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2話:羊飼いの少年

『ようこそBloody Questの世界へ!あなたはこの村で母親と二人、羊飼いをして細々と暮らしている少年、今日は羊の出荷の手伝いで麓の村長さんのところに羊を届けにいく日、プレイヤーよ、さあ早く目を覚ますんだ!君の冒険の旅はここから始まる』



 なんだか耳元でナレーションめいたものが聞こえる



「マサヤ、ほらマサヤ起きて……」



「なんだよ母さん今日は学校休みじゃないか、もう少し寝かせてくれよ……」



「学校?あなた何寝ぼけたこといってるの?今日は羊を売りにいくって言ってたでしょう、早くしないと日が暮れてしまうわよ」



 羊?

 なんのことを言ってるんだ。

 頭が、酷く頭が痛い……。

 視界もとても暗い…………。

 ここはどこだ…………。

 俺は何をしてたんだっけ………………。






 起きるとそこは見知らぬ部屋で、母さんが文句を言っている。


 (あれ? 母さん?僕の母さんってこんな人だっけ?)


 現実のマサヤとゲームキャラとしてのマサヤ、記憶がごちゃ混ぜになりながらもマサヤは起き上がる。


 まだかなり寝ぼけながら、母さん、と名乗る女性は。

 飼っている羊を村長さんに出荷する約束の日が今日であること。

  帰りに買い物を頼みたいこと、などを申し付けてくる。

 見たところ年齢不詳だが、日々の生活でくたびれた風貌ではあるものの、それなりの身なりをすればまだ若いのではないか。

  そしてどこか懐かしいようなとても優しい顔をしている。


 こちらの体調を心配してやっぱりわたしが行こうか?などと心配して声を掛けてくれた。


「大丈夫だよ!母さん、もう子供じゃないんだから」


 簡単な朝食を済ませ、笑顔でそう返す。

 メニューは硬いパンと具のほとんど入っていないスープ

 食器や部屋の中などを見渡してみるがここはどこか中世のヨーロッパ辺りの田舎、という設定なのだろうか。

 部屋の中でも靴を履いているところを見るとどう見ても日本ではないようだ。


 これも羊で作った製品なのだろうか、ゴワゴワした皮の服に着替える。

 そしていつも大事にしているこれも身に付ける。


 ドラゴンの形をしたキーホルダーのようものなのだが、これはなんだったろうか、思い出せそうで思い出せない。

 ドアにカギもないのにキーホルダーってことはないよな。

 この世界のお守りなんだろうか、とても精巧に作られたドラゴンの彫刻に、目には赤い宝石のようなものが埋め込まれている。

 およそこの質素な生活をしている家には不釣り合いな代物。


 この宝石見れば見るほど不思議だな、心の中を写し出すような、ただの宝石とは思えない。


 きっとこの少年(自分)が大事にしていた物だったのだろう、尻尾のところにチェーンがついているのでとりあえず腰に下げておくことにする。

 用意されたカバンのような物を背負い足早に出かける。

 そうだ、こいつも連れていくんだった、腰を縄でグルグル巻きにされた羊。

 散歩にでも行くと思ってるのだろう、だいぶ慣れているようで引くと大人しく着いてくる。



 母親に見送られ山道を下って行く


「村長さんの家はこの道をまっすぐ行った集落の中にあるって言ってたな、大きな家だからすぐにわかるって、それよりここ、ゲームの中なんだよな・・・」


 道の左右に生い茂る林、とてもセットのようには見えない

 先程の母親もどう見ても人間である。

 NPCだと決められた事しか返答できないようになっていそうなものなのに、こちらの会話に全て自然に対応していた。


 (実は日本から来ました、なんて言わない方がいいよなぁ…)

 それを告げると言うことは、あなたの息子の魂はどこぞへかと抜け落ちてしまったので今日から別人ですと告げるようなものだ。

 みたところ家族は他に居ないようだし、あんなに優しそうな母親にそのような事を告げるのは気が引ける。

 マサヤはこの世界では元の世界の話はしないことに決めた。


 山道を一時間ほどは歩いただろうか、集落が見えてくる。

 幸い村長さんの家らしき建物はすぐに見つかった。

 人の良さそうな村長さんが家の前の畑を耕している。

 羊を玄関の柱に繋ぐと中に通される。

 自宅のボロ家とは違う、木造ではあるがなかなか立派な作りである。


「おお、マサヤ、遅かったな、何かあったのかと思ったぞ、最近は山に山賊などが出るとの噂もあるからな、よし丸々と太っていい羊だな、これが代金だ」


 いかにもな布袋に入った硬貨を受けとる。


「ねえ村長、そういえば、羊はいつもいくらで卸してたっけ?」


「いつも通り300ゴールド入ってる、なんなら数えてもいいぞ」

 どうやら300ゴールドのようだ、それはどれくらいの価値があるもんなのだろうか


 考えていると一人の女性が入ってくる


「ただいまー! あ、マサヤ、来てたんだ」


 年の頃は自分と同じくらいだろうか髪は綺麗な黒髪を肩の辺りで綺麗に切り揃え、身なりも村人とは違う少し上等そうなものを着ている、顔色も良く、とても活発で健康そうな女性だった


 そしてなにより似ている、今日学校で会った、立花ハルカ、だったっけ、その少女に似ているのである。

 向こうは長い三つ編みに黒縁のメガネ、青白い顔でいかにも病弱そうではあったが、雰囲気、声などどこか似てるなと思わせる物があった。


「あ、どうもはじめまして、お邪魔してます」


 マサヤが挨拶をするとその女性は笑い転げた。


「マサヤどうしたの? 頭でも打った?」


 うっかりしていた、村長のおっさんが気さくに中まで通してくれてお茶を出してくれるような間柄なのだ。

 そこに出入りするこの少女とも当然面識があると考えるべきだった。


 その女性(ルリと名乗った)とはどうやら幼なじみらしく。

 頼まれた買い物がてら村を一緒に回ることになった。

 昨日変な夢を見たせいで記憶が混乱していると言うと深く考えた様子もなく納得してもらえた。


 マサヤが山を下りてきたのは久しぶりらしく。

 生活はどうしてるのか。

 困ったことはないのか。

 もっと山を降りて遊びに来るように、等々…。

 きっと村に同年代の若者も少なく話し相手に飢えていたのだろう、一度話し出すと止まらない。

 とてもよく笑いよく話す子だ。

 きっと凄くいい子、なんだろうな。


 とりあえず一週間分の食料と日用品など、村長さんに借りた台車に乗せて、休み休み、山道を行く。

 行きは下り坂に加えて羊は自分で歩いてくれた、帰りは大荷物の台車を引き登り坂である。


「ふう、結構疲れるもんなんだな、母さんが心配するといけないから早く帰ろう」


 すっかりルリと話し込んでしまった、日の落ちかけた山道を眺め、台車に腰掛け水を飲み干したマサヤは再び歩みを進める。






 その様子を茂みの中から眺めていた男達がいた。


「おかしら、あの荷物は食料に違いませんぜ、あれだけあれば数日は食いつなげるってもんでさぁ」


「ああ、弱そうなヒョロイ兄ちゃんだ、根こそぎ頂いちまおう」


 そんな輩に目をつけられてるとは露知らずマサヤは家路を急ぐのだった……。




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