14話:惨劇の後
今回の話はとても苦労しました、なんのことはない繋ぎの場面でしかないんですけど、改めてお話作るのって大変だなーと。
精進あるのみですね。
マサヤは悔しそうに盗賊の逃げた方向を眺めていた。
個人の能力では圧倒していたはずだ。
もっと上手くやれたはずだった……。
しかし今は悔やんでいる状況ではない。
同じく呆然と立ち尽くしている若者に声を掛ける。
「列車に僕の相棒が残っています、もしかしたら盗賊の残党に何か聞き出せるかもしれません」
「えっ、ああ…。そうなんですか、それでは行きましょう」
ここまで全力で走ってきたのか、息を切らしている若者を連れて車内に戻ることにした。
列車に戻るとそこは酷い状況だった。
車内は血にまみれ、所々に死体や怪我人が横たわり。
生き残っているのは乗客の半数といったところだろうか。
ただ、横たわっている死体には盗賊の物と思われるものもあり、ゴブリンを従えたシロは盗賊を制圧しながら後方の車両に向かったと思われる。
一番後方の車両にたどり着いた時、巨大な毛玉に捕らわれた盗賊そしてそれを取り囲むようにゴブリンとそしてどこから拾ってきたのだろうか。
たぶん盗賊から奪ったのだと思われる剣を持ったシロが目に入った。
毛玉…。アイツまたあれをやったのか…。
そして今まさに身の丈と同じほどの剣を掲げ、ヨタヨタとおぼつかない足取りで振り回したシロが。
「さあ、お前で最後ニャ! はねた首を持ち帰ってご主人に褒めてもらうニャ!」
悪党に決め台詞を投げ掛け、まさにとどめのシーンであった。
「待って! シロ!」
寸前のところで重さに任せてでたらめにに振り回した剣の切っ先は盗賊のほほをかすめる。
「ネズミを持ってくる猫じゃないんだから、首なんか持ってこなくていいよ、それよりその盗賊には聞きたいことがあるから殺しちゃダメだよ」
確か出した命令は「盗賊を殲滅しろ」だったはずで、緊急だったのもあり特に殺すなとは命令していないのでシロは責められない。
しかしほんとに首を持ってくるつもりだったのだろうか…。
「ご主人! ご無事でなによりなのニャ! 車内の盗賊はこの通りこいつで最後ですニャ」
「うん、よくやったよシロ、生き残りが居たのもありがたい、ゴブリンも戻っていいよ」
ここに来るまで相当な死闘があったのだろう返り血にまみれたゴブリン達は満足そうに砂へと返っていった。
そして毛玉とよくわからないネバネバした液体に絡まり身動きの取れなくなっている盗賊に問い掛ける。
「あなたに聞きたいことがあります。乗客の女性が何人かどこかに連れ去られてしまいました、あなた達のアジトを教えてください」
「兄ちゃん、悪いが俺達悪党にもプライドはある、仲間は売れねーな!」
と、ふてぶてしく盗賊が答えた矢先。
シロが持っていた剣で盗賊の肩口を突き刺す。
「おい、下郎、立場がわかっているのか? ワガハイの剣で蜂の巣になる前にさっさとご主人の質問に答えろ!」
シロは突き刺した剣を捻り傷口をいたぶる。
シロ…。それはやり過ぎなんじゃ…。
というかあいつ普通に喋れたのか…。
そもそもそれは拾った剣だろ…。
マサヤは色々と思うがとりあえずここは仕方なくシロに調子を合わせ盗賊に問い掛けることにした。
「あなたたちのボスはすでにあなたを見捨てて逃げました、そんな人に義理を果たすことはないんじゃないですか?
僕は戦闘の中での命のやり取りは仕方ないと思っています、なのであなたが剣を持ち斬りかかって来たならその時は全力でお相手します。
しかし戦闘が終わって無抵抗な相手とまで命のやり取りをしようとは思いません、なので素直にアジトの場所を教えてくれれば命まで奪わないと約束します」
すると観念したのか盗賊は語りだした。
「ここから南、死の砂漠の中程に廃棄された軍の砦がある、俺達のアジトはそこだ、俺達の乗ってきた砂トカゲがまだその辺に居るはずだ、やつらは群で行動する、命じれば仲間のところに戻るだろう」
「わかりました、南の砦ですね」
「だがな、アジトに乗り込むのは勝手だがうちの団長は血の魔術師だ、あんたもそうらしいがうちの団長は強いぜ、あんたじゃ返り討ちに合うのがいいところだ」
「ご主人をバカにするとはこの下郎が!」
シロが持っていた剣をまた突き刺そうとするが慌てて止める。
「シロ、そうやって無抵抗な人を傷つけちゃいけないよ、それに殺さないって約束したろ、この人は憲兵に引き渡そう」
「わかったニャ、おい、寛大なご主人に感謝するニャ!」
盗賊とのやり取りをしてる間に運転士だろうか、紺色の制服を着た男と駅員が数名現れたので、今後のことを話し合う。
「ご協力ありがとうございました、あなたがいなければ乗客みんなの命が危なかった」
「そんな、お礼なんて、こんなに犠牲者を出してしまって、それに拐われた人も…。」
「いえ、我々は何もできませんでしたから、あいつらは砂漠のジャッカル団、これまでも何度か現れて客の荷物を盗んだりするようなケチな盗賊団だったんですが、まさかこんな虐殺まがいのことをやらかすとは…」
「そうだったんですか、ところで憲兵はすぐには来れないんでしょうか?」
「ええ、ここの中継地点には常駐していないので、このまま王都まで列車を走らせてそこから派遣してもらうので、早くても明日の昼頃になってしまうかと……」
「そうですか、では燃料の補給が終わったらすぐに出発してもらえますか? 僕はここに残って盗賊団のアジトに向かいます」
「危険ですよ! アジトには何人居るかわからないんですよ、乗客のあなたをこれ以上危険な目に合わせるわけには…」
「明日の昼では時間が掛かりすぎる、拐われた人がどんな目にあわされるか心配です、それに大勢で憲兵が押し寄せたらきっとやつらは拐った女性を人質に取ると思うんですよ、なので夜が明ける前に僕が一人で潜入した方がいい」
「わかりました、何もお手伝いは出来ませんがせめて宿舎にあるものは好きに使ってください」
「ありがとうございます」
列車を降り準備を整えようとしたところでマサヤは呼び止められた。
見ると先程の妻を連れ去られた新婚の若者であった。
「待ってくれ! 俺も連れていってくれ! このままここでただ待ってるだけなんて耐えられないんだ」
「それはだめです、相手にも僕と同じ血の魔術師が居ました、正直あなたまで守って戦える自信がありません」
「これでも元は冒険者をしていたんだ、自分の身は自分で守る、足手まといになったら置いていってくれても構わない、妻を助け出すためなら囮にだってなんだってなる、命を投げ出しても構わない、頼む! この通りだ!」
若者は土下座までして頼み込んでくるのでマサヤは渋々
「わかりました、でも無理はしないでくださいね……」
「ありがとう、俺の名はオーランだ」
「僕はマサヤ、紅林マサヤです」
「ワガハイはフェルディナント・フォン・シロニャルド三世だニャ!」
こうして二人と一匹は砂漠のジャッカル団のアジトへと向かうのだった。