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第13話 「憧れ」

 

  (マジかよ………)


 俺の心境はその一言だった。

 彼女の事情は理解したし、彼女の気持ちも分からなくはない。


 だからと言って、決闘というのは……………。


「どうなのですか?」

「…………どうして決闘になるんだ?」

「勝ち逃げならぬ負け逃げ……それをされるのが嫌だからです。」


 アリスは真剣な面持ちで俺に訴えかけてくる。


 彼女の様子を見るに只ならぬ覚悟が垣間見える。

 四大貴族のプライドだろうか。


 ともかく、ここで断っても簡単に終わりそうもない。

 それに断ったらこれからの学園生活で付き纏われる可能性もある。

 彼女は学園では目立つ存在だ。そんな彼女に付き纏われるのは勘弁だ。


 となると、仕方ないか――――――――



「…………分かった。決闘受けるよ」

「っ!ありがとうござ………」

「その前にいくつか君に呑んで貰いたい提案がある」


 俺は彼女の言葉を遮って言う。

 これらの提案を受け入れて貰えなければ決闘を受けるわけにはいかない。


「なんでしょうか?」

「まず俺との決闘の詳細を口外しないこと。俺の事を必要以上に詮索しないこと。負けても、また決闘を申し込まないこと。」

「最初の二つは分かりました。センテカルド家の誇りに誓って破らないと誓いましょう。しかし、最後の提案は少し不快ですね」

「ん?なんでだ?」

「何故貴方が勝つことを前提に話しているのですか?」


 なるほどな。

 実技試験で垣間見えた俺の実力を知ってなお、俺に勝つつもりか。

 だが、それは無理だろう。

 俺には負けることよりも勝つことの方が簡単だ。

 あまりにも格が違いすぎる。


「はっきり言うが、アリスさん、君が俺に勝つのは不可能だ。」

「っ!?………何故そう言い切れるのですか?」

「理由は話せないけど、まあ決闘で分かるよ。」

「……そうですか。では、私は貴方のその言葉が虚言であることを決闘の際に証明しましょう。」


 その後、俺達は決闘の日時、場所などを話し合った。


 お互いの都合のため、決闘は一週間後になった。

 時間は放課後。

 場所は俺が提案をして、セントリアを出て少し歩いたところにある草原にして貰った。

 魔物がでるおそれはあるが、そこなら誰にも見られることはないだろうし、思いっきりできるということでアリスもすんなり了承した。


「では、一週間後に」

「……ああ」


 話が終わりアリスは俺に背を向けて去っていった。


「俺も帰るか……」


 今日は本当に疲れた一日だった。

 早く帰って休みたい気持ちに駆られながら歩いた。

 しかし、一週間後の事を考えるとげんなりした気分になり、結局そんな気分のまま帰路に着いたのだった。







 ◇







 私は代々続く騎士の家系、四大貴族センテカルド家の長女として生まれました。


 センテカルド家は数多くの武功を挙げて四大貴族になった騎士の名家です。

 そんな家に生まれた私が幼い頃から鍛練に明け暮れた日々を送っていたのは当然といえるかもしれません。


 しかし、そのおかげで私は着々と実力をつけ、気づいた頃には天才と周りから言われたり、挙げ句の果てには十年に一人の逸材などとも言われてました。


 決して嫌ではありませんでした。

 むしろ嬉しく思いました。

 私はそう言われてもおかしくない結果を出し続けましたし、それに見合った努力もしてきました。


 そんな私も十六歳になり、魔法学園に通うことになります。私は学園に入学するにあたって決めた目標があります。

 それは首席で入学すること。

 センテカルド家令嬢として当たり前だと思い、試験に挑みました。


 この日が私の人生にとっての転機だったのかもしれません。


 実技試験で私はある男と闘いました。


 名前はルクス。


 私は公爵家の令嬢として沢山のお見合いを受けてきました。

 私にはその気はないものの、家同士の付き合いとして沢山の男性と会ってきましたが、今まで見てきた男性の中で飛び抜けて整った容姿をしていたからです。


 初めて彼を見た時は少し目を見開いてしまいました。


 そんな自分を叱咤して彼との闘いに挑みました。


 彼と戦っている最中、ある違和感に襲われていました。

 まるで遥か高みから弄ばれているような感じです。

 同年代では負けなしの私は同い年で遥か高みに位置する彼と闘い、私のプライドは傷つきました。


 しかし、結局は私が勝利を収め、入学試験でも首席という結果で終わりました。

 お父様もお母様も喜んでくださいました。

 私もセンテカルド令嬢として嬉しくは思いました。


 しかし、騎士としての私にとってはこれほどまでにない屈辱です。

 手を抜かれ、勝たせられるという。

 彼が次席という結果を知ったのが尚更でした。

 本来は彼が首席だった。私ではなく彼が。


 周りからもてはやされて傲慢になっていたのかもしれない。

 そう考えると自分に対し怒りを覚えました。

 学園入学までの間そんな日々を過ごし、ある一つの決断へと至りました。


 それは彼、ルクスとの再戦です。

 このままじゃ私は前には進めない。

 そう直感的に思いました。

 彼と戦うことで何か見えてくるのではないか、そう思いました。


 そんな気持ちを抱きながら私は学園に入学し、同じクラスで彼と再会を果たしたのでした。







 ◇







「ただいま戻りました」

「おかえりなさいませお嬢様」


 彼、ルクスに決闘の約束を取り付け終わった後、私はそのまま家に帰ってきました。

 私の家、つまりセンテカルド家は国の中心、王城の近くにあります。

 位の高い貴族は王城の近くに家を構えていることが多いです。


「お嬢様、お食事の支度がもうすぐできます。旦那様と奥様も既に食卓についております。」

「分かりました。すぐに行きます。」


 執事のセバスさんにそう言われて、私は食堂に向かいます。


「おかえり、アリス」

「おかえりなさい、アリス」


「ただいま戻りました、お父様、お母様」


 食堂に着いた私をお父様とお母様が笑顔で迎えてくれます。

 お父様とお母様はとても優しいです。

 公爵家ともなれば、子供に厳しいイメージがありそうですが、お父様とお母様はそんなこと全然ありません。


 私も二人と同じように食卓につきます。


「アリス学園はどうだった?」

「楽しそうなところです。」

「人生で一度きりの学園生活です。楽しみなさいね、アリス。」

「はい、お母様」


 お父様とお母様は私の学園生活を気にかけてくださっているようでした。


「娘が首席とは私も鼻が高いな!」

「ええ、本当にそうですね」


「………」


 お二人は私が首席合格して本当に嬉しそうでした。

 お二人が喜んでくださると私も嬉しいです。

 しかし、これは本当の順位ではありません。

 そう思うと素直に喜べませんでした。


 その後、食事がくるまで家族団欒のひと時を過ごしました。

 この時間は私はとても好きです。他愛もない話しですが、とても大切な時間です。


「アリス、お前に話しがあるんだが……」


 そんな時でした。

 お父様が少し後ろめたそうに話をきりだそうとします。

 こういう時のお父様が何を言うのかは分かります。


「アリス、そろそろお前も婚約適齢期だ。貴族の娘としては丁度いい頃合いだと私は思うのだが」


 予想通りです。

 その事については前々から話を受けていました。

 貴族の娘。それはただの婚約ではありません。自分の家の利益になる、いわゆる政略結婚が入ってきます。そのための婚約です。


「これらの中でいいと思う人はいないか?どれも名家の子息だ。人格も問題ない」


 お父様はそう言い、複数の紙を広げて見せてきます。

 そこには家名や子息の情報などたくさん記載されています。


 お父様は私には好きな人を選んで欲しいと言ってくれます。

 家のことは考えなくていいと。

 でも、一切男性の影を見せない私に対して、こうやって機会でも作ってくださっているのでしょう。


 こんな自由を与えられる令嬢は少ないでしょう。だから私は両親に感謝しています。


 ですけど―――――


「申し訳ありません、お父様。私は自分より弱い男性は嫌なのです。」

「そう言われてもな…………」


 お父様は困ったような表情をします。


「アリス、男性の魅力は強さだけとは限らないですよ」


 お母様はそんな私を諭すように言ってきます。


「ええ、分かっています。分かっていますが………」


 これは私のわがままです。

 私より強い結婚適齢期の貴族男性などいないのですから。


 お父様とお母様は私のために言ってくださっているのは理解していますが、こういった話はとても私をげんなりさせます。


「………すみません。今日はとても疲れたのでもう寝ます。」

「アリス…………」


 私はそう言って食堂が出て行きました。


 私は二階にある自室に行きます。

 部屋に入ると年頃の女の子らしかぬ殺風景の部屋。

 必要最低限の家具しか置いてありません。

 私にとって、邪魔にしかなりませんから。


 そんな私の部屋ですが、一つだけ私が好きで置いてある物があります。

 私はその物を持って、部屋にあるベッドに腰掛けます。


 手に持ってる物、それは物語の絵本です。

 幼い頃から何度も何度も繰り返し読んでいます。


 その内容はとてもシンプルです。


 簡単に説明すると、敵に捕まったお姫様を助ける勇者様のお話です。


 私はその本のあるページを開きます。

 そのページにはお姫様を抱えながら敵と戦う勇者様の絵が載っています。

 幼い頃から何度もこの絵は見てきました。


 お父様とお母様は多分、私の事を自分より弱い男がただ嫌なだけと思っています。


 しかし、少し違います。


 本来は私は騎士の家系に生まれたのですから、人を守るために戦うのが役目です。

 この本によるところの勇者様と同じです。


 しかし、私の目は自然と勇者様に抱えられているお姫様のところにいってしまいます。


 騎士の家系に生まれた私はこんな役は合っていない。

 願ってはいけない。分かってはいるのです。


 ですが――――――――



 どうしても()()()()()()()()()



 憧れるべきは勇者様。

 だめだと分かってはいるのですが、女の(さが)でしょうか。

 私みたいな男性よりも強い女誰が助けるのかと言う話ですが…………。


 それにこんな剣を振り続けて、ごつごつとした手なんて握りたくもないでしょう。


 私は本を読んでいると、少し暗い気持ちになってしまいました。

 その事に気付いた私は頭を振り、本を閉じます。

 騎士の娘としてあるまじき気持ちです。


 あと、一週間後にはあの男との決闘も控えている。

 気持ちが弛んでいる証拠です。

 私はあの男に勝利し、騎士として成長しなければいけません。


 私はさっきまでの思いは頭の隅に追いやって、気持ちを切り替えて、一週間後の決闘について思いを馳せたのでした。



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