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M000.公爵魔術師、出奔

「お待ちください、アルフ様!」

「お坊ちゃま、お待ちを!」


 屋敷の廊下をずんずん進む俺、アルフレッド・ジークを爺やとヌヌが必死に引き留めようとする。だが、俺は止まる気はない。


「爺やとヌヌには感謝してるけど、俺は出ていくって決めたんだ。こんな生活はもううんざりなんだよ!」


 叫ぶだけで俺の身体から魔力波が放出され、爺やとヌヌを吹き飛ばす。その隙に俺は廊下をダッシュした。


「あ、アルフ様!」

「お坊ちゃま!」


 爺やとヌヌは悲痛な叫びをあげながらなおも追ってこようとするが、俺はもう準備万端。


「空間を司りし神パレルよ、我を超越せし空間の狭間へいざなえ! 【ワープホール】!」


 呪文に呼応して俺の目の前に漆黒の空間が現れる。何もかもを呑み込んでしまいそうなその暗闇に、俺はダイブした。爺やとヌヌ、2人の叫びを背に受けながら。



 俺ことアルフレッド・ジークは代々優秀な宮廷魔導士であるジーク公爵家の長男だ。俺の曾祖父の代に公爵になったらしい。それ故俺は、帝国の剣であり盾でもある宮廷魔導士の筆頭になることが生まれた時から定まっていた。物心ついた頃から魔法の訓練に明け暮れる毎日で、親父にしごかれ続け、俺の身体にはいつも青あざや擦り傷、切り傷が絶えなかった。執事の爺やとか乳母のヌヌはやりすぎなのではないかと抗議してくれたりもしたが、親父の姿勢は変わらなかった。弟だっているのに、俺ばかりが朝から晩まで訓練させられていた。弟はやる気がない俺に家督を継がせるくらいなら自分に継がせろと親父に直談判したことがあったし、俺もそれを支持したが、親父は首を縦に振らなかった。そこまで俺に親父が執着したのは、恐らく才能の問題だろう。才能は熱意がある者にある訳じゃないからな。俺は生まれつきついていた【魔力解放】というスキルで魔法を無尽蔵に放てたし、特殊属性を含む魔術全72属性に適性があった。それに対して弟は生まれつきついていた【魔力抑制】というスキルで最低威力の魔法しか撃てない上、適性があったのも攻撃力も汎用性も利便性も希少性もない、所謂ハズレ属性の風属性だけ。どちらが後継ぎに相応しいかといえば、宮廷魔導士としても貴族の体面としても俺に決まっている。ということで、俺はずっとしごかれ続けていた。自分に才能があることを恨んだこともある、というより恨み続けだ。だが、今日は初めて感謝した。なにせ、親父の隙をついて、雷属性の魔法で親父を気絶させられたんだから。邪魔者を黙らせた俺は、その場で拘束魔法を最大出力で使い、親父を庭にある中で一番太い大木に縛り付けた。そして、ずっと前から準備していた異空間倉庫に必要物を全て放り込んで、出奔することにしたのだ。爺やとヌヌには手を上げたくなかったので、あの2人に追われた時はちょっと迷ったけど、それでももう公爵家はうんざりだ。今日を逃したら、恐らく親父を気絶させるチャンスなどもう2度と来ない。そう思って、俺は出奔した。


「さて、まずはどこへ逃げるかだ……」


 俺は公爵領の隣にあるポンラール伯爵の領内にある森の中で考え始めた。因みにポンラール伯爵は公爵家より爵位は2つ下だが、皇帝陛下に実力を認められ、宮廷魔導士二席についているので、親父もおいそれと手出しはしない。仮に何か言ってきても、ポンラール伯爵は親父のことが嫌いだから断るだろうし、取り敢えずこの森にいれば、すぐに見つかることはない。ポンラール伯爵は俺に恩を売っておきたいみたいだから、事情を話せば匿って貰えるかもしれないけど、公爵領の隣の領地じゃ近すぎる。それに、伯爵領に親父が私兵を変装させて送り込んでたりしたら、速攻で居場所がバレる。もっと見つかりにくいところに逃げるべきだろう。


「まあ、この帝国内に居たら見つかる可能性が高いし、最低でも隣のワーツージ帝国だよな……確か、この森はワーツージ帝国と接してたし、そこまで行ってからまた考えるかな。」


 俺はこのハイデガー帝国の隣国、ワーツージ帝国まで逃げることにした。ワーツージには格闘に秀でたウェスポードとかいう公爵もいるみたいだし、その公爵の領地まで行ってみるのも手かもしれない。隣国の貴族の嫡男だって言ったら警戒されるかもしれないけど、そこは上手く誤魔化せばいいし、バレても他国からの出奔って言えば、そう無碍には扱われないはず。俺を殺したりしたら国際問題に発展しかねないしな。それに格闘を覚えれば、万が一親父に探し出されても魔法で身体能力を強化して格闘することができる。そうなれば、そう簡単に連れ戻されたりはしないだろう。隣国に戦力を向けたりしたらそれこそ国際問題だし、戦争になるかもしれない。親父だって俺を連れ戻す為だけにそこまでする程バカじゃないはず。


「……どこに身を置くかはワーツージに着いてからでも問題ないな。幸い路銀は腐るほどあるし、親父の魔杖もいくつかパクってきたから、何とかなるだろ。」


 俺はそう独り言を呟くと、ワーツージ帝国に向かって1歩踏み出すのだった。

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