15話:オーランの過去
登場人物おさらい(ゲーム世界)
「オーラン」
マサヤと列車に偶然乗り合わせた乗客、新婚の妻を拐われマサヤと共に救出に向かう。
妻の尻に敷かれているらしい。
「アナスタシア」
列車でのハネムーンの最中砂漠のジャッカル団の襲撃に合い、今は囚われの身。
食べ歩きが趣味。
「カシム」
砂漠のジャッカル団団長、極悪非道な性格だがその統率力により仲間達からの信頼は高い。
やたらと大義という言葉を口にする。
こうして砂漠のジャッカル団のアジトに向かうことになった一同は、彼らの乗ってきた砂トカゲを探すことになった。
シロの鼻を頼りに歩き、集落を抜けた先に、主の命令もなくもて余している様子の砂トカゲが二頭彷徨っていた。
「よし、ちょっとシロが話をつけてくるニャ!」
そう言って駆け出すと。
「やあやあお前たち、あんなチンピラ盗賊団に肩入れしてもろくなことにならないニャ、今ならワガハイの配下に加えてやってもいいのニャ」
「ギャー、ギャギャ、ギギギ…」
全く言葉がわからないがどうやら会話は成立しているようで。
「ご主人、さっきの狼の干し肉で話が付いたニャ!」
「ああ、それくらいなら、これ全部あげていいよ」
旅の非常食ではあったが背に腹は代えられない。
バッグから出した干し肉を全部シロに渡すとシロは餌付けを始めた。
「マサヤさん、急ぎたいところですが装備を整えましょうか、駅員さんが宿舎にあるものを使っていいと言ってましたし」
とオーランが言った。
マサヤより10くらいは年上だろうか、妻を拐われて焦っているかと思いきや、オーランは冷静だった。
「ええ、そうですね」
集落の外れにある宿舎に二人で入っていく。
戸棚を漁ると、マント、ゴーグル、マスクを手慣れた様子でオーランは選んだ。
「砂トカゲは砂上をかなりのスピードで走ることが出切るんですが、いかんせん砂ぼこりが酷くて、ゴーグルとマスクは必需品なんですよ」
「乗ったことがあるんですか?」
「ええ、冒険者時代に少し」
「へえー、オーランさんってどんな冒険者だったんですか?」
「わたしですか?わたしなんかマサヤさんと比べると全然小物ですよ、そうほんと、ただの小物で……」
そう言うと遠くに目を向けオーランは語り始めた。
「わたしはこれでも地元でちょっとヤンチャをしてましてね、ケンカでは誰にも負けたことがなかった、その勢いでゴロツキの仲間達と都会に出て一旗上げようなんて冒険者を始めたんです」
「へえ、意外ですね優しそうでそんな感じには見えないのに」
「最初は上手くいってたんですよ、スライム退治にゴブリン退治、簡単な以来からコツコツとやっていって、その報酬の金をうまく遣り繰りしてわたしも血の魔術師になろうと思ってトリガーを買ったんです、今思えばそれがいけなかった……」
「えっ、トリガーって買えるんですか?」
「ああ…。それらしきものは買える、買えるんですが…。
それは本物のトリガーには遠く及ばない本物を真似て作った模倣品、偽物の力だった、そんなことも知らずにトリガーを手にしたわたしは最強の力が手に入ったと思いこみ、でかい依頼を受けた。
森の魔獣赤兜の討伐です、森に入ったわたし達はすでに勝った気で居ました、報酬で何を買おうかってね、だが結果は全滅、模倣品のトリガーではレベル1の能力しか引き出せない、核となる魔宝石の成長限界ってやつです、仲間が次々に食われていく中わたしは逃げた、今でも仲間達の悲鳴が頭にこびりついて離れません……」
「そんなことが……」
「それからわたしは冒険者からは足を洗った、脱け殻のようになったわたしは流れ着いた街で料理人を始めたんです、そんな時でした、妻のアナスタシアに出会ったのは、こんな罪深いわたしの料理を美味しいと言ってくれたんです。
救われた気がした、まだわたしにもできることがあるんだって、わたしはもう二度と大切な人を見捨てるわけにはいかないんです」
「それは絶対に助けなきゃいけませんね! 僕も最善を尽くします、頑張りましょう」
オーランの覚悟も背負いマサヤは小屋を出る。
ちょうどシロが餌付けを終えたところで砂トカゲの頭の上に立ちポーズを取り。
「ご主人! 準備万端だニャ! いざチンピラ盗賊団を蹴散らしに行くニャ!」
シロもすっかりやる気になっているようだ。
思えば最初は役に立たないハズレの召喚獣かと思ったが、なかなか便りになるやつなのだ。
「よし、シロ行こうか、その前にこれね」
マサヤは小屋で見つけた子供用のゴーグルをシロにも付けてあげる。
「これで大丈夫、行き先はもう聞き出してある?」
「バッチリだニャ!」
砂トカゲに跨がり手綱をしっかりと握る。
ゆっくりと砂トカゲは前進し始めやがてかなりのスピードになる。
月明かりの中マサヤは砦へと進む。
横に並走してるオーランが話しかけてくる。
「そういえばマサヤさん、あの盗賊団の団長の使っていたトリガー、似てるんです、わたしが使っていた物に、おそらくはあれもわたしが使っていた物と同じではないかと」
「模倣品ってことですか?」
「ええ、模倣品のトリガーには呪いのような術式が組み込まれていて、それを手にしたものはまるで英雄になったような万能感を得るんです、駅員の人が言ってましたよね? 元はケチな盗賊団だったって、いきなり過激な行動に至った原因はそれなんじゃないかと…」
「なるほど、ってことは向こうはレベル1の能力しか持っていないわけだ」
「ちなみにマサヤさんは? あの動きではかなり上のレベルなんじゃないですか?」
「僕はレベル3ですよ」
「あれでも3なんですか、ほんと本物は次元が違う…」
「レベルっていくつまであるんですかね?」
「噂では10までと言われていますが、だがレベル10を見たものは誰もいないという話ですし、そんな能力を引き出せるのは古の大賢者が持っていたというオリジナルのトリガーだけと言われていますからね、マサヤさんのもなかなかの値打ち物みたいですけどまさかね…」
「そうですよね、あ! あれじゃないですか砦」
一時間ほどは走っただろうか目の前には石造りの大きな砦。
深夜にも関わらずかがり火が大量に焚かれているところを見ると警戒体制なのだろう。
とりあえず岩陰に砂トカゲを隠し、マサヤ達は潜入の準備を整える。
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一方その頃、砦の中で団長カシムは上機嫌だった。
「あのコウモリを出す小僧、変わったトリガーを持っていやがったな、あいつのあの目、きっとここまで人質を取り返しにくる、あいつを殺せばあのトリガーは俺のもんだ、そうすれば俺も教団の幹部に…。
面白くなってきやがった、金も女も力も全て俺のもんだ」
カシムの腕には緑色の石がはめ込まれた腕輪が光る。
「おい、お前ら! まもなく小僧が一匹ここにやってくる、今日は寝ずの番だ! 殺したやつには今日とらえた女の中から好きなやつを奴隷にしていいぞ!抜かるんじゃねぇぞ!全ては大義のために!」
「大義のために!」
盗賊達の士気は恐ろしく高い。
月明かりが照らす砂漠の真ん中。
もうすぐこの地で戦闘が始まる。