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第17話 「危機」

 

「うぅ………」


 身体がものすごく重い。

 頭痛もひどく、意識が朦朧としています。

 頭痛のせいで正常な思考ができません。


(私は一体………?)


 思考しようとすると頭に鈍い痛みを感じさせます。何回も頭を働かせようとしますが、その度に鈍い痛みが私の邪魔をします。


 今の状態では動くどころか考えることすらできません。

 今は安静にし、身の回復に努めることが先決ですね。私はそう決め、頭の中を空っぽにし、全身の力を抜きます。



 それから数分後――――――



 徐々に頭痛も治まっていき、少しずつですが思考ができるようになります。そして、現在の状況について考えていきます。


(確か………私は決闘のために草原地帯で待っていたら、急に襲われて………)


 そう、四人、いや五人の男達に襲われたのでした。元宮廷魔法騎士と名乗る男が状態変化魔法を針に付与し、それが私に刺さり、それで私は気を失って…………。


「………ここは?」


 うす暗く、簡素な一室。

 人が暮らしているとは思えない部屋です。

 窓がないので、外の様子を確認することができません。


 ここはあの男達のアジトのような所なのでしょうか。

 いえ、確実にそうでしょうね。

 おそらくは気絶している間にここに運び込まれたのでしょう。


 すべての状況を理解した後、自責の念に駆られます。

 最初から油断せず、慎重に行動していればこの状況に陥らなかったかもしれません。


 しかし、すべては終わってしまったこと。

 いつまでも後悔していても仕方ありません。

 これからの事を考え、行動することが大切です。


 この部屋にある唯一のドアを開けようとします。

 しかし、予想はしていましたが外側から鍵がかかっているようです。


(魔法は?)


 魔法を使うのなら、脱出の選択肢が増えます。

 最悪、壁に穴を開けて脱出する方法もあります。

 何でできているかは分かりませんが、壁の強度を確かめる必要がありそうです。


「ファイアボール」


 試しに下級魔法で強度を確かめようとします。


 しかし―――――


「っ!?」


 魔力を練り上げ魔法を発動しようとした瞬間、私の中の魔力が霧散し、魔法を発動することができませんでした。


(これは………魔力を阻害する何かが設置されているのですか?)


 魔法は魔力が尽きないかぎり発動できます。

 私の魔力はまだ尽きていません。

 すなわち、この部屋に魔法を阻害する何かが施されていることになります。


 ここでは一切魔法を使うことができない。

 そう考えると脱出は困難を極めることになります。


(どうしたら…………?)


 脱出方法に行き詰まり、思い悩んでいる時でした。


 部屋にある唯一のドアがゆっくりと開き、一人の男が入ってきました。


「お!起きたみたいだな嬢ちゃん」

「あなたは………?」

「俺はセルドっていうんだ。よろしくな嬢ちゃん」


 確か、元宮廷魔法騎士と名乗っていた男。

 魔法付与(エンチャント)を使い、私を気絶させた男です。

 薄ら笑いを浮かべていて、気味が悪いような男です。


「………私をどうするつもりですか?」

「なぁに、別にどうもしねぇよ。嬢ちゃんは大人しくしていればいいんだよ」


 セルドはそう言って、部屋から出ようとします。


「待ってください………貴方に伺いたいことがあります。」

「…………なんだ?」


 セルドはドアの取っ手に手をかけるのを止め、こちらに振り返ります。


「何故、貴方は誇り高き宮廷魔法騎士だったのにもかかわらずこのような行為に及んだのですか?」


 宮廷魔法騎士は全魔法師の中でも特別な存在。

 圧倒的実力を兼ね備えた王国直属の魔法師部隊。

 今は違うとはいえ、そんな方がこのような事をするなんて、私には理解できません。


 そう思い、私が問いかけるとセルドは顔を歪めます。


「別に俺はあいつらと違って金はどうでもいいんだよ。」


 あいつらというのは、最初に襲ってきた四人組でしょう。

 目的は身代金ではないということは彼らとは一時的に手を組んでいるということでしょうか?


 さらにセルドは言葉を続けます。


「俺は復讐してぇんだよ。」

「………復讐ですか?」

「ああ、そうだよ!現宮廷魔法騎士団隊長アイク・センテカルドにな!!」

「………お兄様にですか?」


 アイク・センテカルド。現宮廷魔法騎士団隊長にして、センテカルド家嫡男でもあり、そして私の兄でもある人を憎しみのこもった声音でセルドは呼びます。


 お兄様の事を知らない人はこの国ではいないでしょう。

 歴史上最年少で宮廷魔法騎士団隊長に就任し、この国の精鋭魔法師のトップに位置する人物。

 理屈だけでいえば、この国で最強の魔法師です。


「ああ、そうだよ!あいつは俺が任務で少しのミスをしただけでクビにしやがった!そのせいで妻にも子供にも逃げられて、俺の人生はめちゃくちゃだ!!」


 はぁ、はぁと息を切らしながら言い終えます。


「事情は分かりました。しかし、何故それで私を狙うのでしょうか?」


 恨んでいるのはあくまでお兄様。

 確かにセンテカルド家令嬢である私ですが、お兄様に恨みを持っているセルドとは関係ないはずです。


 私の問いを受けて、歪めた顔をニヤリとして答えます。


「アイク・センテカルドはお前をだいぶ溺愛しているようじゃねぇか。あいつらが身代金を受け取った後はお前は俺の物になることになっている。奴の目の前でお前を犯して、最終的に目の前で殺してやったら、奴はどんな顔をするんだろうなぁ!ああ、でもその前にお前を人質にして、アイクの奴も痛めつけないとな!!」


 セルドは愉悦の表情をして言います。

 いかにも待ちきれないと言わんばかりに。


(そういうことですか………)


 正直、とても恐ろしいです。手足が少し震えてきます。

 ですが、それ以上にお兄様に迷惑はかけたくありません。

 さらにはお父様、お母様にも迷惑をかけてしまいます。


 お父様とお母様はとても優しいです。

 身代金を要求されたら、私を助けるためにすぐに差し出すでしょう。

 それだけではありません。

 お兄様も私を助けるために危険を顧みずに助けに来てくださるでしょう。


(どうにかして、ここから脱出しませんと)


 男は私の思っていることを見透かしているように言います。


「ここからは逃げられねぇよ。」

「………どうしてですか?」

「ここは地下室だ。仮にアジトが見つかろうともこの部屋は見つからないだろうし、サーチを使われてもここには魔力消失機器(キャンセラー)が設置されている。この場所は探知することができない。そして、それはお前も同じだ。ここでは魔法は使うことはできない。」


 ここは地下室でしたか。そして、やはりここでは魔法は使えない。

 癪ですが、実際この男の言う通りここから脱出することは一見無理なようです。


 ですが―――――


(絶対に諦めません)


 何か手は必ずある。必死に考えれば活路は見出せるはずです。


 私が必死に思考を巡らせている時、ドアがばたんと開きました。

 一人の男がどかどかと入ってきます。


 確か、四人の中で表立って私と話をしていた男です。


「おい、セルド!お前一人だけで楽しんでないよなぁ?」

「ああ。身代金を受け取るまではお前らの物だからな。契約はしっかりと守るよ。その代わり……」

「ああ、分かってるよ。身代金を受け取った後はこいつはお前の物だ。好きにしていい」


 人を物扱いして………。

 私の中から怒りがこみ上げてきますが、それを抑えます。


(ここで冷静さを失ってしまったらいけません。)


 男はこちらを見て、ニヤニヤと問いかけてきます。


「気分はどうだぁ?」

「……最悪ですね」

「はっはっは!それはそうだ!」


 魔法さえ使えれば、こんな男………。


 まだ、身体が全治したというわけではありません。動けこそしますが、力は出ません。

 それに少し痺れも残っています。

 男達に向かっていっても簡単に取り押さえられてしまうでしょう。


 それに地下室の上にはこの男の仲間もいるでしょう。

 ここで二人を倒せたとしても、その者達と戦わなくてはいけません。

 この二人を抜いて、三人は確実にいるはずですが、それが全員とは限りません。


 敵の人数は不明。

 そんな状態でここから逃げ出すのは無謀です。

 返り討ちに終わることは簡単に予想がつきます。


(どうすれば………)


 必死に考えを巡らせている時、男が下卑た笑みを浮かべてこちらを見てきます。


「それにしても改めて見ると本当にいい女だなぁ」

「…………」

「その反抗的な表情を見ると、恥辱でその顔を歪めさせたくなっちまう」


 男はそう言うと、こちらにゆっくりと近づいてきます。

 キッと睨みますが、男はニヤニヤと見てくるだけです。


「悪い子にはお仕置きだなぁ!」

「きゃっ!」

「おい、セルド!見てみろよ!すげぇいい身体してるぜ!」


 こ、この男………!


 男は私の制服に手をかけ、そのまま破りました。

 今日着ていた純白の下着が露わになります。


「俺我慢できねぇわ!先に貰ってもいいか?」

「別にいいが、壊すなよ?アイクの野郎に見せる時壊れてたら意味ねぇからな」

「分かってる。それじゃあ………」


 男はこちらを振り返って、私の胸に手を伸ばそうとします。


(た、たすけて………)


 この瞬間、今日初めて本当の恐怖を感じます。


 しかし、誰も助けにくるわけがありません。

 私が拉致されたことすら誰も知らないのですから。


 次第に恐怖は絶望へと変わっていきます。


「はっはっは!そうだ、その表情だ!」


 男は愉悦に満ちた表情で手を伸ばしてきます。


 ここで私は汚されてしまうのでしょうか。

 こんな男に私は……………。


 ふと、家の自室にある物語の本を思い出します。

 絶体絶命のお姫様を助ける勇者様。

 皮肉な話ですが、格好だけは密かに憧れていたお姫様と同じになれました。


 しかし、肝心の助けてくれる勇者様はいません。

 それは当たり前です。現実とは違うのですから。

 それに私を助けてくれる男性なんていないでしょう。


 ぎゅっと目を瞑ります。

 あと数秒後には私の身体は汚されてしまう。


(勇者様…………)


 助けてください。

 あり得ないことではありますが、願ってしまいます。


「それじゃあ、いただきまーす!!」


(っ!)


 身体が震えます。

 抵抗しようとしますが、うまく力が入りません。


 ここで私は純潔を…………。



 しかし―――――――


(えっ?)


 いつまで経っても男の手が私の身体に来ません。

 私が怯えている姿を楽しんでいるのでしょうか。


 最後くらいは抵抗してみてもいいかもしれません。


 私はゆっくりと目を開け、男を睨もうとします。


 そして、目を開けた時――――


(えっ!?)


 男達は私から離れた場所にいました。

 驚いた表情で私を見てきます。


 何故、彼らは私から離れたのでしょう?


(いえ、これは…………)


 男達に意識を割きすぎて気づきませんでしたが、浮遊感を感じます。

 まるで誰かに持ち上げられているような………。


「大丈夫か?」


 その時、私の上から声が聞こえます。

 少し低くて、安心するような声。


 私はゆっくりと顔を上に上げます。


 そこには――――――――


「っ!?」


「もう大丈夫だ」



 決闘するはずだった男、ルクスの顔があったのでした。



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