第11話 「一日」
「私がどうかしましたか?」
俺とケイヒルの前に彼女は突然現れた。
まさか彼女が首席だったとは。
いや、次席が俺なのだから彼女が首席なのは当然か。
それよりも彼女に応答するのが先決だ。
ここで正直に言う選択肢はない。
「いえ、別になんでもあ………」
「アリス様がこの学園で一番可愛いいって話しをしていたんです!!」
(おい!? )
まさかケイヒルが正直に言うとは思わなかった。
というか、その言い方だと俺も可愛いいと思っていると誤解されてしまうような…………。
さりげなく俺を巻き込まないで欲しい。
「そうですか。それはありがとうございます。ですが、その話はここでしなくてはならない話なのですか?」
「えっと……」
おお、あのケイヒルが困っている。
相手の返答が予想外だったのか言葉に詰まっている。
薄々は感づいていたが、やはりケイヒルとの会話は同年代の一般的な会話ではなかったと彼女の言葉から察せられる。
これからはケイヒルの調子に合わせないようにしよう。
「どうなのですか?」
「それは……」
「ここは王立魔法学園。魔法を学びたいと希う者達が集う場所であり、勉学に勤しむ場所です。貴方達のその会話はこの場では不適切だと私は思うのですが」
「………はい」
完全に論破されたな。
彼女の言っていることに間違いはないのだから。
「貴方もです。どうなのですか?」
「は、はい……」
ケイヒルに向いていた彼女の身体が俺に向く。
ここで俺にくるとは思わなかった。
少しびっくりしてしまった。
それにケイヒルに向けていた視線より俺に向ける視線の方がきついような。
試験結果の時もだけど、俺何かしたか?
「分かれば、いいです。それでは私はここで失礼します。」
そう言って彼女は俺達の目の前から去っていった。
「突然だったな」
「…………」
(ん?)
彼女が去った後、俺はそうケイヒルに声をかけた。だが、応答がない。
どうしたのかと思い、俺はケイヒルに目を向けるとケイヒルは俯いていた。
まさか、こいつ落ち込んでいるのか?
「おい、ケイヒル?」
「……………」
だめだ。
完全に落ち込んでいる。
確かに少しきつい口調で注意されたが、ケイヒルがここまで打たれ弱いとは思わなかった。
身体を揺さぶってもまったく反応がない。
「次から気をつければ大丈夫だから、そう落ち込むなよ」
「ルクス……、俺……」
(ッ!?)
ケイヒルが小声で反応した。
やっと反応してくれたかと思っていたら、身体が少し揺れはじめた。
はぁ、はぁと嗚咽とも取れる息遣いが聞こえてくるし。
(まさか、泣いているのか!?)
顔も赤くなっているし、少し辛そうだ。
俺は別に全然平気だったけど、一般的にはこれは結構きつい叱責なのだろうか。
だったら、俺も泣いとくか?
潜入任務なども数多くこなしてきた俺は演技もできる。
涙を流して、嘘泣きくらいなら容易いが。
「俺さぁ……、やばいかもしれない……」
「ッ!?大丈夫だから!」
「聞いてくれるか、ルクス?」
「ああ!」
十六年生きてきて初めてできた友人だ。
組織の人達とも仲は良かったが、彼らは友人というより良き先輩という方がしっくりくる。
ケイヒルの事は大切にしたい。
だからこそ、こんな時は側で支えてあげるべきだ。
俺はそう思いケイヒルから紡がれる言葉を待つ。
「………俺さぁ」
「ああ。」
「目覚めたかもしれない。」
「どういうことだ?」
「あの冷たい視線にだよぉぉぉ!!!」
「………………は?」
「はぁ、はぁ。あの冷たい視線、あのきつい口調。怒られているはずなんだが、俺の中から熱く湧き上がるものが止められないんだ!身体中が火照ってしまい、興奮が止まらないんだ!!」
「………何を言っているのか分からないんだけど」
「つまり、ドエムに目覚めたってことだよぉぉ!!」
「………………」
とりあえず、俺の心配を返して欲しい。
あれだけ心配したのにただ興奮していただけ。
じゃあ、あれか?嗚咽に聞こえたのはただ興奮して、はぁはぁ言ってただけか。
身体が震えていたのも興奮で身体が疼いてしまっただけか。
(こ、こいつ………)
俺はケイヒルを睨む。
まだ、興奮が収まってないようで目を蕩けさせながらぼぉとしている。
とても気持ち悪い。
「嬢王様………」
呼び方も変わっているし。
こいつはもうダメかもしれない。
数分後、少しは落ち着いたのか普段のケイヒルに戻った。
でも、時々蕩けたような顔をする。
本当にこいつはダメかもしれない。
「いやぁ、アリス様と話せるなんて貴重な体験だったな。」
(お前は別の意味でな。)
そう思いはしたが、その話題にするとまた気持ち悪いケイヒルが出てくるのでやめておく。
「そうなのか?」
「お前なぁ!あのアリス・センテカルド様だぞ!?」
「いや、俺よく知らないんだよ。他大陸出身だから」
「そうなのか?じゃあ、しょうがないな。俺が特別に教えてやろう!」
「よ、よろしく」
「さっきも少し説明したが、この国で最も格式が高い貴族、四大貴族の一つセンテカルド家令嬢だ。センテカルド家は代々続く騎士の家系だ。この国の宮廷魔法騎士団や隊長クラスの人材を数多く輩出している名家で、アリス様は幼少の頃からその才覚を発揮し、十年に一人の逸材と言われている。性格は冷静沈着。常に凛としていて、何事にも動じない性格だ。人に厳し分自分にはもっと厳しいらしい。同年代との立ち合いでは負けなしだとか。ちなみにこれが一番重要なことなんだが………」
「うん……」
神妙な顔つきで話しかけてくる。
もしかしたら、俺を目の敵にする理由がそこにあるかもしれない。
「アリス様は当然男からも大人気だ。数多くアプローチされているらしい。でも、どの男にも靡かない。その理由が………」
「その理由が?」
「自分より強い男じゃないと嫌らしいんだ。まあ、あくまで噂なんだが。けど、もし本当なら平民の俺にもチャンスが………」
それはないと思う。
いくら自分より強いからってケイヒルは選ばないだろう。
気持ち悪いし。
俺が聞きたかった情報じゃないな。
というかかなりどうでもいい。
俺を睨んでいることと結びつけられない。
俺を目の敵にしてくる理由は本当に謎だ。
「つまり見た目が良くてもだめってことだ。次席のお前には無理ってことだ。」
(次席でもないお前にはもっと無理じゃないのか?)
あと、別に彼女と恋仲になりたいとも全く思わないし。
その事を言うとややこしくなりそうだから自分の中だけで留めたが。
「俺、もう帰るわ」
「なんだよ、もう少し喋ろうぜ」
「用事があるんだよ」
俺はそう言って、帰り支度が終わっていた荷物を持って教室から出る。
そのまま、校舎から出て門に向かって歩き始める。
(今日はいろんな事があった)
初日から遅刻をして、クラス全員の目の前で自己紹介。
初めての友人ができたが、その友人はどこかおかしい。
そして、アリス・センテカルドとの再会。
本当にたくさんの事があった。
こんな日々が続くなら災厄時代とは違った意味で暇はしないかもな。
俺はそんなことを考えながら歩いていた。
その時だった―――――――――
教室でも聞いた綺麗な澄んだ声が聞こえたのは。
「待ってください。少しいいですか?」
どこかの誰かが天下の四大貴族様に話しかけられているようだ。
ケイヒルの話からすると、話しかけられた奴が男だったら喜びを表すだろうな。
「待ってくれと言っているのですが。聞こえないのですか?」
何故だろうか。俺のすぐ近くでその声が聞こえてくるのは。
振り向いて確認すればいい話だが、ここでそうしてしまうと嫌な予感がする。
ここはスピードを上げるのが吉だな。
今日は色々あって疲れているんだ。
面倒くさいことに関わりたくない。
そう考え、歩く速さを上げた時だった。
(ッ!?)
誰かに後ろから腕を掴まれた。
歩きたくても歩けない状態だ。
いや、俺の筋力なら引きずって歩くことも可能だが、俺はこの掴んできた者の検討がついている。
俺の予想が正しければだが―――。
俺はゆっくりと振り返る。そこには―――――
「貴方に言っているのです。」
(勘弁してくれ)
怒涛の一日を過ごし、やっと休めると思ったのが束の間。
俺の一日はこれからが本番のようだ。
評価、ブックマークよろしくお願いします!




