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9話:シロ

しばらくは一人旅の予定だったんですけど、色々と説明役が必要なのでこうなりました。

猫の一人称といえばワガハイですよね!

偉い人もそう言っていました。

一人と一匹の旅をこれからもよろしくお願いします。

 フェルディナント・フォン・シロニャルド三世

 呼び出した魔物、いや、猫はそう名乗った。


「ワガハイはフェルディナント・フォン・シロニャルド三世、古の大賢者の眷族(けんぞく)を務めたこともあるこのワガハイを呼び出したのはオヌシかニャ?」


 各部位のバランスこそ違えど真っ白い毛並みに二本足で立ち日本語を話しているこの魔物はどう見ても猫である。

 一瞬場が凍りつくが今は黒狼(ブラックウルフ)を前にして死闘の最中である。

 黒狼も突如現れたこの魔物を前に警戒しているのか今は足を止めている。


「な、なんなんだこいつ……。言葉が話せるのか、なんだかよくわからないけどあの黒狼を倒せるか?」


「あのような、下賎(げせん)な魔物、訳無いニャ! サクッとやっつけて新しいご主人への忠義の証しとするのニャ! おい、そこの下等種族! かかってくるのニャ! このフェルディナント・フォン・シロニャルド三世の刀の錆びにしてくれるのニャ!」


 どうみても刀など持っていないのだがこのフェルディナント…改め喋る白猫に黒狼が向かっていく。

 結果、呆気なく体当たりで吹き飛ばされる白猫…改めフェルディなんとか。


(ダメだアイツ…。これは撤退の準備かな……)


 切り札の使い魔がこれでは勝機がないというものである。

 炭坑夫達の殿(しんがり)を務めてなんとか街まで逃がすことに専念しようかと考えていたその時。

 ダメージはそれほどでもないのか、吹き飛ばされた白猫が立ち上がる、まだ諦めてはいないようだ。


「ワガハイに本気を出させるとはさてはさぞかし名のある魔物とお見受けするが、だが調子に乗っていられるのもここまでなのニャ! 冥土の土産に見せてやるニャ! 出でよ百虎隊!」


 なんとマサヤと同じモーションで召喚の紋章を空に刻むと、地面から涌き出るように現れたのは百虎隊と呼ばれた百匹の、いや、どう見ても十匹程度しかいないが自分よりは一回り小さな白猫。

 召喚獣が召喚とは、この世界の法則はどうなってるのだろうか……。


 白猫達は一斉に黒狼に襲いかかる、勝負は一瞬だった。

 黒狼に次々に蹴散らされる白猫達。

 召喚獣は基本的には実体を持たないため、ある程度のダメージを受けると触媒となった土に返る。

 全ての白猫が土に返り黒狼は少し疲れた様子でこちらを威嚇している。


「ワガハイの百虎隊までをも葬るとは、ならばさらなる奥の手を…………」


「おーい、シロ、もういい、撤退だ、お前はこのまま時間を稼げ」


「ニャ! シロとはなんニャ~、この古の大賢者様の眷族たるフェルディナント・フォン・シロニャルド三世に向かってシロとは! その辺の駄猫と一緒にしてもらってるは困るニャ!」


「そんな長い名前で呼べるか!どうせその大賢者とやらにも役に立たなくてクビにされたんだろ、大体百虎隊って百匹もいないじゃないか……」


「やつらの大部分は今出稼ぎに、いや、修行に出していたことをすっかり忘れていたのニャ! ところでご主人、待つのニャ! 撤退には及ばないニャ! これからが見せ場なのニャ!」


「次ダメだったら二度と呼び出さんからな、わかってるな!」


 作戦会議を終え、頃合いを見たように挑みかかってくる黒狼、シロは大袈裟な構えを取ると咳き込み始める


「ゲホ、ゲホン、カーッ! ペッ!」


 中年のおっさんのように巨大な毛玉を吐き出すシロ、あの体のどこからそんな質量の物が出てきたのか、毛玉は投網のように黒狼を捕らえ、完全に身動きを封じている。


「よし! ご主人! 今ニャ!」


 僕は身動きの取れなくなってもがいている黒狼の首をトリガーではねる。

 こうして黒狼との死闘?は幕を閉じた。


「まあ、なんだ、最後のはよくやったなシロ」


「だからワガハイの名はフェルディナント・フォン・シロニャルド三世、いやご主人にだけは特別にその名で呼ぶことを許すニャ! 信愛の証しなのニャ!」


「そうか、わかった、じゃあシロ、役目は終わったからもう帰っていいよ?」


「何を言ってるのかニャ、ワガハイを永続召喚したのはご主人だニャ、ワガハイ今日この時より、この世に肉体を得て古の大賢者の後継者たるご主人の部下として生きていくことになったニャ」


「えっ、土に帰らないの?」


「帰らないニャ!」


 困ったな…。よくわからないが、もうクーリングオフは効かないらしい、諦めて飼うしかないようだ……。




「よう、兄ちゃん、取り込み中のところすまねぇな」


 振り返ると親方がこちらのやり取りを不信な目で眺めていた。


「あっ、親方さん、そっちは?」


「ああ、軽く怪我を負った者も居るがなんてこたぁねぇ、黒狼がやられるとみんな逃げていったよ、しばらくは襲って来ないだろうさ、それより兄ちゃん凄いな、あの黒狼をやっつけちまうなんて、あとそこのちっこいのも」


「ええ、なんとか、ギリギリでしたけど…」


「ワガハイのおかげなのニャ! 充分に感謝するのニャ!」


 マサヤはドヤ顔のシロを放っておいて話をすすめることにした。


「あれはバウンティーモンスターだからギルドに持っていけば賞金ががっぽりだろうさ、運搬は俺達に任せといてくれ、兄ちゃんは命の恩人だからな、正直兄ちゃんが居なかったら撤退もままならなく全滅してただろうよ、俺達は運が良かったよ」


 そう言って部下達に指示を出して荷車に黒狼の死体を積み込んでいる。

 怪我人も居ることだし、どちらにしろ今日は仕事にならないだろう、全員で山を降りギルドに向かうことになった。





 そして街のギルドに黒狼を死体を運び込んだとき荷車の周りには人だかりが出来ていた。

 度々現れては人を襲う黒狼の被害は深刻だったらしくマサヤは英雄のような扱いを受ける。


 ギルドの受付に行き依頼の報告を済ませるとスライム討伐の300ゴールド。

 更にバウンティーモンスターの討伐報酬に1500ゴールド。

 そして黒狼の毛皮や牙が高く売れるとのことで1500ゴールドで引き取ってもらえることになった。

 しめて3300ゴールドの儲けである。


 討伐報酬だけなら体の一部分だけ持ってくれば証となるそうなのだが、親方が死体をそのまま運んでくれると言ったのはそういうことだったようだ。

 マサヤは親方にお礼を言う。


「いや、これくらいお安いご用さ、それより解体後の肉はどうするんだい?」


 聞くと毛皮と牙など使える素材を剥ぎ取った後の肉は持ち込んだ討伐者に権利があるらしい。


「え、これって食べられるんですか?」


「ああ、この街の名物はジビエ料理でな、なかでも黒狼の肉は絶品なんだよ、ここの酒場に持ち込めば調理してくれると思うぜ」


「じゃあせっかくなんでみなさんでどうですか? 僕だけじゃそんなに食べきれないですし」


 こうして酒場での宴が始まった。


「今日はこの兄ちゃんが仕留めた黒狼を振る舞ってくれるそうだ、みんなじゃんじゃん食べな!」


 酒場に集まった男達からわき上がる歓声、次から次へと運ばれてくるビール、マサヤの前にも木製のジョッキに注がれた琥珀色の液体が運ばれてきた。


「いや、あの僕は未成年なんでお酒は…」


「兄ちゃんいくつだい?」


「15です…」


「なんだもう大人じゃないか、なあに酒代は心配要らねぇ、肉の代わりと言っちゃなんだが俺達の奢りだ、じゃんじゃんやってくんな」


 どうやらこの世界の法律では問題ないようだ。


「じゃあお前ら、全員の無事と、この勇敢な兄ちゃんに乾杯!」


「乾杯!」


 マサヤは恐る恐る琥珀色の液体を流し込んだ。

(苦い、大人の味だ…………)


 乾杯を追えると怪我の手当てを終えやって来た包帯を巻いた炭坑夫とその妻だろうか、二人は僕のところにやってきた。


「兄ちゃん、今日はほんと世話になったな、黒狼が出たときはもうダメかと思ったよ、俺は実は結婚したばかりでな、新婚早々妻を未亡人にしちまうところだったよ」


「この度は夫を助けて頂いてありがとうございました、ほんとうにもうなんとお礼をもうしあげたらいいか…」


「いえいえ、そんなに頭を下げないでください、たまたまうまくいっただけですから」


 その後も炭坑夫達は次々にマサヤのところにやってくる。

 マサヤにとってこんなにたくさんの人から感謝されることなど初めての経験であった。

 自分が助けた人たちの笑顔に囲まれ、マサヤは少し恥ずかしいようで誇らしいような、そしてなにより自分の実力で男として認められた充実感を感じるのであった。


 そうこうしてるうちに料理が運ばれてきた。


「黒狼のステーキです、こちらは一頭から一人前しか取れない最高級のヒレ肉を使ってますので、今回の功労者のマサヤさんに是非とのことです」


 酒場の看板が持ってきたのは鉄板に盛られた分厚いステーキだった。

 掛けられたタレがジュウジュウととても美味しそうである。

 ナイフで切って一口食べてみる。


 「これは美味い!」


 淡白な赤身だがほどよくレアに焼き上げられた肉質はとても柔らかく、このタレのおかげだろうか獣臭さも全然無い、さすがは名物といった味である。


 こちらのおチビさんにもと、シロもイスに座り出されたステーキを器用にナイフとフォークで食べている。


「ワガハイこんな美味しい料理は食べたことないニャ!」


(猫ってそうゆう食べ方はしないんじゃ…)


 もうシロのことは放って置くことにして。

 たくさん人が集まっていい機会なので聞きたかったことを聞いてみる。


「あの、何年か前にこの街に僕と同じくらいの女性の血の魔術師(ブラッドマスター)は来ませんでしたか?」


「ああ、そうだ、何年か前にも黒狼が出たことがあって、それを仕留めたのが若い姉ちゃんだったな、あの時の獲物はでかかった、それなのにその姉ちゃんかなりの使い手で一瞬で仕留めてきたって話だぜ」


「ほんとですか?それ僕の姉さんかもしれないんです!どこへ行くと言っていたかとかわかりますか?」


「なんでも人を探してるとかで、砂漠を越えるって言ってたな、その時は鉄道もまだ開通してなくて一人では危険だと止めたんだが…」


 (なんとか手がかりだけでも聞くことができてよかったな、姉さん無事なんだろうか……)



 その夜の宴は盛大に朝方まで続いたのだった。





狼にヒレ肉があるのかって?

あるんですよ、きっとあるということで!

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