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殴り魔術師と魔術格闘家の珍道中  作者: 紅蓮グレン
第1章:邂逅と努力の始まり
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W002.邂逅と旅のお誘い

「【ソニックブーム】!」


 叫んで宝剣を振るうと、飛び出した衝撃波がゴールデンメタルスライムを直撃。でも、この程度じゃ牽制にもならない。実際、ゴールデンメタルスライムの身体は少し凹んだだけで、すぐ元に戻ってしまった。


「ぎゅぶぢゅわああああああ!」


 聞く者全てに嫌悪感を与えるような鳴き声を上げつつ、粘液を吐き出してきた。ゴールデンメタルスライムの粘液は強酸性。かかったら危ないので、急いで避ける。


「【ハイソニックブーム】! 【神速】!」


 私は牽制しながら走力を上げて、何とか振り切ろうと走る。どのみちブロッカー変異種に物理攻撃はほとんど効かないから、牽制にあまり意味はないんだけど。


「ぎゅぶぢゅわああああああ!」


 また粘液を吐き出すゴールデンメタルスライム。私はそれを躱しながら、ハイデガー帝国に向かってひた走った。



 しばらく走っていると、かなり大きく開けた空間に出た。問題になるほどじゃないけど走り続けるのには疲れてきたし、ここでゴールデンメタルスライムと距離を取りつつ、少し休憩しようかな、と思っていると、突然一人の男性が開けた空間に駆け込んできた。彼は私を見つけると、焦ったように叫ぶ。


「逃げてくれ! 早く!」

「えっ?」


 私は叫ぶ男性の後ろにいるモンスターを見て……


「きゃああああああああ!」


 悲鳴を上げた。だって、そのモンスターはスケルトン・グランドマスターだったんだもの。私は骸骨がもの凄い苦手。虫とか粘液とか触手とかは平気だけど、骸骨だけは絶対無理。


「いやああああああああ!」


 叫びながら私は駆けだす。スケルトン・グランドマスターともゴールデンメタルスライムとも違う方向に向かって。でも、このままじゃあの男性がやられてしまう。そう思った時……


「そこの雑魚、邪魔だ! 空気の神エアリアルよ! その一部を圧縮し我が敵を押し潰せ! 【エアプレス】!」


 走ってきた男性が叫ぶように呪文を詠唱。すると、ゴールデンメタルスライムがグシャリと嫌な音を立てて潰れた。


「えっ?」


 私は思わず立ち止まってしまう。さっき男性が唱えた魔法、【エアプレス】は独立属性である空気属性の上級魔法で、相当量の魔力と空気属性に適性が無いと使えない。ついでに、スライムは不定形に近いモンスターだから、普通なら押し潰すなんて絶対に無理。それを平然とやってのけるなんて……異常すぎる。


「よし、ベストポジション確保! 雷神インドラ、星神マルドゥクよ、我が敵を打ち砕け! 【ライトニングメテオ】!」


 続けて男性が呪文を詠唱。すると、雷を纏った隕石が空中に出現し、一斉にスケルトン・グランドマスターめがけて降り注いだ。


「ウオォォォォォォン!」


 スケルトン・グランドマスターは石斧を振り回してガードしようとしたけど、一つの隕石に石斧が触れた瞬間。


 ――バチバチバチッ!


 激しい音が鳴り響き、スケルトン・グランドマスターは轟音を立てて地面に倒れた。そして、そこに隕石が次々と激突。土煙を巻き上げる。そして、その土煙が晴れた時、もうスケルトン・グランドマスターの姿はそこには無かった。


「ふう、雷は物理でも魔法でもない純粋な属性攻撃に分類されるし、激突属性も分類上物理に近いからな。これが使えてよかった。」


 男性は安心したように言った。全く息を乱していない。上級空気属性魔法に上級二重属性魔法、それを連発していながら疲労しない、それに空気属性、雷属性という独立属性に加え、激突属性という特殊属性まで操るなんて……もしかしたら名の知れた魔術師なのかもしれない。歳は私とそんなに離れていないような感じがするけど。


「あ、君、大丈夫だった? 巻き込んじゃってごめん。」


 私がちょっと考えていると、男性が声をかけてきた。


「だ、大丈夫です。私は骸骨が苦手で……それと、あのゴールデンメタルスライムから逃げていたところなので、寧ろ助けていただいたくらいです。ありがとうございました。」


 私はペコリと頭を下げる。


「え? 君、剣持ってるよね? ゴールデンメタルスライムは斬撃耐性皆無のはずだけど、何で戦わなかったの? 見たところその剣は斬撃特化みたいだし、それでやれば一発だったと思うけど。」

「あ、あのゴールデンメタルスライムはブロッカー変異種だったみたいで……」

「あー、ブロッカー変異種か。それは災難だったね。」


 男性は整った顔を少し歪めた。心配してくれているのかもしれない。


「あ、じゃあ俺は急ぐから。君もこんな所にいないで、街に帰った方がいいよ。また変異種のスライムがいつ来るか分かったものじゃないし。」

「あ、あの!」

「ん?」

「お名前だけでも教えて頂けませんか?」

「名前? 俺はアルフレッドだ。」

「アルフレッドさん……」


 アルフレッドって確か、私が丁度目指してるジーク公爵家の嫡男と同じ名前だ。あそこの嫡男は魔法の能力がもの凄く高いって噂だし、もしかして本人かな? いや、隣国公爵家の嫡男がお供も付けないでこんな所にいる訳がないし、きっと偶然ね。


「アルフで構わない。ところで、話を切るようで悪いんだけど、君の名前も教えて貰えるかな?」

「私はアルメリア・ウェ……あっ!」


 ヤバい。ウェスポードって言いかけちゃった。アルフさんは苗字を言ってないから、恐らく平民の魔術師系冒険者。私が貴族だってバレたら、態度が変わっちゃうかも……


「うぇ? 君、今何か言いかけたよね? もしかして苗字持ち? 貴族だったりするのかな?」

「そ、そんなことないです! さっきのゴールデンメタルスライムのことを思い出したら、気持ち悪くなって吐き気が急に……お見苦しい物をお見せしました。忘れてください。」


 ……我ながらもの凄く苦しい言い訳だ。言っていて恥ずかしくなるくらい。私は顔を赤くして俯いた。


「分かった。そう言うなら忘れよう。でも、1つ条件がある。」

「条件、ですか?」

「うん。俺はハイデガー帝国の人間なんだけど、格闘術や剣術を習う為にここ、ワーツージ帝国のウェスポード公爵家に行きたいんだ。君はワーツージ帝国の人間だろう? 案内してくれないか?」

「え? ウェスポード公爵家ですか?」

「うん。この国の帝国騎士団団長なんだから、お屋敷の場所くらい分かるでしょ?」

「わ、分かりますけど……あそこに行くのはやめた方が良いです!」


 私はアルフさんを止める。ようやくあの家から逃げ出せたのに、何で自分から戻らなきゃならないの? 絶対に断らなきゃ。


「何で? 俺はわざわざ教えを乞う為に遠路はるばるハイデガーから来たんだよ?」

「でもダメです! ウェスポード公爵は娘に無理やり格闘技を教え込んで、逃げられないように監禁してるらしいですし、あの公爵はきっと人間じゃないんですよ! 鬼、悪魔、人でなしです!」

「自国の公爵に対してよくそこまで言えるね……まあ、そこまで言うならやめよう。でも、そうすると行く先ないし……」


 アルフさんは逡巡し始めた。そこで、私はこう言った。


「じゃあ、ハイデガー帝国のジーク公爵家はどうですか?」

「ジーク公爵家?」

「はい! あそこは魔法が使える人ならきっと大歓迎してくれるはずです! それに、私も丁度ジーク公爵家に行きたくて! 魔法を覚えたかったんです!」


 これで良し。アルフさんは出身国の公爵とつながりが持てて、私はジーク公爵家に教えを乞える。WIN-WINだ。


「絶対にダメだ。あそこのジーク公爵は、魔法が使える人間でも、威力がなきゃ相手にしてくれない。少なくとも、10属性は上級魔法が使えないと。アルメリアちゃん、君はいくつの属性の上級魔法が使用できる?」

「えっ……ぜ、ゼロです。1つも使えません。」

「じゃあ、やめておいた方が良い。行っても門前払い食らうだけだよ。それと、俺はあそこの公爵が大っ嫌いでね。あんな地獄の帝王より悪辣な奴に君を会わせたくない。」

「アルフさんも自国の公爵に対してよくそこまで言えますね……でも、私は魔法を覚えたくて……私も行く当てないんです……」


 私はしょんぼりとする。ジーク公爵家に行けるかも、と思ったのに……


「じゃあ、ここであったのも何かの縁だし、一緒に旅をしないか? 魔法なら俺が教えてあげるよ。」

「え? でも、私から何かアルフさんに差し上げられる物はないですよ?」


 アルフさんの言葉に私は希望を抱きかけたけど、こういう時は遠慮しておくべき。そう思ってこう言った。しかし、アルフさんは、


「見返りは一切求めないから、安心していいよ。それに君から俺に与えられるものはたくさんある。」


 と予想外の言葉を口にした。


「私から何が?」

「格闘術とか剣術だよ。君の身体は常に薄い闘気を纏っている。それは熟練の格闘家でもそうそうできるようなものじゃない。かなり格闘が得意なんだろうね。それと、その剣。それは国宝級の聖剣だ。組成はミスリルとオリハルコンとアダマンタイト、その3種の希少鉱物を33.33%ずつ。そして残りの0.01%に純聖鉱石を使用して【聖域の加護】を発動できるようにしている。そういう剣は使用者を選ぶから、俺には持てないけど、君は平然と持っている。ということは、その剣に使用者として認められているってことだ。」


 アルフさんはスラスラと言った。私は確かにいつも闘気を纏っているけど、かなり薄くしているから普通の人は気付かない。それにあっさりと気付いた上、鞘から抜いていない剣の組成まで言い当てるなんて……只者じゃない。絶対に敵に回しちゃいけないタイプの人だ。


「因みに、君はかなり珍しいタイプの人間だね。基本属性も上級属性も独立属性も特殊属性も、魔法全72属性のほとんどを扱える。全然そっちは訓練していなかったみたいだから、今は初級魔法しか使えないけど、ちゃんと訓練すればかなり凄腕の魔術師になれるね。」


 アルフさんは更に重ねて言う。でも、流石にそれは盛っている。


「アルフさん、それは嘘ですよね? 私は小さい頃に適性鑑定を受けましたが、その時私に適性があったのは炎、氷、聖だけでした。」

「俺は適性があるとは言ってない。扱える、って言ったんだ。確かに君に適性があるのは炎、氷、聖の3つだけ。でも、魔力量不足さえ補えれば他属性の上級魔法だって使えるよ。嘘だと思うなら、俺が魔力供給をするから、空に向かって嵐属性魔法でも唱えてみればわかるよ。呪文は【ソーラーテンペスト】。ほら、やってみて。」


 そう言いながらアルフさんは私の肩に手を置く。私は半信半疑ながらも唱えてみることにした。


「【ソーラーテンペスト】!」


 すると、私の両手から緑色の魔力が大量に放出され、空に大きな竜巻が出現した。


「消えろ。【リセット】!」


 アルフさんはその竜巻に右手を向け、呪文を唱えて消し去った。被害が出ないようにだろうけど、あんな凄い竜巻を一瞬で消すなんて、やっぱり只者じゃない。


「はい、これで分かったよね? 君には嵐属性を扱えるだけの能力がある。なければあの魔法は撃てないよ。」

「じ、じゃあ……」

「君はジーク公爵に教えを乞う必要なんかない。俺が教えてあげるよ。代わりに、俺に格闘や剣術を教えてくれればね。」


 私にとっては願ってもない申し出だ。私にとって格闘や剣術なんて、ほぼ無価値に等しい。魔法を教えて貰う対価としては低すぎるくらい。


「その程度でいいんですか?」

「君にとって格闘や剣術は『その程度』かもしれないけど、俺にとっては十分すぎるくらいだ。むしろ、俺にとっては魔法の方が『その程度』だし。ってことで、どう? 一緒に旅をしないか? 俺が信用できないなら、この話はなしだけど……」

「い、いえ! むしろこちらからお願いしたいです! よろしくお願いします、アルフさん!」

「契約成立だね、アルメリアちゃん。じゃあ、よろしく。」


 私はアルフさんが差し出した右手をしっかりと握り、握手を交わした。


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