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第24話 「実技」

 

 王女様が学園にやって来て1週間が経った。当初浮き足立っていた生徒達も1週間経てば元通りになるかと思われたが、全然そんなことはなかった。


 ここ1週間はSクラスに他のクラスから王女様を一目見ようと多くの生徒達が押し寄せてきた。上級生も例外ではない。


 静かに落ち着いた学園生活を送りたい俺からすれば迷惑だが、セシリア・セントラムという王女様はそれほどまで有名なのだろう。聞いたことはあったが、実際に見るのと聞くのとでは全く違う。


 かの有名な法国の聖女様と同じくらい人気があるのではないかと思ってしまう。まあ、それはないだろうが。


 ここ1週間はなるべく王女様と関わらないように過ごしてきた。王女様が俺を覚えているかは定かではないが、用心しといて損はない。今のところは王女様から俺に接触はしてきておらず、この1週間でも話したのはアリスを挟んだ時だけだ。


 アリスは入学当初の頃では信じられないくらい今では友好的に接してくる。特にここ最近は特に多く関わってくる気がするのだ。


 王女様とアリスは幼なじみで顔馴染みなだけあり、学園では毎日共に行動している。なので、アリスが俺に関わるということは必然的に王女様も付いてくるのだ。王女様とあまり関わりたくない俺からすれば、いい迷惑なのだが、無我にすることもできない。


 それに学園の有名人である2人が俺と一緒にいるだけで、俺まで注目されるのだ。負の連鎖である。


 昼休みに共に食堂にやってくる姿はもはや学園では一種の名物と化している。食事を取らないのに2人が現れる姿を見るためだけに食堂へと行く生徒もいるくらいだ。


 アリスが金髪、王女様は銀髪ということでお互い対照的な髪色な事も目立つ要因であるし、大前提として2人とも絶世の美少女なのである。俺はよく分からないが周りはそう言ってるし、ケイヒルは2人の姿を見て毎日興奮している。ただの変態である。


 まあ、とりあえず俺としては王女様が俺のことを覚えてないこと、または覚えていたとしても気付いてないことを確認できればよかったのだ。その意味では、この1週間に王女様が気づいたような反応はなかったので良い確認期間となった。


 まだ、安心はできないが少なくとも俺のことは何も思ってないみたいだ。だが、まだまだ油断はできない。気を引き締めなければ。



 現在は魔法学の授業だ。魔法学には座学と実技がある。座学は魔法の種類や性質、詠唱など魔法に関する様々な事を学び、実技では座学で習ったことを実践するのである。


 今行われている授業は魔法学の実技だ。クラス全員が広々とした闘技場にやってきており、生徒達の前に立っている教師の話に耳を傾けている。


「今回の授業ではこれまで座学で習った魔法を実際に使ってみよう。今回は初めての実技なので成績に関わらないので気楽にやってみてください。」


 実技授業は毎週あるのではなく、座学の授業を何回か受けて一区切りしたら実施する感じだ。

 なので、今回の実技授業は初めてだった。


 教師は気軽にやれと言っているが、このクラスは優秀な生徒が集まっているSクラス。みんなの顔を見渡すかぎり気合が入っているのがはっきりと分かる。


 普段授業では毎回爆睡しているケイヒルも珍しく気合が入っているようだ。いや、こいつは眠くなる座学より身体を動かせられる実技の方が性に合っているからか。


 もちろん俺も気合は入っている。


(目立たないように力を抑えなければ)


 学園にやってきてから実技は入試の試験以来だ。あの時は少々やらかしてしまったが、今回はあの時みたい下手は打たない。


 そう自ら発破をかけていると―――――――


「そうだ、最初に誰かに見本でも見せて貰おうか。じゃあ、アリスとルクス前に来てくれ」


(ぶふぉっ!)


 いきなりの教師の爆弾発言に俺は内心で吐血する。優秀で有名なアリスは分かるが何故俺なのだ。確かに気合は入れてたし、もう失敗はしないと誓った。だが、全員が注目している場で魔法を使うのは違う。万が一ということもあるのだ。


(いや、今回は大丈夫なはずだ。魔法を発動するだけだ。しかも、決められた魔法をだ。焦る必要はない。)


 そう自分に言い聞かせ落ち着こうとする。


 生徒達の視線は俺とアリスに集中しており逃げられる雰囲気でもない。若干1人ニヤニヤした視線を感じたので、後でケイヒルは殴ることにする。


 アリスが前に歩き出したのを見て、俺も歩き出す。そして、全員の前に出ると俺はせめてもの抵抗に教師に問いかける。


「なんで俺なんですか?アリス様は分かりますけど」

「なんでって、、アリスは入試で首席だし、お前は次席だろ?クラスで2人が1番優秀だからだよ」


 そういえばと俺は自分が次席だったことを思い出す。先生の返しはぐぅの音も出ないほど正論だった。

 俺の本来の実力を知っているアリスは首を大きく振っている。同意するな。


 あと、若干ジト目で俺の方を見てくる。前に呼び捨てで構わないと言われたが、結局さん付けで落ち着いた。だが、アリスを救出した出来事が終わった後、さん付けもやめてほしいと改めて言われたのだ。


 さすがに呼び捨てはだめだろと思い反論したが、あまりにもアリスが強く言ってくるため結局呼び捨てで呼ぶことが決まった。


 しかし、多くの人の前で呼び捨てで呼ぶのはさすがに憚られる。片方は平民、もう片方は大貴族様なのだ。当たり前だろう。


 だが、アリスにとってみんなの前だろうと俺が様付けで呼んだのが気に入らなかったらしい。アリスの表情で俺はそれを読み取った。


(後でなにか言われるんだろうな、、、)


 そんな憂鬱な気分になっていると―――――


「では、最初にアリスからやってみてくれ。アリスの適性魔法は確か火だったな。火魔法の下級、ファイアーボールを発動してみてくれ。」

「分かりました。」


 アリスは返事をすると、誰もいない生徒達の反対方向に手をかざし丁寧に詠唱を始める。

 数秒のうちに詠唱は終わり、手に魔法陣が浮かび上がりファイアーボールが発動された。


 ファイアーボールは地面にぶつかり、ぶつかった箇所は焦げている。


 そこまで終わると後ろからクラス全員の拍手が闘技場に響いた。


「さすがだなアリス。完璧だ。」


 教師もそう言って、アリスを褒める。

 俺からすれば訂正箇所はいくつかあり完璧ではないのだが、まあ今はそこはどうでもいい。次は俺の番だ。


「次はルクス。確かお前の適性魔法は氷だったな。では、氷魔法の下級、アイスボールを発動してくれ。」


 俺は先生の言葉にこくんと頷くと先程のアリスと同じように手をかざす。


 俺が懸念しているのは魔法の威力だ。魔法は魔力操作によってその威力は一から十まで変わる。下級魔法だろうと使い手によっては中級魔法の威力まで上がる場合がある。


 幼いころから組織で魔力の扱いを修練したので、魔力操作はお手のものだ。やろうと思えば下級魔法だろうと中級以上に引き上げられる。これまでの戦闘でもそうやってきた。しかし―――――――


(自分から威力を下げるのは初めてだ。)


 当たり前だが、戦闘中に自ら魔法の威力を下げることはない。俺は無意識で魔法の威力を十まで引き上げる魔力操作が体に染みこんでいるのだ。そうでないと強敵とは渡り合えない。


 だから、今回のことは初めての試みであった。いくら災厄として世界に名前を轟かせる俺でも初めて行うことは緊張するし、それに状況が状況だ。失敗は許されない。


 ゆっくりと魔力を練り上げる。普段は無意識に発動する魔法をこれでもかと意識する。練り上げすぎないように、魔力を身体の隅々に分散させる。


(………よし)


 そして、発動。発動されたアイスボールは地面にぶつかり、地面が凍りつく。その事象は先程のアリスが発動した魔法となんら変わりはなかった。


「よし、よくできたなルクス。」


 先生がそう言い、先程と同じように拍手が起こった。


(良かった………)


 成功したことに一安心する。横からアリスがむぅとしているのが見えるが無視する。俺が実力を出さないのが不服らしい。


「それじゃあ、2人の見本を見たところで早速全員試したみよう。」


 先生がそう言うと生徒達はみな距離を取って、それぞれ離れていく。お互いの魔法が当たらないように生徒間の距離を離すのだ。下級魔法自体、飛距離はそこまでないので全員が一斉に行うようだ。


「悪いがアリスとルクスは指導役にまわってもらえるか?お前らはこのレベルの授業なら大丈夫だろう。まあ、このクラスなら全員大丈夫だとは思うが。」

「分かりました。」


 アリスは素直に頷く。俺はめんどくさいと思ったが、アリスが了承してしまったので断りづらく、渋々了承する。


「それじゃあ、2人ともよろしく頼むぞ。」


 先生はそう言い、闘技場を一望できるところまで歩いていく。その場所には俺とアリスだけが残される。


「じゃあ、俺はあっちに行くから。」

「分かりました。」


 そう言って、適当な場所に向かおうとするが、、、


「待ってください。」

「ん?」


 そう呼び止められて、振り返る。


「何故、先程私のことを様付けで呼んだのですか?」

「いや、だってクラスのみんなの前だったし、、、」

「人の前でも様付けはやめてください。」

「いや、でも…………」

「分かりましたか?」

「は、はい。」


 強い口調でそう言ってくるため思わず頷いてしまう。


「というか、なんでそんなに呼び捨てにこだわるんだ?」


 アリスが呼び捨てに異常にこだわるので何か理由があるのではないかと思い聞いてみたが、、、


「、、、、、壁を作られているみたいで嫌なのです」

「ん?なんだって?」


 あまりにも小声のため聞き取ることができなかった。ぼそぼそと俯いて呟くように話す様は俺に話すつもりがないみたいだ。そんなに俺の事嫌いか。


「な、なんでもありません!」


 アリスはそういって歩き出してしまった。ほのかに耳が赤くなっていることが後ろから見て分かる。


「なんだったんだ一体……………」


 よく分からなかったが、俺も指導役として生徒達の元に向かった。俺とアリスが話している間に既に魔法の練習が行われていた。

 やはりSクラスということもあり、目立って失敗するような奴はいなかった。あのケイヒルでさえ、しっかりとできてる。


 これは指導するところはないだろうと気楽に見ていくことにした。丁度その時、視界に王女様の姿が目に入った。さすがは王女様。魔法の練度は他の生徒達と比べて頭一つ抜けている。優秀というのは本当なようだ。


 その時、俺はある違和感を覚えた。王女様のいる位置が他の生徒と近いというか、明らかに生徒間の距離が狭い。その時だった――――――――


「っ!?」


 王女様から最も近くで魔法の練習をしていた生徒が詠唱を始めた。明らかに魔法が発動された場合の事象範囲に王女様はいる。だが、その生徒は詠唱に集中しており、周りが見えていない。王女様の存在に気付いていないのだ。


 王女様の視覚外にいるので、王女様も気付いていない。そして、詠唱が終了。魔法陣が浮かび上がったのを見て、俺はすぐに駆けつけたのだった。



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