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流れ星のお仕事

作者: 村崎羯諦

 私のお父さんは流れ星のお仕事をしています。毎晩、お空の高いところから大気圏という場所に飛び降りて、流れ星になってみんなの願い事を叶えています。


 お父さんはお昼の時間はいつも寝ていて、私が寝る時間にお仕事にでかけます。お仕事に行く前、お父さんはいつも私のベッドまでやってきて、おまじないだよと言って私の額とお父さんの額をくっつけてくれます。お父さんの固くてカサカサとした額を私の額で感じると、心の奥のほうが少しづつ温まっていきます。これは私とお父さんの二人だけのおまじないです。このおまじないをすると、一人ぼっちの夜でも安心して眠ることができるのです。


 お父さんが帰ってくるのはちょうど私が学校に出かけようと準備をする時間です。お父さんがお家に帰ってくると、部屋の中にプラスチックを焼いたような匂いが漂います。お父さんはその後、焦げて真っ黒になった身体をシャワーで綺麗にして、国から渡されているお肌の薬を欠かさず身体に塗ります。お母さんがいたときは、お母さんがそれを手伝っていましたが、今は一人でやっているので大変そうです。


 学校がない日には私がお手伝いするときもあります。お薬はカスタードクリームのような色をしていて、歯磨き粉のような匂いがします。直接手で触るとピリピリとしびれてしまうので、使い捨てのビニール手袋をはめてから、お父さんの手が届かない背中にお薬を塗ってあげるのです。


 お父さんの肌はお仕事のせいで、真っ黒に焦げていて、所々盛り上がってでこぼこしています。表面はいつもカサカサで、ちょっとでも強く触ると、大きなかさぶたのようなものがごろりと剥がれ落ちてしまいます。それはとても見ていて痛々しいのですが、お父さんは平気だよと言ってくれます。難しいことはわかりませんが、肌が黒くなりきってしまったところはほぼ痛みを感じることがないそうです。


 お父さんの見た目は他の人と違っているので、お休みの日に一緒にでかけた時には、色んな人から注目されます。ちらちらと私達を見てくる人もいれば、すれ違うときに、ひどい言葉を投げかけてくる人もいます。そういう時、お父さんはすごく悲しそうな表情を浮かべながら、私を安心させるように小さく笑いかけてきてくれます。学校の中にも、時々、私のお父さんの肌をからかってくる子達がいます。友達や先生がそういう人を注意してくれますが、私はそのようなひどい言葉を聞くたび、すごく悲しい気持ちになります。


 それでも、私はお父さんの肌をおかしいと思ったことはありません。確かに、お父さんの肌が黒いせいで、一緒に遊びに行けない場所もあります。だけど、そのことでお父さんを嫌になったことはありません。みんながなんと言おうと、私はお父さんのことが大好きです。


 時々、教室の隅で、昨日の流れ星にどんなお願いをしたのかという話が聞こえてくるたび、私はどこか誇らしげな気持ちになります。もちろんその人が見た流れ星が、お父さんであるとは限らないけれど、それでも私はお父さんの娘であることが嬉しくなります。担任の早川先生も友達もみんな、お父さんはすごく素敵な仕事についているんだということを何度も何度も言ってくれます。嫌な人もたくさんいます。それでも、私の周りにこれほど優しい人がいるということに、どれだけ心が救われたでしょうか。


 本当はいけないことだけど、私は夜遅い時間にベッドから抜け出し、ベランダから真っ暗な夜空を時々眺めます。じっと目を凝らしているうちに目が暗闇に慣れ、夜空に少しづつ小さな光の点が浮かんでくるのがわかります。それから私は端っこの方からお星様の数を数えるのです。そうしているうちに、視界の端っこできらりと流れ星が流れることがあります。その流れ星は私のお父さんか、それかお父さんと同じようにお仕事を頑張っている誰かなのでしょう。私は手を組み、その流れ星に向けてこうお祈りをします。


 お父さん。いつもありがとう。これからも身体に気をつけて、お仕事頑張ってね。


 

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