そのまま貫通する。
頭からは肌と同じような緑色の血液がでており、そのままゴブリンは消失し、そこには魔石だけが残る。
魔物の定義とは体内に魔石を宿している生き物のことだ。
魔物は絶滅すると魔石だけ残して跡形もなく消失する。
「グギャア!?」
残り二体のゴブリンは突然の仲間の死により、驚いたような声をあげる。
魔法の出所を必死に探しているようだが、気配を消した俺のことは見つけられない。
「ショット」「ショット」
ぐしゃ。ぐしゃ。
二体のゴブリンの頭を一瞬で貫き、消失するゴブリン。そこには三つの魔石だけが転がっていた。
俺は木から降りて魔石の回収に向かう。
ちなみに魔石は換金所でお金と交換できるが、有り余ったお金を持っている俺からすれば、その制度は意味をなさないが。
ゴブリンを討伐したことの証明はギルドカードで行われる。
魔物を討伐した時、ギルドカードに勝手に記録されるのだ。
それを受付で確認され、依頼成功、または依頼失敗の流れだ。
「さて、あと二匹か……サーチ」
よし、次はあっちだな。ゴブリンの居場所を確認した俺は次の場所へさっそく向かうのだった。
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