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殴り魔術師と魔術格闘家の珍道中  作者: 紅蓮グレン
第1章:邂逅と努力の始まり
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W001.粘液と慣れない魔術

「【遠視】!」


 私はハイデガー帝国に向かう前に、竹林の中で遠くを見通せる武技を使用した。因みに、カイゼール侯爵はこの竹林を領民に開放していて、よくこの竹林に人が来るからモンスターを狩ったりはしているんだけど、それでもいることはいる。都市部周辺だからこんなところに出没するモンスターなんか雑魚中の雑魚、それも低レベル。だから私にとっては風の前の埃も同然なんだけど油断は禁物よね。


「うーん、この辺にいるのはスライムね。あの最弱モンスター、気持ち悪いけど……」


 スライムは粘液系に分類されるモンスターで、全モンスターの中で最も原始的。あらゆるモンスターの中でも最弱だから、木の棒とかでも倒せる。知能も低い。要するに、もの凄い雑魚。


「不定形だから拳との相性は悪いけど、剣でやれば真っ二つだし、簡単に倒せるわね。でも、ハイデガー帝国のジーク公爵家に行くなら、魔法が多少は使えないと警戒されるかも。あんまり使ったことないけど、敢えて魔法で戦おうかな。もしピンチになったらパクってきた剣で叩き斬ればいいんだし。」


 私は剣を杖みたいに構える。すると、剣に燐光が纏わりついた。つい武技を発動するのと同じポーズになっているから、勝手に武技を発動しそうになっていたみたい。


「やっぱり習慣って怖いわ……意識してないのにこうなるんだもん。」


 私はそう吐き捨てると、お試しに1発魔法を撃ってみることにした。


「炎の神エルメラよ、我が力を放射し、我が敵を焦がせ! 【ファイアボール】!」


 スライムの弱点は炎。ファイアボールは初級魔法だけど、雑魚中の雑魚であるスライムならこれ1発で跡形もなく蒸発する。


「うん、ちゃんと撃てるわね。スライムくらい簡単に倒せるわ。」


 私は剣から飛び出た火球を見て笑みを浮かべると、ハイデガー帝国の方向へ歩き出した。



「【ファイアボール】!」

「きゅぷちゅあ!」

「えっ? ふぁ、【ファイアボール】!」

「きゅぷちゅわあ!」


 魔法って、どうやらすごく難しいものみたい。スライムと出くわした私は、ファイアボールを当てようとするんだけど、全然当たらない。杖じゃなくて剣を使ってるからかもしれないけど、怖いくらい当たらない。


「あー、もう! 【一刀両断】!」


 私は鬱陶しくなってきたので、武技を使用。大型魔獣すら真っ二つに斬れるこの武技ならスライムの1万や2万、簡単に葬れる。実際、私の前にいた3体のスライムは真っ二つになり、溶けるように消えていった。


「やっぱり私は武技しか使えないのかしら……」


 私は尚もスライムを剣で葬りながらそう呟く。確かに魔法は使い慣れてないけど、20発撃っても1発も当たらないなんておかしいと思う。


「私には魔法の才能なんて無いのかな……」


 軽く凹みそうになる。別に魔法を使えなくたって、武技があるから困らないだろうけど、そうとは限らない。この世界にはサイクロプスアリゲーターやギガントマンティスのように物理無効のモンスターがいるし、ブロッカー変異種と呼ばれる物理攻撃に高い耐性を持つ特殊なモンスターもいる。もしジーク公爵家に匿って貰えなかったりしたら、諸国遍歴するしかないし、その途中でこういう厄介なモンスターに出くわさないとも限らない。


「やっぱり魔法使えないとダメよね……」


 私は溜息を吐くと、魔法の練習をするため新しいスライムを探し始めるのだった。



「燃やし尽くせ! 【ファイアボール】!」

「きゅぷちゃあああ……」

「もう1発! 【ファイアボール】!」

「きゃぷぷううううう……」


 2時間ほど竹林の中を徘徊して魔法を練習していたら、なんだか慣れてきたらしく、スライムには命中するようになってきた。


「ふふふ~♪ あ、スライム。【ファイアボール】!」

「きゃぷちゅあ……」


 こんな風に、鼻歌を歌いながらでも屠れるし、なかなか熟練度も上がってきたんじゃないかな。


「ふう……でも、やっぱりちょっと疲れてきたわ。あと何体かやっつけたら一旦休憩しよう。」


 私は体内を巡る魔力を感知してみる。


「うーん……ちょっと減っちゃってるけど、まあ、問題ないわね。」


 【鑑定魔法】が使えれば詳しい値が分かるんだけど、それはかなり高度な部類に入る魔法だから、私には使えない。それに、鑑定ができても私は自分のMP初期値なんか知らないから、どのみち意味がない。


「でも、この程度魔力があればまだスライムの100体や200体くらいは平気そう。上位種でも平気かな。」


 こう呟いた10秒後、私は心底後悔した。こんなフラグみたいなこと、言うんじゃなかった、と。


 ――ぎゅぶぢゅわああああああ!


 おぞましいと形容できるような声をあげ、私の前に現れたモンスターがいた。体長は2m弱、金色にキラキラと光る軟体生物だ。


「ご、ゴールデンメタルスライム?」


 ゴールデンメタルスライム、これはスライム系モンスターの中では最強クラスの力を持っていて、炎耐性に優れている。でも、その分斬撃耐性が皆無だから、私の敵じゃない。


「光よ、光よ集え、我が剣に来たりて邪を斬り払え! 【ライティングスラッシュ】!」


 私は父からパクった剣で武技を発動し、ゴールデンメタルスライムを斬りつけた。でも、刃はほとんど通らず、ゴールデンメタルスライムはぴんぴんしている。


「まさか、ブロッカー変異種?」


 最悪、そうとしか言えない。まさかこんなところでブロッカー変異種に会うなんて。こういう敵には逃走一択しかないけど……


「ぎゅぶぢゅわああああああ!」

「やっぱり見逃してくれる訳ないわよね……」


 私は必死にダッシュした。勿論、ハイデガー帝国の方角に向かって。

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