17話:人質救出作戦
毎回引っ張ることを意識しているわけではないんですけど、気になるところで終わってしまいました、早いうちに続きに取りかかります
マサヤが正面からアジトに乗り込み大暴れしていたその頃。
裏口の外ではオーランとシロが潜入の隙を伺っていた。
「中が騒がしくなってきましたね、そろそろこちらも行動開始しましょうか、さて、どうしたものか…」
正面の戦闘にほぼ人手が割かれているとは思うが、オーランはドアを無理やり壊すと気づかれてしまうことを心配していた。
「ここはシロに任せるニャ!」
そういうとシロはまたマサヤのモーションを真似て召喚の儀式に入る。
「出でよ百虎隊!」
すると、土の中からシロより一回り小さな白猫が15匹ほど這い出してきた。
(ふむふむ、この数は、もしやご主人…いや、今はこっちの仕事に専念するニャ)
「よし!おまえたち!フォーメーションAだニャ!」
シロが命じると白猫達は一列になり一斉に壁に駆け出しフォーメーションを組むと先頭の一匹が壁に飛びかかりしがみつくと後続はその後ろ足にしがみつく、やがて自身の体で一本の橋を作り出した。
シロは橋になった猫達の背中を颯爽と駆け上がる、壁の頂上には少し足りていないが、そこでシロは垂直にジャンプ、更に壁を蹴り二段ジャンプのような形で音もなく壁の上に着地した。
本来猫というのはとても身体能力の高い動物で身長の五倍ほどの壁なら楽に登ってしまう。
猫の姿を持って召喚されたシロも例外ではなかった。
「ちょっとそこで待っているニャ」
驚いているオーランに何事もなかったかのように上から声を掛けるとシロは反対側に飛び降りていった。
しばらくしてドアの鍵が外され開いた。
「まあざっとこんなもんだニャ」
「凄いですね! 驚きましたよ!」
「ワガハイの活躍を後でご主人に充分に話して聞かせるとよいニャ、それではまずワガハイの配下を斥候として放つニャ、そして奥方殿の居場所を探ってこさせるのニャ」
オーランのサポートにシロを付けたマサヤの判断は正しかった。
シロの配下『百虎隊』はシロ専用の召喚獣である、人の言葉こそ話せないが自身に似せた白猫達に自在に命令を下すことができる。
戦闘能力はほぼ猫並みだがこのような偵察任務にはもってこいである。
何より敵に見つかってもただ野良猫が歩いているようにしか見えないのだから。
そうこうしてるうちに斥候に放った百虎隊の隊員が帰って来たようだ。
「ニャるほど、よし、イチゴウ、でかしたニャ!」
「シロさん、何かわかりましたか?」
「この先の壁づたいにいった先に地下牢があるニャ、そこに人間のメスが大量に捕らえられていたとのことニャ、ちなみに見張りは二人居るニャ!」
「見張りですか、わたしがなんとかしますよ、シロさんだけに頼りっぱなしというわけにはいきませんから」
二人は地下牢に降りる階段前までやってくる。
ちょうどその頃マサヤが網に絡め取られている盗賊達に火を放ったところであった。
囮になったマサヤは充分に役目を果たしているらしく砦の中は大騒ぎである
「そうだ、あれを利用しましょうか」
オーランはそう言うと階段の下に向けて
「火事だー!火事だぞー!」
と叫び始めた。
すぐに何事かと盗賊が階段をかけ上がってくる。
階段の入り口の横に潜んだオーランは死角からタイミングよく力任せに剣を振り回す。
不意に直撃を受けた盗賊の首は無機質な音を立てて地面に落ちた。
続いてもう一人の見張りの男が出てくる。
「貴様よくも…、おい! 侵入者だぞ! 誰か居ないか!」
男は声をあげるが、正門から侵入したマサヤによって既に辺りは大騒ぎである、男の声は届かない。
「くそっ、なんだお前たちは、なぜ誰も来ない…」
盗賊は仕方なく腰の剣を抜きオーランに向かって構える。
その盗賊に向かってオーランも剣を構える。
「剣を捨て、包丁に持ち替えて、もう二度と人を切ることはないと思ったがな、妻を、アナスタシアを拐ったお前たちは許さないぞ」
怒涛の覇気をもってオーランは盗賊に切りかかる。
オーランの覇気に押され盗賊は防戦一方である。
「ほら、どうした! 俺の戦ってきた魔獣共は、赤兜はこんなもんじゃなかったぞ、砂漠に引きこもって略奪をするだけのお前たちにはわかるまい!」
オーランの剣は防御など一切考えない捨て身の剣であった。
実際オーランは命などここで捨ててもいいと考えていた。
この見張りの盗賊さえなんとかすれば後はシロとマサヤがなんとかしてくれるだろうと。
対して盗賊は命が惜しかった、ただ楽していい思いができると盗賊団に身を置く半端者である。
団長の言う大義などなんのことかすら理解していない。
両者の思いの差は歴然であった、そしてその思いの差が両者の命運を分けた。
攻撃を捌き切れなくなった盗賊は肩口からオーランの一撃をまともに受け、崩れ落ちていった。
そんな男達の戦いを見守っていたシロは
(恐らく両者の実力はほぼ互角だったはず、いや、ブランクの差でまともにやれば盗賊に分があっただろう、それがこの結果とは、フフフ、これだから人間とは面白いニャ)
と怪しく微笑むと
「終わったかニャ? それでは地下牢に降りるニャ」
いつもの調子でオーランに語りかける。
「ええ、急ぎましょう!」
二人は地下牢の階段を降りる。
地下は思いのほかスペースが広く、立派な地下牢が設けられていた、軍の廃棄した施設というのも頷ける話である。
返り血を浴びたオーランを見ると牢の中の女性達は一斉に怯えだした。
「心配しないでください、わたしは盗賊の仲間ではありません」
「どうかニャ? 奥方殿は居るかニャ?」
オーランは薄暗い牢の中を松明で照らすと肩を落として言った。
「いえ、妻は居ないみたいです……」
「そうかニャ、じゃあここは放っておいて次を探すニャ」
合理的にシロは判断を下す、マサヤに与えられた命令はオーランの妻の救出である、もちろん他の女性も助けられるに越したことはないが優先事項ではない。
「いえ、シロさん待ってください、外に出たらもうここには戻ってこられなくなるかもしれない、砦には火の手も上がっています、先にここに居る女性達を助けましょう」
「奥方殿はいいのかニャ? オヌシはなんのために命賭けてここに来たかわかっているのニャ?」
キツい口調でシロが言う。
「ええ、もちろんです、わたしは過去に仲間を見捨てて自分だけ助かった男です、そんな卑怯者の自分を妻は受け入れてくれた。
でももしここで再びこの人たちを見捨てたら、もう二度と妻に会わせる顔がない気がして…だからわたしは、昔と同じ過ちを犯したくはないんです」
「人間とは不合理な物の考え方をするものだニャ…」
やれやれと言った風にシロは牢の鍵を投げて渡す
「さっき見張りの男の死体から抜き取っておいたニャ、急ぐニャ!」
オーランは牢の扉を開け女性達を誘導する
「もう大丈夫です、砦の外まで案内するので着いてきてください」
こうしてオーラン達は妻を除く人質達の救出に成功したのだった。
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その頃砦の中の一番大きな建物では
特徴的な赤いモヒカンに盗賊団お揃いの皮ジャンを着た男
砂漠のジャッカル団団長カシムが正に人質の女性をいたぶるところであった。
「クックック、捕らえてきた女の中ではねーちゃんが一番の上玉だ、光栄に思えよ、団長の俺直々に寵愛を授けられるんだからな、名はなんという?」
「あなたのような下朗に名乗る名はありません、わたしには夫が居ます、もし酷いことをするなら舌を噛んで死にます!」
「活きのいい女だ、女はこうじゃなくちゃいけねぇ、その威勢がいつまで続くかな」
カシムは女性の顔を鷲掴みにすると、首にかけられた首飾りを取り出し彫られた名前を読み上げる
「どれどれ、アナスタシアか、いい名だ…」
人質の救出を優先したオーラン
夫を信じ気丈に振る舞うアナスタシア
二人の思惑が混じり合い砦の夜は更けていく
主人公なのでなるべく万人受けするようにキャラとしての癖を消そうとするマサヤに対して、オーランが思いのほか感情丸出しでいいやつになってきているという、RPG風の物語にした妙というやつでしょうか