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殴り魔術師と魔術格闘家の珍道中  作者: 紅蓮グレン
第1章:邂逅と努力の始まり
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M002.出会いと旅立ち

「【アースクラッシュ】!」


 俺の呪文で地面が割れ、スケルトン・グランドマスターの足元を掬う。しかし、奴はその程度では倒れない。


「ウオォォォォォォン!」


 訳の分からない咆哮を上げつつ、奴は持っていた巨大な石斧を振り上げる。あの程度なら防げるが、油断は禁物だ。何せレジスト変異種だからな。


「護りの神バリヤイグよ! 我が身を全ての難から護りたまえ! 【フィールドブロック】!」


 俺は空間属性の護りの魔法で石斧の攻撃から身を守り、ダッシュする。こいつの攻撃手段は石斧振り下ろしと石斧横薙ぎしかないので、簡易的な護りでガードできているのだが、俺の倍はある巨体から繰り出される威力は並大抵のものではない。どのみちレジスト変異種に魔法はほとんど効かないので、逃げ切るしか手はないのだが。


「はあ……面倒臭いな。」

「ウオォォォォォォン!」


 また奴が振り下ろしてきた石斧をガードしつつ、俺は走り続ける。俺は純粋な魔術師ではあるが、その辺の冒険者には負けないぐらい体力訓練を積んでいるから、1時間や2時間走り続けたくらいで疲労を感じることはない。ここは森の中なので若干走りにくいが、問題になる程でもないし。


「ここだとアレが使えないからな……木が多すぎる。確かこの森に接してるワーツージ帝国領は竹林だったはずだから、そこまで行ければ問題ないんだけど……」


 俺は攻撃を躱しながら、ワーツージ帝国に向かってひた走るのだった。



 走り始めて15分ほど経つと、周囲が竹林に変わってきた。どうやらワーツージ帝国に入ったらしい。竹林内にはところどころ開けた空間があり、そこにこの巨大骸骨を誘い込めれば倒す為の技が使えるはず。俺はそう思いつつ走り、石斧を躱し、ようやくかなり大きく開けた空間を見つけた。よし、ここで倒すか。


「ほら、かかって来いよ!」


 俺はスケルトン・グランドマスターを挑発し、開けた空間に駆け込んだ。しかし、思わぬ誤算が。そこには1人の女の子がいたのだ。俺は焦って叫ぶ。


「逃げてくれ! 早く!」

「えっ?」


 その女の子は俺の後ろにいるモンスターを見て……


「きゃああああああああ!」


 悲鳴を上げた。まあ、いきなり目の前に身の丈3m超級の骸骨がいたらビビッて悲鳴くらい上げるよな。


「いやああああああああ!」


 叫びながら彼女は思いっ切り駆け出す。彼女がどき、ベストポジションが空いた、と思ったが、そこには金色の軟体生物がいた。ゴールデンメタルスライムだ。雑魚の癖に邪魔な所に居やがって……イラつくな。


「そこの雑魚、邪魔だ! 空気の神エアリアルよ! その一部を圧縮し我が敵を押し潰せ! 【エアプレス】!」


 俺は叫ぶように呪文を詠唱。無論効果が発動し、ゴールデンメタルスライムはグシャリと嫌な音を立てて潰れた。


「えっ?」


 女の子の驚いたような声が聞こえるが、何に驚いているのかよく分からない。因みに、さっき俺が使った魔法、【エアプレス】は空気属性の上級魔法で、空気を圧縮して相手を押し潰せる。スライムは不定形に近いモンスターだが、俺からしたら押し潰すことくらい造作もない。っと、こんなことを考えている暇はないな。


「よし、ベストポジション確保! 雷神インドラ、星神マルドゥクよ、我が敵を打ち砕け! 【ライトニングメテオ】!」


 俺はゴールデンスライムがいた所までダッシュすると、早口で呪文を詠唱。雷を纏った隕石を大量に作り出し、一斉にスケルトン・グランドマスターめがけて降り注がせた。


「ウオォォォォォォン!」


 スケルトン・グランドマスターは石斧を振り回してガードしようするが、それこそ俺の思う壺。


 ――バチバチバチッ!


 石斧に隕石が触れた瞬間、激しい音が鳴り響き、スケルトン・グランドマスターは轟音を立てて地面に倒れた。雷によって感電したのだ。そして、倒れ伏したスケルトン・グランドマスターに隕石が激突。奴の身体は粉々になった。


「ふう、雷は物理でも魔法でもない純粋な属性攻撃に分類されるし、激突属性も分類上物理に近いからな。これが使えてよかった。」


 俺は肩の力を抜く。レジスト変異種なので、雷でダメージが入るのは決定としても倒せるかどうかは賭けだったからな。


「あ、君、大丈夫だった? 巻き込んじゃってごめん。」


 俺は完全に巻き込んでしまった形の少女に声をかける。


「だ、大丈夫です。私は骸骨が苦手で……それと、あのゴールデンメタルスライムから逃げていたところなので、寧ろ助けていただいたくらいです。ありがとうございました。」


 すると、彼女はペコリと頭を下げた。好感が持てるな。しかし、少し引っかかる。この子は剣を持っているのに、斬撃耐性が無いスライム系モンスターと何で戦わなかったのだろうか?


「え? 君、剣持ってるよね? ゴールデンメタルスライムは斬撃耐性皆無のはずだけど、何で戦わなかったの? 見たところその剣は斬撃特化みたいだし、それでやれば一発だったと思うけど。」

「あ、あのゴールデンメタルスライムはブロッカー変異種だったみたいで……」

「あー、ブロッカー変異種か。それは災難だったね。」


 ブロッカー変異種というのはレジスト変異種の逆で、物理攻撃に強力な耐性を持っている変異種モンスターのことだ。


「あ、じゃあ俺は急ぐから。君もこんな所にいないで、街に帰った方がいいよ。また変異種のスライムがいつ来るか分かったものじゃないし。」

「あ、あの!」

「ん?」

「お名前だけでも教えて頂けませんか?」

「名前? 俺はアルフレッドだ。」

「アルフレッドさん……」


 その子は少し呆けたような顔をしている。アルフレッドっていう名前に何か思い出でもあるのだろうか? アルフレッドって名前は結構ありふれてるし、苗字も言ってないから貴族とはバレてないと思うが、ここは呼び方を変えさせておくか。


「アルフで構わない。ところで、話を切るようで悪いんだけど、君の名前も教えて貰えるかな?」

「私はアルメリア・ウェ……あっ!」


 彼女は名前の後に何か言いかけた。アルメリアってのは確か、ウェスポード公爵家の公爵令嬢の名前だったな。もしかして、本物のウェスポード家の公爵令嬢か? ……いや、流石にそれはないな。まさかこの国の公爵令嬢がこんな村娘然としている訳がないし、森に来るなら護衛を付けているだろう。俺みたいに出奔したなら別だろうけど。でも、気になるな。敢えて突っ込むか。


「うぇ? 君、今何か言いかけたよね? もしかして苗字持ち? 貴族だったりするのかな?」

「そ、そんなことないです! さっきのゴールデンメタルスライムのことを思い出したら、気持ち悪くなって吐き気が急に……お見苦しい物をお見せしました。忘れてください。」


 ……苦しい言い訳だな。そんなに突っ込まれたくないなら、聞かない方が良いか。でも、ついでだしそこを利用させて貰おう。


「分かった。そう言うなら忘れよう。でも、1つ条件がある。」

「条件、ですか?」

「うん。俺はハイデガー帝国の人間なんだけど、格闘術や剣術を習う為にここ、ワーツージ帝国のウェスポード公爵家に行きたいんだ。君はワーツージ帝国の人間だろう? 案内してくれないか?」

「え? ウェスポード公爵家ですか?」

「うん。この国の帝国騎士団団長なんだから、お屋敷の場所くらい分かるでしょ?」

「わ、分かりますけど……あそこに行くのはやめた方が良いです!」


 アルメリアちゃんは必死の形相で俺を止めてきた。


「何で? 俺はわざわざ教えを乞う為に遠路はるばるハイデガーから来たんだよ?」

「でもダメです! ウェスポード公爵は娘に無理やり格闘技を教え込んで、逃げられないように監禁してるらしいですし、あの公爵はきっと人間じゃないんですよ! 鬼、悪魔、人でなしです!」


 ……酷い言い草だ。ウェスポード公爵は圧政でも布いてるのか? 領民にこんなに言われるなんて、相当嫌な奴なのかもしれない。


「自国の公爵に対してよくそこまで言えるね……まあ、そこまで言うならやめよう。でも、そうすると行く先ないし……」


 俺はそう呟いてから悩み始める。このままだと浮浪者になるんだよな。一応生活必需品は持ってるし、路銀も持て余すレベルであるけど……と思っていると、アルメリアちゃんが声を上げた。


「じゃあ、ハイデガー帝国のジーク公爵家はどうですか?」

「ジーク公爵家?」


 思わず顔が引きつる。


「はい! あそこは魔法が使える人ならきっと大歓迎してくれるはずです! それに、私も丁度ジーク公爵家に行きたくて! 魔法を覚えたかったんです!」


 アルメリアちゃんは『これで良し!』と言っているような顔をしているが、全然良くない。あの家に戻るなんて死んでも嫌だし、そもそもジーク公爵家に対して何かしら勘違いをしている。


「絶対にダメだ。あそこのジーク公爵は、魔法が使える人間でも、威力がなきゃ相手にしてくれない。少なくとも、10属性は上級魔法が使えないと。アルメリアちゃん、君はいくつの属性の上級魔法が使用できる?」

「えっ……ぜ、ゼロです。1つも使えません。」

「じゃあ、やめておいた方が良い。行っても門前払い食らうだけだよ。それと、俺はあそこの公爵が大っ嫌いでね。あんな地獄の帝王より悪辣な奴に君を会わせたくない。」


 これは本心だ。あんな奴に会わせたら、この子の目が穢れてしまう。


「アルフさんも自国の公爵に対してよくそこまで言えますね……でも、私は魔法を覚えたくて……私も行く当てないんです……」


 アルメリアちゃんはしょんぼりとする。そんなに魔法が覚えたかったのか? 俺は少し気の毒になったので、こう言ってみた。


「じゃあ、ここであったのも何かの縁だし、一緒に旅をしないか? 魔法なら俺が教えてあげるよ。」

「え? でも、私から何かアルフさんに差し上げられる物はないですよ?」


 アルメリアちゃんは何か遠慮しているっぽい。でも、俺には分かる。アルメリアちゃんには、俺にはないあるものを持っている。


「見返りは求めないから、安心していいよ。それに君から俺に与えられるものはたくさんある。」


 俺のこの言葉にアルメリアちゃんは目を見開いた。予想外の発言だったらしい。


「私から何が?」

「格闘術とか剣術だよ。君の身体は常に薄い闘気を纏っている。それは熟練の格闘家でもそうそうできるようなものじゃない。かなり格闘が得意なんだろうね。それと、その剣。それは国宝級の聖剣だ。組成はミスリルとオリハルコンとアダマンタイト、その3種の希少鉱物を33.33%ずつ。そして残りの0.01%に純聖鉱石を使用して【聖域の加護】を発動できるようにしている。そういう剣は使用者を選ぶから、俺には持てないけど、君は平然と持っている。ということは、その剣に使用者として認められているってことだ。」


 俺が言っていることは全て真実だ。闘気纏いなんて俺には勿論、親父だって、熟練の格闘家だって簡単にできるものじゃない。それに、ただの女の子が国宝級の聖剣を持つことだって普通ならできない。かなり身体を動かすことに慣れている、しかも闘気を纏えて聖剣を持てる。それは即ち、俺より遥かに高い身体能力を持っているってことだ。それと、もう1つ。


「因みに、君はかなり珍しいタイプの人間だね。基本属性も上級属性も独立属性も特殊属性も、魔法全72属性のほとんどが扱える。全然そっちは訓練していなかったみたいだから、今は初級魔法しか使えないけど、ちゃんと訓練すればかなり凄腕の魔術師になれるね。」


 さすがに俺のように全属性に適性がある訳ではない。だが、魔力制御力が彼女にはある。魔力量の不足を補えれば、大体の中級魔法、あるいは上級魔法を制御できるだろう。後は魔導書解読でもして身体に属性を叩きこめば、適性が無くてもある程度扱えるようになる。しかし、俺の言葉をアルメリアちゃんは疑ったようで、訝しげな視線を向けてきた。


「アルフさん、それは嘘ですよね? 私は小さい頃に適性鑑定を受けましたが、その時私に適性があったのは炎、氷、聖だけでした。」

「俺は適性があるとは言ってない。扱える、って言ったんだ。確かに君に適性があるのは炎、氷、聖の3つだけ。でも、魔力量不足さえ補えれば他属性の上級魔法だって使えるよ。嘘だと思うなら、俺が魔力供給をするから、空に向かって嵐属性魔法でも唱えてみればわかるよ。呪文は【ソーラーテンペスト】。ほら、やってみて。」


 俺は彼女の肩に手を置き、魔力供給のリンクを繋ぐ。アルメリアちゃんは半信半疑といった感じではあったが、呪文を唱えた。


「【ソーラーテンペスト】!」


 瞬間、彼女の両手から魔力が放出された。そして、空中に大きな竜巻が出現。やっぱり扱えたか。でも、このままだと被害が出るかもしれないな。


「消えろ。【リセット】!」


 俺は解除属性魔法で竜巻を消し去る。まあ、あの程度の竜巻なら反対属性の魔力をぶつけるだけでも消せたが、念の為だ。


「はい、これで分かったよね? 君には嵐属性を扱えるだけの能力がある。なければあの魔法は撃てないよ。」

「じ、じゃあ……」

「君はジーク公爵に教えを乞う必要なんかない。俺が教えてあげるよ。代わりに、俺に格闘や剣術を教えてくれればね。」

「その程度でいいんですか?」

「君にとって格闘や剣術は『その程度』かもしれないけど、俺にとっては十分すぎるくらいだ。むしろ、俺にとっては魔法の方が『その程度』だし。ってことで、どう? 一緒に旅をしないか? 俺が信用できないなら、この話はなしだけど……」

「い、いえ! むしろこちらからお願いしたいです! よろしくお願いします、アルフさん!」

「契約成立だね、アルメリアちゃん。じゃあ、よろしく。」


 俺は右手を差し出し、アルメリアちゃんと握手を交わすのだった。

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