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第14話 「当日」

 

「はぁ………」

「ん?どうしたんだよ、ルクス?」


 現在、俺はケイヒルと学園の食堂で昼食をとっていた。

 俺のため息に反応して、ケイヒルが不思議そうな顔を俺に向ける。


「こんな美味い飯になんか不満があるのか?」

「いや、食事のことじゃなくて………」


 貴族の子息、令嬢が通う名門校だけあって、食堂の設備も充実している。

 バイキング形式になっており、各場所に置かれている料理はそれぞれ一流の料理人が作ったものだ。


 味は絶品。この食事になんの不満もない。

 俺も食事の時はこんな気分で食べたくない。

 だが、今日の放課後の事を考えると致し方ない部分もある。


 アリスの決闘宣言から一週間が経った。

 つまり、今日が約束の日。


 この一週間の間、アリスとの関わりはまったくなかったと言っていい。

 何か接触を試みてくるかもと思っていたが、そんなことは全然なかった。


 まあ、時々鋭い視線を感じたりもしたが………。

 俺を完全に敵と意識しているような雰囲気があるので、決闘のことを忘れたわけではなさそうだ。


(いっそ忘れてくれればいいのに………)


 そんなことを思うが、あの執念からしてそれはありえないだろう。


「はぁ………」


 俺は本日で何度目か分からないほどのため息をもらす。


「何があったかは知らないけど、あんまり思い詰めるなよ。」

「ああ」


 この一週間で俺はケイヒルとの仲をさらに深めていた。

 性格は真反対のはずなのに、不思議なくらい馬が合う。

 気遣ってくれるケイヒルに心が温まるのを感じる。最近よく感じるこれが友情というやつだろうか。

 災厄の時はまったく感じなかったことだ。


 食事を再開したケイヒルを見て、俺も食事を再開する。


 そして、数分後には食事が終わり、ケイヒルと話しながら食休憩している時だった。


「おい、ルクスあれ見てみろよ!」

「ん?」


 ケイヒルに言われるまま、ケイヒルが指差す場所に体を向ける。

 だが、そこには特段注目するような物はない。

 何がそこまでケイヒルを興奮させるのか。

 俺が首を傾げていると―――――――


「どこ見てるんだよ、あそこにアリス様がいるだろ!」

「…………」


 そんな事かよと思い、傾げていた首ががくりと下にさがる。

 彼女の何がそこまでお前を興奮させるのか。

 俺にはよく分からない。

 それに同じクラスなんだから、よく見てるだろうに。


「アリス様の美しさは女神のようだ………彼女のためなら俺は死ねる……」


 フッと笑って、口角を上げながら言う。


「お前も飽きないな……」


 ケイヒルはこの一週間、アリスを見つける度にそんなことを言う。

 毎度毎度聞かされるこちらからすれば、もう半ば呆れていた。


「あの、アリス・センテカルド様だぞ?一生見ていても飽きないな!」


 そんなケイヒルに呆れた視線を送るが、ケイヒルと同様に彼女を見ている視線は多い。

 食堂にいる男の多くが歩いている彼女に視線を送っている。

 つまり、ケイヒルがおかしいのではない。

 むしろ多数派。

 真逆の俺はむしろ少数派だ。


「………よく分からん」


 とケイヒルに聞かれないようにぼそっと言う。

 ケイヒルに聞かれたら、色々と面倒くさいことになりそうだからだ。


「彼女の美しさの前には悩みなんてどうでもよくなってこないか、ルクス?」


(いや、彼女のせいで俺は悩んでいるんだけど……)


 そんな事を思いはしたが、言えるはずもない。


「あ、ああ……」

「だよな!アリス様を傷つける奴がいたら、俺は生涯そいつを許さないな!!」


(ごめん、ケイヒル……)


 放課後の決闘を考えて、一応心の中で謝罪しておく。


 俺の昼休みはそんな感じで過ぎていった。







 ◇







 あの日から一週間。今日が決闘の日です。

 まだ、数時間先のことですが、意識してしまいます。


 現在は昼休み。ちょうど昼食の時間です。

 多くの生徒は食堂にいき、食事をとります。

 それは私にも当てはまります。


 食事をとりに食堂に赴いた私は適当な席を確保し、バイキング形式になっている料理を取りに行きます。


 様々な種類の料理がある中、私は少し迷ったところで肉が中心の料理をお皿に盛っていきます。

 単純な考えですが、今日の決闘のことを考えると、少しでも力が出るような食事がいいと思ったからです。


 お皿に持った料理を持って確保した席に向かいます。


 席に座ったところで食事を始めます。

 家の料理人が作る料理に勝らずとも劣らない味です。


 私は公爵家の令嬢。

 食事のマナーは守ります。

 食事中は喋らないこと。

 これは貴族の令嬢にとって当たり前です。


 黙々と食べ続ける中、近くに座っている女子生徒達が興奮したようにコソコソと小さな声で喋っています。


 行儀が悪い、最初はそう思っていただけですけど、よくよく周りを見てみると多くの女子生徒が同じようにしています。


 段々と何を話しているのか気になりだしました。

 食べ終わったあと、コソコソと喋っていた二人の女子生徒に歩いて近づきます。


「少しいいですか?」

「はい?……っ!?ア、アリス様!?」

「ええ、そうですが。」


 彼女達は私を見ると、驚いたような表情をします。

 何故でしょうか。

 私自身、四大貴族の公爵令嬢。

 少しは有名でしょうが、そこまで驚く必要もないでしょう。


「あ、あの、何かご用ですか?」

「ええ、突然すみませんね。貴方達が何を話していたか気になったので。差し支えがなければ、教えてもらっていいでしょうか?」

「は、はい!えっと……私達はあの人の事を話していて」


 彼女達はそう言って、ある方向を指差します。

 私がそちらを向くと友人と談笑をしているルクスが目に入りました。


「えっと………あの人というのはあの黒髪の?」

「ええ、そうです!名前はルクス様というそうです。確かルクス様はSクラスらしいんですけど、アリス様はご存知なかったですか?」

「いえ、彼のことは知っています。」


 知らないはずがない。

 今日、決闘する相手の事を。


 だが、彼女達は違う。

 確か、Sクラスでもなかったような………。

 何故そんな彼女達が彼を知っているのか、疑問に思っていると――――――


「ルクス様………かっこいいですよね……」

「………ええ、本当に……」


 彼、ルクスを見ながら二人がうっとりしながら言います。

 そこで私は彼女達が話していたことを察しました。


 彼女達が話していたことは、いわゆる恋話というやつです。

 女子同士で気になる異性のことについて話しをするとか。


 私はそういった話をしたことがないので詳しくは知りませんが………。


「アリス様はかっこいいと思いませんか?」

「…………え?」


 いきなり聞かれて反応が遅れてしまいました。


「どうなのですか?」

「……………」


 彼女達の目には明らかな好奇心の色があります。


 こういった話をするのは初めてのことなので、少し戸惑ってしまいます。

 しかし、彼女達の様子を見るに答えるまで逃してはくれないでしょう。


 そこで私は彼、ルクスをちらりと見ます。


 確かに、彼女達が言うように容姿は非常に整っていると思います。

 それは実技試験の際にも思ったことです。


 しかし、男性の魅力を決めるのは容姿だけではないと思います。

 人それぞれ価値観は違うと思いますが、例えば…………強さ、とか。


 彼は強いでしょう。

 しかし、はっきりとした強さは知りません。

 彼は私に勝たせて、試合を終わらせてしまったのですから。


 力があるのにもかかわらず、発揮せず隠す。

 どんな理由があるのかは分かりませんが、それは軟弱者がすることです。

 いざという時に力が出せないのなら、力を持っている意味はありません。


 そこまで考えて、私は彼女達に答えます。


「いえ……かっこいいとは思いません。」

「そうなんですか?……かっこいいと思うんだけどなぁ」

「………すみません。用事があるのでここで失礼します。教えてくださりありがとうございました」


 私はそう言い、彼女達から離れることにする。


 私にはこういった話は合わないようです。

 そういった話は可愛らしい女子がするもの。

 そもそも騎士たる私がそんな話をするのはよくありません。


 私は食堂から出ようと歩いていると、数多くの女子生徒がルクスを見ていることに気づきます。

 皆一様に彼を見ながらコソコソと何かを話しています。


 私が食事をしていた時に周りでコソコソと話していた女子生徒達も彼のことについて話していたのでしょうか?


(そんなに彼はいいでしょうか?)


 私はそう思い、彼をもう一度見ます。しかし、よく分かりません。


 いや、それでいいのです。決闘相手に恋慕の情を抱いていたら戦うことなどできません。


 私は彼から目を話し、食堂の出口へと歩いて行きました。







 ◇







 セントリア近辺の森の中。


 そのとある某所。ある小屋が建っている。


 こんな森の中では生活は困難だ。

 まして、そこには魔物が出現する。

 住む目的で建てられたのではないことは明らかだ。


 その小屋の中に粗末な服を纏った男が数人いた。

 全員椅子に座り何かを話し合っている。


「明日には膨大な金が入るな。」

「ああ、だが成功すればの話だがな。」

「大丈夫だろ、小娘一人くらい。」


「そろそろ時間だ。」


 男達のうちの一人がそう言い、全員が立ち上がり、外出する準備をする。

 全員が準備したことを確認し終えると、それぞれが最後に武器を持ち、腰にぶら下げる。


「行くか………標的は()()()()()()()()()()だ。」


 波乱の一日が始まる。



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