第25話 「実技Ⅱ」
「危ない!」
俺は発動された魔法に気付いていない王女様に向かって叫ぶ。王女様はその声によってようやく自身に向かってくる魔法に気付いた。
「っ!」
王女様は驚いてか、咄嗟にしゃがみ込みうずくまるように伏せる。身を守るような格好をとった。
(せめて逃げろよ!)
発動された魔法は先程アリスが見本で見せた火魔法の下級ファイアーボールだ。下級だけあって速度も遅く、威力も弱いので冷静であれば充分に発動されてから気付いても対処できるのだが、急な事態だったからか、王女様は自力で対処できないでいる。
挙げ句の果てにびっくりしてうずくまってしまうという行動に出てしまった。これでは当ててくださいと言っているようなものだ。王女様は優秀だが、こういったところに実戦経験の無さがもろに出てしまっている。いや、王女様だからか。
下級のファイアーボールとはいえ、直撃すれば服は燃えるし火傷もする。無事では済まない。
俺は王女様と自分との距離を一瞬にして把握し、このまま普通に動いたのでは追いつかないと判断する。自分に強化魔法を施す。それも少しではない。一瞬にして自分の能力を極限にまで上昇させる。他の生徒達は唖然としその光景に見入ってしまっている。
だから、俺が強化魔法を発動したところは誰にも見られていない。それに魔力を巧みに操作し、バレないように発動した。
俺は地面を強く踏み込み、その瞬間景色が変わる。一瞬にして目の前にはうずくまっている王女様の元へ到着する。まるで最初からそこにいたかのように。
俺は王女様をすぐに抱えてファイアーボールの事象範囲から離れる。その後すぐにファイアーボールは地面にぶつかり、その場所は焦げた後が残った。
この一連の流れはあっという間の出来事だった。
俺は呆然としている生徒達に見られながら、腕の中の王女様へと話しかける。
「大丈夫ですか?」
すると、目を瞑ってビクついていた王女様だったが、ゆっくりと目を開ける。開いた目が俺の視線とぶつかる。まだ、状況を理解していないのか混乱の様子が見えたが、すぐに今の状況を理解したようだ。
「……ルクス様が助けてくださったのですか?」
「はい」
俺は素直にそう頷く。
「危ないところをありがとうございました。」
「いえ、王女様が無事で良かったです。」
そう微笑みかけると、王女様が顔を逸らすように俯く。王女様を安心させようと俺渾身の微笑みだったのだが、王女様には効かなかったようだ。というか見るのすら耐えられないのか、、、。
「あの……この格好は少し恥ずかしいので下ろしてもらってよろしいでしょうか?」
「あっ……すみません。」
側から見ると俺が王女様をお姫様抱っこし、王女様の顔と俺の顔が近づき合っていて今にでもキスするのではないかという構図が出来上がっていた。
俺はすぐに王女様を下ろし、俺の補助を受けながらも地面に降り立つ。そこで周りの生徒達もハッとして、すぐに王女様の元へ向かった。王女様を取り囲むようにして、王女様を気遣うような声や心配そうな声が飛び交う。
王女様に魔法を飛ばしてしまった生徒は顔を真っ青にして王女様にこれでもかというくらい腰を折って謝っていた。それに対し王女様は微笑みながら、「大丈夫ですよ気にしないでください」と相手を気遣うように言う。本当に容姿だけではなく、内面まで聖女様のようだ。
もう俺はお役御免かと思い、王女様から離れようとするが
「きゃっ!」
「おっと、、、」
王女様から手を離した瞬間、王女様がバランスを崩し、俺へともたれるように倒れた。
「も、申し訳ありません。足が震えてしまっていて」
「いえ、大丈夫ですが、、、」
王女様が俺に抱きつくようにもたれかかっている今の状況は周りからすごく注目され視線を集めている。
正直、今の状況はあまり好ましくない。だが、王女様を地面に倒させるわけにはいかない。仕方なく王女様の身体を支えるようにする。
「大丈夫か、セシリア!?」
そこで先生がやって来た。闘技場が広いので、生徒全員を見れるように観客席にいた先生は慌てて駆けつけてくる。まあ、一国の王女様が授業中に怪我でもしたら、監督者責任として先生が責任を負いかねないしな。
「はい。ルクス様が助けてくださったので、、、」
「はぁ、良かった。ルクスよくやってくれたな」
「は、はい。」
先生は俺に向かって強く褒めてくる。王女様に怪我が無いことを確認すると安心するように息を吐いた。
「先生、足が震えてしまっていて授業を続行するのは少し難しいかもしれません。申し訳ありませんが………」
「いや、仕方ないことだ。ルクス、悪いがセシリアを保健室まで連れて行って貰えるか?」
(なんで俺!?)
そう思いはしたが、よくよく考えると今の状況からしたら俺が王女様を運ぶのは当たり前だ。それに頼まれた時点で断ったりしたら王女様に対して無礼にあたる。
「分かりました。」
先生に向かって頷く。
「ルクス様、度々申し訳ありませんが、よろしくお願いします。」
「はい、それでは失礼しますね。」
そう断って、先程のようにひょいっと王女様を抱える。しっかりと断ったはずだが、王女様の身体がびくんっとしたのが分かった。
そして、歩き出すと集まっていた生徒達が道を開けるように散らばり始める。生徒達の視線を一心に受けながら、少し鋭い視線があることに気付いた俺は横目でそちらの方を見る。
その方向にはアリスがいた。むすぅとしたようにジト目で俺を睨んでくる。さっきのことをまだ引っ張っているのかと思ったが、それは違うなと思い直す。
(王女様のことは自分が助けたかったのか)
よく分からない奴だが、本当に騎士みたいな性格をしているなと思いながら、保健室に向かった。
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