第3話 「入学試験 Ⅲ」
最初に仕掛けたのは彼女だった。
魔法を発動するため詠唱を始める。
魔法は一般的には詠唱を行うことで発動できる。中には無詠唱という詠唱無しで発動できる者もいるが、学生レベルでは無理なのだろう。
だが、最初から良い情報を手に入れた。詠唱なしでは魔法を発動することができない。
いや、同年代の者全員がそうとは限らないが、とりあえずここは彼女に合わせてといた方がいいだろう。
そんな事を考えているうちに彼女の詠唱が終了する。
彼女の周りに火の玉が浮かび始め、彼女が俺に向けて手を振りかざすと火の玉が勢いよく飛んできた。
(ふむ、詠唱による魔法で下級魔法か……確かファイアーボールだったか?)
魔法は上級、中級、下級魔法があり、ランクが上がるごとに難易度も格段に変わってくる。実際には上級の上にもまだあるんだが割愛しとこう。
火の玉が向かってくる途中でルクスは自分に強化魔法を発動する。
発動によって身体的能力が急激に向上する。
ファイアーボールがルクスに当たる瞬間、身体を半歩横にずらし最小限の動きで躱す。
彼女は躱すことを予期していたのか、既に詠唱に入っていた。俺がすべてのファイアーボールを躱す時には詠唱が終わり、魔法を発動した。
すると、周りの地面が隆起し、俺を覆うように大きな壁ができる。
(これは、ロックウォール。なるほど、俺の逃げ場を無くしたか。)
とルクスが考察しているうちに、彼女はさらに詠唱を始めていた。
剣を持ってはいるが純粋な魔法師タイプなのだろうかと考えていると、その間に彼女は魔法を発動。
さっき発動したファイアーボールよりも一回り大きく、火というよりマグマ。
それは下級ではなく、中級。
ヘルファイアボール。
ファイアボールの完全上位互換といったところの魔法だ。
だが、さすがの俺でもこれをもろにくらうと、少しくらい火傷するかも。それは嫌だ。
彼女はヘルファイアボールを俺に向かって、飛ばす。
周りに壁があるから逃げ場がない。
どうやって対応しようかと悠長に考えてうちに、だんだんと近づいてくる。
(これが一番手っ取り早いか)
そう決めた俺は詠唱するふりをして、手に氷の剣を生成する。
正直、貸し出しの武器より自分で生成した武器の方が遥かに丈夫だ。
ヘルファイアボールが既に俺の目の前に来ていた。
観客は勝負あったと確信した顔をしている。
しかし、ここで終わってしまえば確実に俺には加点されないだろう。
それは回避しときたいので、少しだけ実力を見せることにする。
(まあ、上級ならまだしも中級なら大丈夫か)
ヘルファイアボールが俺にぶつかる瞬間、俺は無詠唱で魔法を発動し、周りにバレないようにヘルファイアボールを凍らせる。
そこを俺は氷の剣で斬った。
ヘルファイアボールは二つに分裂し、後ろにあった壁に激突し強烈な爆風が巻き起こる。
少し経った後、爆風が止み俺は氷の剣を構えて彼女を見据えた。
彼女は目を丸くしていて、驚いている様子が伝わってくる。
観客も一緒でみんな一様に目を丸くしていた。
(もしかして、少しまずかったかな?中級なら防いでも大丈夫だと思ったんだけど。それとも斬ったことに問題があったか?)
少し下方修正しといた方がいいなと俺は考える。
次あたり、一発食らっとくか?
そんな事を考えていたら、彼女が驚いた表情で―――
「魔法で剣を生成するだけでなく、それに加え中級魔法を斬るとは……………」
と言った。
これは俺に話しかけてきたのか?それとも独り言か?
まあ、どちらでもいいがさっきのはやはりまずかったようだ。
いや、でもどのくらいがやりすぎなのかとか分からないし。
魔法を斬るのは普通じゃないの?
普通とはかけ離れすぎたところで過ごしていたからなぁ。
まあ、終わってしまったことを気にしてもしょうがない。切り替えよう。
そして――――――
(これからのプランが定まった)
「いえ、しかし私にもプライドがあります。このまま負けるわけにはいきません」
そう、彼女は言う。そのいきでがんばってほしい。そうすれば、俺のプランは成功する。
「いきます!」
彼女は強化魔法を発動し、俺に向かって突撃してきた。遠距離戦の後は近距離戦か。
彼女が俺にむかって剣を振り下ろす。
俺はそれを氷の剣で受け止める。
そのまま、鍔迫り合いになるが俺が彼女の剣を跳ね返し、後ろに下がる。
彼女はすぐに追撃をかけてくる。
フェイントを交えながら剣を振るってくるあたり、そこそこ戦闘慣れもしている。
剣の太刀筋も綺麗だ。
だからこそ、彼女は適任だ。
今思えば、本当に彼女が対戦相手で良かった。
もう、充分に加点はされただろうし、これなら筆記試験とあわせて合格もできるだろう。
だから、安心して負けられる。
今周りから俺は彼女の猛攻を必死に防いでいるという姿で彼らの目には写っているだろう。
ここら辺が潮時だな。もう、充分に攻撃は防いだ。
俺は氷の剣を意図的に強度を弱くした。彼女との打ち合いの最中に。
案の定俺の氷の剣はパリンっと砕けた。彼女は驚いた表情をしているが、すぐ様俺の首元に剣を添える。
俺は両手を上げて、降参の意を示す。
「勝負あり!勝者、アリス・センテカルド!」
試験官がそこで判定を口にする。すると、観客席から大きな拍手が起こった。
観客全員が興奮している様子だ。
正直、この程度の茶番で盛り上がるって………と思いはするが、それが彼らのレベルなのだろう。
相手のアリスっていう女の子はこれから伸びるだろうな。
立ち会った感じ、伸び代を感じた。
アリスは釈然としないような顔をしていたが、勝ちは勝ちだ。
君の勝利だ。
とりあえず…………プラン成功
これで俺の実技試験は幕を閉じた。