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W000.公爵格闘家、脱走

「お待ちください、アルメリア様!」

「お嬢様、お待ちを!」


 屋敷の廊下をずんずん進む私、アルメリア・ウェスポードを爺やとヌヌが追いかけてくる。でも、私に止まる気はない。


「爺やとヌヌにはこれまでいっぱいお世話してもらって感謝はしてるわ。でも、私は出ていくって決めたの。こんな生活はもううんざり!」


 私は叫ぶと振り向きざまに拳を突き出した。それだけで拳から衝撃波が飛び出し、爺やとヌヌを吹き飛ばす。その隙に、私は全力ダッシュを開始した。


「あ、アルメリア様!」

「お嬢様!」


 爺やとヌヌは悲痛な叫びをあげながらなおも私を追ってくるけど、もう私は準備万端。


「【亜光速脚】!」


 私は走力を上げる武技を使用して屋敷のドアを体当たりで破壊、そのまま逃走した。爺やとヌヌ、2人の叫びを背に受けながら。



 私ことアルメリア・ウェスポードは代々帝国に仕える帝国騎士団団長の家柄であるウェスポード公爵家の長女。私の祖父の代に公爵になったっぽい。普通、私は女だから家督も爵位も継げないんだけど、母が私を産んですぐ亡くなった上、父は側室がいなかったので、現皇帝陛下は特例として私が爵位を継いでもいいと許可なさった。そのせいで、私は物心ついた時から剣術や体術の修行で父にしごかれ続け、いつも傷だらけ。私しか子供がいないからって、流石に酷いと思う。何回も直に抗議したし、執事の爺やとか乳母のヌヌとかが抗議してくれた時もあったけど、父の態度も訓練の厳しさも変わらなかった。可愛い服が着たくても、騎士鎧しか着ることができない。遊びに行きたくても訓練しかさせて貰えない。来る日も来る日も訓練、訓練、訓練。毎日こんなかって思ったらもうたまらなくなった私は、13歳の時に逃げようと決心した。でもそれは心が読めるという特技を持つうちお抱えの冒険者に察知され、しかもそれが父に伝えられたせいで私は部屋に閉じ込められた。それからは毎日抑圧され、訓練の時には庭に、それが終われば閉じ込め部屋。その繰り返し。もう精神がおかしくなりそうだった。そんな生活は3年も続いて、もう自殺でもしようかと思い始めた時に、ラッキーなことが起きた。父が急遽王宮に詰めることになったのだ。理由は騎士団の緊急強化。父は私が逃げ出さないように、部屋のドアの前に屈強な冒険者を何人もつけて24時間監視体制を敷いたけど、ずっと訓練を続けていた私にとってはそんなもの障害にもならない。そんな訳で、私はドアを破壊し、ドア前にいた冒険者を全員無力化して逃げた。爺やとヌヌには手を上げたくなかったから、あの2人に追われた時は正直止めようかとも思ったけど、もう抑圧は嫌だったし、あのままだったら絶対に私はおかしくなる。だったらこのチャンスをものにしなきゃ。そう思い直して、私は逃亡した。


「……まずはどこへ逃げるか考えなきゃよね。」


 私はウェスポード公爵領の隣にあるカイゼール侯爵領内の竹林で考え始めた。余談だけど、カイゼール侯爵は公爵より爵位が1つ下。でも、実力は皇帝陛下に認められていて、聖剣騎士団っていう帝国騎士団と同じくらいの規模の騎士団の団長でもある。カイゼール侯爵はうちの父と不倶戴天の敵同士だから、父はこの領地に絶対近付こうとしない。つまり、私がこの領内にいる限り、父に見つかることはまずない。でも、カイゼール侯爵は父だけじゃなくてウェスポード公爵家そのものを目の敵にしているから匿って貰うなんてできっこないし、あんまり長い間この領内に留まる訳にもいかない。父が公爵命令を出したところでカイゼール侯爵がそう簡単に頷くとは思えないけど、もしその命令が帝国内全てに発布されたりしたらこと。事情を察したカイゼール侯爵が私を人質に取って父に身代金を要求するかもしれない。父を困らせるのは別に構わない……というより、寧ろ積極的に迷惑をかけたいくらいなんだけど、爺やとかヌヌに迷惑をかけるのは嫌だ。それに、もし父が身代金要求を断ったら私はまず間違いなく殺される。ついでに死体はウェスポード公爵領に送りつけられるだろう。死んでからもそんな醜態を晒すなんて、絶対に嫌。


「やっぱり最低でも隣のハイデガー帝国よね。カイゼール侯爵の領地は確かハイデガー帝国のポンラールとかいう伯爵の領地の森とくっついてたし、まずハイデガー帝国に行こうかな。」


 私はこのワーツージ帝国の隣、ハイデガー帝国まで逃げることにした。ハイデガーには代々優秀な魔術師の家柄であるジーク公爵っていう人がいるみたいだし、その公爵領まで行くのも手かもしれない。隣国の貴族の跡取りって言ったら警戒されるかもしれないけど、そこは上手く誤魔化せばいいし、ばれても抑圧された生活から逃げたって言えば、そう無碍には扱われないはず。私を殺しちゃったりしたら国際問題になるかもしれないしね。それに、魔法を覚えれば格闘と魔法で戦えるようになるから、父がもし感付いて私を連れ戻そうとしても抵抗できる。


「まあ、どこに身を置くかはハイデガー帝国に着いてからでも問題ないわね。幸い路銀は捨てるほどあるし、父の剣もいくつかパクってきたから何とかなるでしょ。」


 私はそう独り言を呟くと、ハイデガー帝国に向かって1歩踏み出すのだった。

新連載です。


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