M001.骸骨兵と格闘技
「【エリアディテクション】!」
ワーツージ帝国に向かう前に俺は森の中で周囲を検索する魔法を使用した。ポンラール伯爵は結構森を整備している方だけど、自然保護などの観点からあまりモンスターを狩ったりはしていない。だから、ウジャウジャって程ではないけどそれなりにいることはいるのだ。まあ、都市部周辺に出没するモンスターなんて雑魚中の雑魚、それも低レベルだから俺の敵ではないが、用心するに越したことはない。
「んー……この辺にいるのはスケルトンか。なら問題ないな。」
スケルトンは骸骨のような風貌で、錆びた剣とかを使って攻撃してくるアンデッドだ。体内に核があり、それを剥ぎ取らない限り死なない……と言われているけど、実際には浄化魔法で簡単に倒せる。死霊系のモンスターだから、浄化が弱点なのだ。
「魔法で潰した方が楽なのは確かだけど……もしウェスポード公爵家に行くなら多少は格闘技が使えないと門前払いを食らうかもしれないな。敢えて格闘するか。もしヤバくなったら浄化すればいいし。」
俺は拳を握りしめる。すると、癖というべきかその拳に勝手に魔力が集束し始めた。意識せずとも沁み付いた習慣は抜けないらしい。その魔力を何とかして振り払った時には、もう俺の魔力を感じ取った不気味な骸骨兵たちが俺の元へ我先にと集いてきていた。
「いきなりこんな数かよ……大地の神ガイアよ、我が敵を呑み込め! 【アースクラッシュ】!」
俺は拳を地面に突き立て、地割れを作り出す。スケルトンたちは声帯が無いはずの喉から悲鳴を上げながら、その地割れの中へ吸い込まれるように落ちていった。そして、全てのスケルトンが落ち切ると、役目を終えた地割れはゆっくりと閉じていく。骨がボキボキと折れる嫌な音が響くが、それは聞かなかったことにした。
「いくらなんでもあんなにいたら、格闘技で対応は無理だ……ウェスポード公爵家の奴らなら別かもしれないけど……」
俺は今度は魔力が集束しないように注意しながら再び拳を握る。そして、ワーツージ帝国側に向かって歩き出した。
「せいっ!」
「ガシャッ……」
「はああああっ!」
「ガシャシャ……」
俺の拳が骸骨兵の肋骨を打ち砕き、そのまま核まで粉砕する。剥き出しの骨を折るのは慣れない格闘でも意外と簡単だった。
「この程度の雑魚ならあんまり慣れてないパンチでも十分なんだな。これが格闘技っていえるのかって問われたら……微妙だけど。」
はっきり言って、俺はただがむしゃらに拳を振って強引に殴り飛ばしているだけ。格闘技というにはあまりにも烏滸がましいだろう。
「やっぱ魔法を使った方が良いのか……? いや、それじゃ駄目だ。そもそも魔法の才能は俺が努力してつけたものじゃないし、ウェスポード公爵にどうにかして取り入らないといけないからな……」
俺は尚も骸骨兵を殴り、核を粉砕しながらそう呟く。実質、魔法は使いやすいがこれに頼りすぎるのは良くないだろう。この世界にはサイクロプスベアーやギガントキャタピラーなど魔術無効のモンスターや、レジスト変異種と呼ばれる魔術に高い抵抗を持つ特殊モンスターがいる。ジーク公爵領にいる間は絶対といっていい程出くわさなかったが、これからも出会わないとは限らないからな。
「魔法はもう少し封印して、格闘の熟練度を上げるか。」
俺は新しいスケルトンを探し、森の中を彷徨うのだった。
「せえええええいっ!」
「ガシャシャッ?」
「はああああああああっ!」
「ガシャガシャッ……」
2時間森の中を徘徊した結果、なかなか格闘の威力が上がって来た。核を砕くまでが精一杯だった俺の拳は今では背骨まで打ち砕き、その後ろにいるスケルトンの核をも砕けるほどまでに威力が出るようになった。
「あ、またいた。よっと。」
「ガシャッ……」
こんな風に、出合い頭でも慌てず騒がず、ついでにあんまり大声を出さなくても屠れるようになったし、なかなか熟練度も上がって来たんじゃないだろうか。
「ふう……でも流石にちょっと疲れてきたな……あと2、3体屠れたら一旦休憩しよう。」
俺は【鑑定魔法】で自分のステータスを確認する。
【アルフレッド・ジーク】
HP:43900
MP:99999990
SP:4239
「SPが若干減ってるな……」
SP、即ち気力が減少しているが、まだ問題になるほどの減少量ではない。MPもあるから、スケルトンより多少強いのが来ても問題はなさそうだ。
「SPが切れると無気力状態になるしな……用心するに越したことはないか。」
俺は考えながら、茂みをガサガサと揺らして出てきたスケルトンをまた一撃で屠る。容易いな。
「これだと、もう少し手応えがあるのが来ても大丈夫そうだな。」
こう呟いた3秒後、俺はフラグを立てるべきでは無かったと後悔することになる。
――グオオオオオオオオオン!
突如何かの咆哮のような音が響き渡り、続いて茂みが先程より大きくガサガサと揺れる。何が出るかと思い、杖を構えて様子を見ると、そこから出てきたのは身の丈3mを超える骸骨兵だった。
「スケルトン・グランドマスターか……」
スケルトン・グランドマスター、それは名の通りスケルトンだが強さは通常のスケルトンの10倍以上。だが、いくら大きかろうともスケルトンはスケルトンだ。俺の拳で粉砕はできないだろうが、魔法なら効くだろう。
「浄化の神キュアルよ、その力で我が敵を浄化したまえ! 【クリーナップシャワー】!」
呪文に呼応して浄化の光の矢がスケルトン・グランドマスターに降り注ぐ。しかし、スケルトン・グランドマスターは倒れなかった。
「ま、まさか……レジスト変異種?」
俺は慌てて【鑑定魔法】を発動。すると……
【スケルトン・グランドマスター】
種族:スケルトン
HP:40000
MP:3789
SP:7000
特記:レジスト変異種
やはりレジスト変異種だった。こんな敵には逃走一択だ。だが……
「グオオオオオオオオオン!」
「やっぱり見逃してくれないよなチクショウ!」
俺は悪態をつきながらダッシュを開始するのだった。勿論ワーツージ帝国の方向に向かって。