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第4話 「冒険者」

「へぇー、なかなか栄えてるな」


 入学試験が終わり一息ついた俺は王都にある城下町まで来ていた。

 ここ首都セントリアは産業が発達しており、貿易なども盛んに行われている。


 市場では人がごった返していて活気にあふれており、道端では露店などがたくさん開かれており香ばしい匂いが漂ってくる。


 そんな場所を歩いている俺だが、さてなんで俺がここに来ているかということなんだが、理由は簡単だ。ただ、暇だから。


 俺は入学試験を受けにセントリアに来るにあたって、災厄として仕事をしていた時に稼いだお金を持ってきている。


 そのお金を使ってこれから住むことになるであろう宿をとった。

 もう、既に3年間分のお金は支払い済みである。

 そこそこな値段はしたが、俺が稼いだお金は一生豪遊したとしても使いきれないほどである。


 入学試験の合格発表は試験会場でもあった学園で行われ、そこで合格した者は入学手続きをする流れだ。

 合格発表は一週間後だ。


 その一週間の間とくに何もすることがなく、宿にずっといるのもなぁと考えていたところ城下町に出掛けようと至ったわけだ。


 こういった場所には慣れていなく、物珍しい物がたくさんあり、思わずキョロキョロしてしまう。


 数十分ほど市場を見て回り、ひと段落したところで俺のお腹がくぅ〜と鳴った。


(そういえば、お昼ご飯食べてなかったな)


 入学試験は午前で終わり、現在はちょうどお昼時。

 試験で動いたこともあり、お腹が空腹を訴えてくる。

 露店から香ばしい匂いが漂ってくるのがさらに空腹に刺激を与える。


(一度食べ歩きってしてみたかったんだよなぁ)


 俺は周りを見回し、いい店がないか探す。

 すると、一際いい匂いがする露店を発見した。

 すぐに露店に向かって歩くと、そこには俺と同い年くらいの女の子が店番をしていた。


 少し中を覗きこむと串刺しになっているに肉が焼かれており、そこの上からなんとも香ばしい匂いを放っているタレが塗られている。


 ヨダレが溢れてくるのを感じ、店番の女の子に話しかける。


「あの、三ついただけますか?」


 本当はもっと買いたかったが、あまりにも買うと店側に失礼かと思い自重しておく。

 まあ、他にも店はたくさんあるし、それが食べ歩きの醍醐味だな。


(ん?)


 いつまでたっても相手からの反応がない。

 確かに俺頼んだよな?聞こえなかったのか?


「……あのー、すみません!」


「ひゃ、ひゃい!!」


「あの、三つください」


「ちょ、ちょっと待ってください…」


 やっぱり聞こえてなかったようだ。

 顔を赤くしているがなんでだろうか。


 そういえば、入学試験のときの受付の人も同じだったな。

 もしかして、流行り病か?

 俺も気をつけないと。


「ど、どうぞ」


「ありがとう」


 串刺し肉を三つ受け取る。

 受けるときに俺も手を出し、彼女の手のひらにお金を払う。

 おおー、この一連のやりとり。

 もう、俺が懸念していたコミュニケーションは完全に大丈夫なようだな。


 少し調子にのった俺は店から離れるとき、微笑みながら軽く会釈する。

 そして、前に向き直って他の店に歩き出す。


 その時、店番の女の子が顔を真っ赤にしてへにゃりと地面に座りこんでいたことにルクスは気づかなかった。







 ◇







「ふぅー、食った、食った。」


 露店を巡り、はや十件。

 さっきまでの空腹は完全に満腹へと変わっていた。


 初めての食べ歩きは最高だった。

 普通に座って食べるよりもなにか、こう、言葉ではよく表せないいいものがある。


 満腹になった俺は、腹ごなしのために少し歩くことにした。喧騒で溢れていた市場から離れるように歩く。


 少し経つといつのまにか商業地区まで来てしまっていた。

 市場とは打って変わって人通りこそあるが、市場と比べと少なく、静かである。


 俺はそんな商業地区を歩いていると、一際目立つ建物を見つけた。

 他の建物と比べると明らかに大きい。


「…………冒険者ギルド?」


 俺から見て建物の前側には大きな文字で冒険者ギルドと書かれていた。


 冒険者ギルド。聞いたことはある。

 確か、冒険者という職業に就いている者が所属している場所であり、冒険者ギルドには日々様々な依頼が入り込む。


 その依頼を冒険者に斡旋するのが冒険者ギルドだ。冒険者はその依頼を受けて、その依頼に応じて報酬を得て生計を立てている。

 冒険者にもランクがあり、ランクに見合った依頼しか受けれないとか。


 確か、S.A.B.C.Dランクの五つに分かれてるんだっけ?現Sランクの冒険者は大陸中にも両手で数えられるくらいしかいなくて、かなり強いとボスが言ってた気がする。


「冒険者か………」


 興味がないといえば嘘になる。

 物は試しでなってみようと考えるが、あれだけ目立つことを控えようと決めていたのに、冒険者になって仮に功績を残してしまえば、注目されてしまうのではないだろうか。


 それは避けたいところだが、だが好奇心というのは簡単に止められるものではない。


 冒険者ギルドの前で悩むこと数分―――――――


(………よし、なろう)


 俺の中で好奇心が勝った。

 いや、だってしょうがない。未知なることは気になるもの。


 ボスだって、俺に人として成長しろと言ってた。

 冒険者になることで成長することに少なからず関わっていくと思う。

 そう考えて自分を正当化していく。


(でも、さすがに保険はかけとくか)


 そう決めて、俺は一旦市場の方に戻ることにした。







 ◇







「おい、あいつ誰だ?」「いや、見たことねぇな」

「変な格好の奴だな」 「新人か?」


 さっきまで喧騒に包まれていた冒険者ギルドが急に静かになる。

 それはさっき入って来た者が理由だ。


 ローブを纏っており、顔が隠れている。

 冒険者ギルドで顔を隠してはいけないというルールは存在しないが、そんな事をしている人は見たことがない、それがここに所属している冒険者の見解だった。


 そんな怪しい者が急に入ってきたら、注目を集めるだろう。

 それは必然である。


 そんな怪しい者はというと…………







 ◇







 はい、俺です。

 怪しい者は俺です。


 冒険者になるにあたって決めたことは冒険者でいる間はこの格好でいるということだ。

 顔が見えないこの格好はいろいろと都合がいい。


 顔が見えないことで俺の生活を二つに分けることができる。

 俺という一人の人間を二つの側面に分けるのだ。


 そうすれば冒険者の俺が注目を浴びても、学園での俺は注目は浴びない。

 それはまた逆も然りである。


 こんな変な格好では目立ってしまうけど、まあ時間が経てば気にならなくなるだろう。


 俺は周りの視線に気づきつつも、冒険者登録をするために受付にいる受付嬢のところまで歩いていく。

 俺を見た受付嬢は目を見開いていたが、すぐに表情を直し笑顔を作る。


「冒険者ギルドへようこそ!本日はどういったご用件でしょうか?」


「冒険者登録をお願いします。」


「かしこまりました。では、ここにお名前と年齢、ご自分が使用される武器を書いてください。」


 と俺と受付嬢の話しはトントン拍子で進んでいく。

 武器は片手剣で年齢はそのままでいいとして、名前はどうしよう?考えていなかった。


 当然同じ名前にしてしまったら、この格好の意味はなくなる。

 偽名を考えなくてはいけないが、そう簡単に思いつきはしない。

 だが、考えすぎると受付嬢に不審がられるだろう。


 考えること刹那の一瞬、思いついた名前があった。

 その名前を書くことにする。


「はい、ご記入ありがとうございます。()()()様ですね。ではこれから冒険者証を発行致します。しばしお待ちください」


 受付嬢が発行しに行く。


 そう、俺が思いついた名前はアルスだ。何故、アルスにしたかというと、それは自分の名前を反芻していたら、何故か思いついたからだ。


 ルクスとアルスってどことなく似てる気がする。


 あまりに違った名前にすれば、突然名前を呼ばれた時に反応が遅れてしまうだろう。

 だが、少しは似ている名前にすれば、その弊害も少しは防げるというものだ。


 しばらくすると受付嬢が戻ってきた。手には銅色のカードが握られている。


「お待たせしました。こちらアルス様の冒険者証です。Dランクから始まりです。冒険者証は冒険者であることを示すと同時に身分証明書にもなりますので無くさないように気をつけてください」


「分かりました。」


 冒険者証が渡される。

 これでも俺も冒険者だ。

 少しわくわくしている俺がいる。


 受付嬢が冒険者の説明を聞きたいかと聞いくるが、大丈夫と断りを入れる。

 さすがの俺でも視線を浴びすぎて一刻も早くここを離れたくなったからだ。


 そうだ、ギルドを出るんだったらついでに依頼を受けよう。

 そう決めた俺は早速依頼が貼ってあるボードの前に行く。


 Dランクの依頼は主に薬草の採取や町でのお手伝い。

 後は魔物としては最弱とされるゴブリンの討伐くらいだ。

 まあ、一番下のランクだしこんなものだろう。


 俺はゴブリン討伐の依頼を受けることに決めて、ボードに貼ってある依頼の紙を剥がし、受付に持っていく。


 受付まで歩いていこうとすると、突如前に立ち塞がった二つの姿があった。

 どちらも強面の顔にガタイのいい体躯。

 さっきまでテーブルで酒を飲んでいた冒険者だった。顔を赤くしており、酔っ払っているようだ。


「おい!お前ぇ!新人のくせに俺らに挨拶がないとはどういう了見だぁ!!」


「新人は俺らに挨拶に来ることがここの掟だろうがぁ!!」


 と俺にドスが効いた大きな声で俺に言ってくる。


(いや、挨拶に行くとか知らないし)


 初めて来たのだ。

 そんな事知るはずがない。

 他の冒険者はこの状況をニヤニヤと見ている。

 

 受付嬢は額に手を当て、ため息をしている。

 なるほど、これが初めてではないようだ。


「おい、聞いてんのか!!」


 うるさいし、酒臭い。

 正直喋らないで欲しいし、関わらないで欲しい。


 でも、穏便に済ますには仕方ないか。


「ご挨拶遅れてすみません。新人のアルスです。よろしくお願いします」


 とできるだけ丁寧に言う。相手の要求をのんでやったんだ。早く解放してほしい。


「ふざけんな!!」


 そう言って、二人が一斉に殴りかかってきた。

 多分、この二人はただ俺に絡みたかっただけなのだ。そのための口実だったのだろう。


 というより―――――――――


(俺にどうしろと……………?)



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