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第23話 「緊迫」

遅くなってしまい申し訳ありません。

 

(さらば、俺の学園生活………)


 俺は諦観の念を抱いて、目をぎゅっと瞑った。

 そして、彼女からの言葉を待った。


 すると―――――


「アリスではありませんか!」

「お久しぶりですね、セシリア様」


 王女様の驚いたかのような声が聞こえた。

 その声を聞き俺はゆっくりと目を開けながら、二人のやりとりを盗み見するかのように見た。


「お久しぶりね、アリス。最近、全く顔を見せに来てくださらないですもの」

「申し訳ありません、最近は鍛錬に時間を割いていまして………」

「それは仕方ありませんけど、たまには昔みたいに顔を見せに来てくださいね?」

「ええ、喜んで」


 とクラス全員の注目を浴びながら話す二人。


「授業開始のチャイムはとっくに鳴ったんだ、早く座りなさい」

「はい、申し訳ありません」


 アリスと話していて、席に座らない王女様を注意するスネイル先生。

 注意された王女様はそのまま歩きだし席に着いた。


 席順は俺の隣にケイヒルが座っていて、俺の対面にアリスが座っている形だから、アリスの隣、俺の斜めに座ることになった。テーブルを挟んで男と女に分かれた形となった。


「アイザック先生は用事があって遅れるらしいから、それまで静かにしているように。それとアリス、セシリアを班で色々と気遣ってあげてくれ」


 そう言って、スネイル先生は教室から出て行った。


(………す、すごいな)


 スネイル先生が出て行った瞬間、俺達の班に物凄い数の視線が向けられた。

 ほとんどの者達がそわそわしていて王女様と話したいみたいだった。


 だが、現在は授業の最中だ。

 Sクラスともなると優等生が多い。

 スネイル先生の言いつけをしっかりと守って、各人それぞれが自習の用意をし始める。


(よし、この流れに乗って俺も自習をして目立たないようにしよう。)


 班活動の授業だから、お互いが向き合っている形となっているので顔を隠すことはできないが、目立たないようにすることはできる。


 班活動でも俺は極力話さず、積極的に参加しないことがこの時間のベストだ。


 俺がそんな事を考えながら、自習の準備をし始めようとした時だった。


「俺はケイヒルって言います!よろしくお願いします!!」


 周りの空気を読まずに話し始めた馬鹿(ケイヒル)が現れた。


 だが、考えてみれば当たり前の事だ。女が大好きなこいつが王女様を目の前にして先生の言いつけを守るわけがない。当然の結果だった。


(………まずい)


 そんなケイヒルを他所に俺は焦っていた。

 俺以外の奴らが話すならともかく、今は班という形になっている状態だ。


 ケイヒルが話し始めることによって、俺が巻き込まれる可能性は十分にあり得る。

 目立ちたくない、厳密には王女様と関わりたくない俺からすれば最悪だ。


(ここは阻止しなければ……)


 俺は自習の準備の手を止め、ケイヒルの方を向いた。


「おい、ケイヒル。さっきスネイル先生が静かにしてろと言っただろ。一応、今は授業中だし、授業終わってからでも話せるだろ?」

「でもよ、全く面識のない状態で班活動してもいろいろとやりづらいだろ?この時間を使ってコミュニケーション取った方がいいだろ」


(くそ!こいつ、珍しく真面目な事を言いやがって)


 ケイヒルの言葉に言い淀んでしまう俺。確かにケイヒルの言う通りだった。

 だが、ここで退くわけにもいかない。


「だけど、今は一応授業中だしな………」


「いえ、彼の提案は良いと思います。」


 俺の必死の抵抗の最中、アリスが入ってきた。


「セシリア様は私以外全く面識がなく、これから班活動することに不安もあることでしょう。今は授業中で静かにしないといけないというルクスの考えも分かりますが、何事にも例外はあります。」


(うぅ…………)


 俺の抵抗があっさり弾き飛ばされた。ここまで言われて反論すると、逆に王女様を無下にしているみたいになる。


(仕方ない………)


 俺は諦めることにした。いや、諦めることになった。


「さっすがアリス様!ルクスと違って、分かってますね!!」

「それでは私が他者紹介していきますね、セシリア様」

「はい、よろしくお願いしますね、アリス」


 スルーされるケイヒルを他所にアリスは俺らを見ながら、紹介を始めた。


「彼はケイヒルという男です。軽薄な男なので気をつけてくださいね、セシリア様。」

「ちょっ、酷いですよ、アリス様!!」


 アリスの紹介にケイヒルは慌てて口を挟む。個人的にはこれ以上ないケイヒルの的を得た紹介だった。


「ふふっ、ケイヒル様は面白いお方なのですね、よろしくお願い致しますね」


 そんな紹介に対し、上品に笑いながら一礼する王女様。ケイヒルに対しこの態度。内面も完璧というのは本当の話のようだ。


 一方のケイヒルは上品に微笑む王女様に見惚れていた。いや、ケイヒルだけではない。分かってはいたが、俺達が話し始めた時からまた視線が集中し始めていた。


 その中の大半の男子もケイヒルと同じように王女様の微笑みに釘付けにされてしまったようだ。


 だが、そんな中俺は心配していた。


(頼むからケイヒルと同じように淡白な紹介にしてくれ)


 そして、アリスが俺に目を向け、紹介をし始めた。


「彼はルクスと言います。先程のやりとりで少しお分りになられたかもしれませんが、真面目な男です。ですが、真面目なだけではなく、臨機応変に物事に対処することもでき、また勉学や魔法にも秀でていて、入試も私に次いで次席でした。」


(…………)


「人に厳しいアリスがそこまで言うなんて………とても素晴らしいお方なのですね」

「あ、ありがとうこざい…ます」


  驚いた表情をした王女様が俺に顔を向けてくる。というより、王女様だけでなく、俺も驚いてしまった。

 あの一件で関係は修復したと思ってはいたが、そこまで好印象を持たれているとは思っていなかったからだ。


 驚きと同時に焦りも出てくる。アリスの紹介のせいで王女様が俺をずっと見てくる。

 せめてもの抵抗に少し顔を下げる俺。顔を見られるのは同じクラスだから仕方ないが、あまり顔をじろじろと見られたくない。


 俺の事を見た王女様だが、特になんのリアクションもしていない。


(もしかして、忘れてくれたか?)


 そんな期待を持ってしまうが、油断はできない。

 三日程様子を見てみないとなんとも言えない。

 少なくと三日は目立たないことに徹する必要がある。


(だけど、一応一安心ではあるか……)


 そう思い、少し肩の力を抜く。


「アリス様…………」

「なんですか?」


 ある意味、王女様から解放されたケイヒルは不満気な顔をアリスに向ける。


「俺の紹介と違いすぎて酷いですよ!ルクスが女受けいいのは分りますけど、贔屓は良くないですよ!」

「べ、べつに私はルクスの事を贔屓なんかしていません!事実を言ったまでです!!」


 とケイヒルの言葉に対し、少し焦りながら言うアリス。


「そうですか?他の男子は名前で呼ばないのにルクスの事は名前で呼びますし……もしかして、ルクスの事好きなんですか?」


 とニヤニヤしながら言うケイヒル。


(いきなり何を言いだすかと思えば………そんな挑発みたいな言葉に乗らないだろ)


 とアリスの性格を考えながら、そう思う。


「なっ…………何を言っているのですか!?」


 顔を真っ赤にしながら、立ち上がって声を大きくして言うアリス。

 どう見てもかなり動転しているように見える。こんな動転したアリスは拉致された時でも見なかった。


「冗談ですよ、そんな本気にならないでくださいよ」


 ケイヒル自身は冗談で言ったつもりだったが、あまりのリアクションに驚いてしまう。

 他のクラスメイトもそうだ。いつも凛としているアリスからは想像もできない様子だった。


「っ!」


 アリスも過剰に否定しすぎてしまったことで逆に注目を浴びていることに気づき、咳払いを一回して座った。


「学生の本分は勉学ですから。恋愛などうつつを抜かす暇などありません。」


 アリスはそう言い、普段の様子へと戻った。


「ルクス様()()()()よろしくお願い致しますね」


 王女様が場を仕切り直すように俺に向かって言う。


「はい、よろしくお願いします」


 一波乱あったが、これで一応紹介は終わった形となった。自己紹介ではなく、他者紹介という形を取ってくれたおかげであまり関わらずに済んだ。


「気になったんですけど、アリス様とセシリア様の関係って………?」


 ケイヒルが突然疑問を口にした。


「私とセシリア様は幼馴染です。」


 先程の事をまだ気にしているのか、少し棘のある口調で言うアリス。


(なるほど)


 王女様と公爵令嬢だから、知り合いでもおかしくはないだろうが、二人からは知り合い以上の仲の良さを感じた。だから、二人の関係に得心がいった。



 そんな時、丁度良いタイミングでアイザック先生が入ってきた。

 ここで各自のやっていたことは一旦終了となる。


(なんとか乗り切った……)


 あとは実習だが、王女様が一応俺の事を今の時点で気づいていない可能性が高い事は分かった。


(実習も油断はできないがなんとかなりそうだ)


 王女様が現れた時はどうなるかと思ったが、どうにかなりそうだ。そう思い、俺は一安心する。



 その時、俺は後ろからの眼差しに気づいてなかった。




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