12話:大陸横断鉄道
ステータス
名前:紅林マサヤ
強さ:レベル3
肩書き:三つ星の冒険者
武器:トリガー[ルビー]
防具:鎖帷子[これだけで刃物を防ぐのは心許ないが軽くて動きやすい]
皮のロングコート[鮮やかな白いロングコート、フード付きで砂嵐や雪でも安心、高級品]
手甲[金属が仕込んであり拳から手首までを保護する、能力の発動に支障がないよう手のひらは露出している]
能力:召喚
レベル1、飛行型、イビルアイ
レベル2、小人型、ゴブリン
レベル3、獣型、シロ
「お兄さん、お兄さん…」
誰かに揺り動かされて目を覚ます。
マサヤは見慣れない場所で目を覚ました。
(ここは駅のホーム?そっか寝ちゃったのか…)
一等客室の専用ホームにある高級ソファーでくつろいでるうちにいつの間にか寝てしまったようだ。
「お兄さん、もう列車来てますよ、乗るんですよね?」
マサヤが目を覚ますとそこには見知らぬ若者が立っている。
どうやら起こしてくれたようだ。
見上げるとそこにはとても立派な蒸気機関車が停車していた。
マサヤは実物こそ見たことはないが、おそらく車体の大きさと線路の幅からして現代の電車とは規格が違うのだろう、黒光りする巨大な車体は見るものを圧倒させた。
「あ、すいません、疲れてたのかな…」
マサヤは若者に礼を言う。
「お兄さんは大物ですね、わたしなんかこの高級な雰囲気に緊張しちゃって落ち着かなくて、若いのに肝が座ってるんですね」
確かにここが異世界とはいえマサヤにとっては列車に乗るということも皮貼りのソファーに座ることもそんなに珍しい経験というわけではない、ましてや昨日の宴である、眠くなるのも頷けるというもの。
見ると身なりは商人風だろうか、だが体格を見ると商人とは思えぬガッチリとした体格に髪を短く切り揃えて後ろに流し、表情はニコニコと笑顔を絶やさぬ愛想のよさそうな男である。
「お兄さんはどちらまで行かれるんですか?」
「僕はこの先の砂漠の国の王都ダージリンまで」
「そうなんですか、わたしはその先のグワダルまで行くんですよ、実は新婚旅行で、奮発して一等客室なんて予約しちゃいまして」
「ほんとですか、それはおめでたいじゃないですか」
後ろの方で彼の妻らしき人物が会釈している。
そしてこちらにやってきてこう言った。
「ほら、あなた、そんなに話しかけちゃ旅の方も迷惑でしょう、すいませんね、この人話好きで、悪い人じゃないんですよ」
「いえいえ、あやうく乗り過ごすところでしたから、助かりましたよ、それではよい旅行を」
マサヤは夫婦と別れて列車に乗り込む
中を見渡すと、車内は端に沿うように通路、そして車体の幅の五分の四ほどを個室に当てられている。
ドアを開けて自分に割り当てられた個室に入ると中はレトロな落ち着いた内装に皮貼りのシート。
いかにも富裕層の御用達といった感じである。
「ふむ、なかなかだニャ! 高貴なご主人にはふさわしい部屋であるニャ!」
シロはシートに寝ころびすっかりくつろいでいる
「あのなぁ、ほんとはこんなに贅沢するつもりじゃなかったんだぞ、次の街に着いたらまたすぐ仕事探さないと…」
次の砂漠の国、王都ダージリンまでは途中の燃料補給地点までが六時間。
そして休憩を挟んでさらに六時間と到着は明日の早朝になる予定である。
元々の蒸気エンジンの限界と旅客の居住性や資材の運搬量を上げるため車体の巨大化に伴いそこまでのスピードは出ないようだ。
それでも死の砂漠を数日かけて徒歩で越えることを考えるとありがたいものである。
シートでくつろいでいるとゆっくりと列車は動きだし、窓の外の景色が移り変わる。
遠くに黒狼と戦った炭鉱の山も見えてくる。
(思えば現実の世界では電車に乗ってもスマホばかり見ていて外の景色なんかゆっくり見たことなかったなぁ…)
景色は街を抜け岩山だらけになり、やがて岩も少なくなり辺りは一面の砂漠になっていった。
こんな砂漠にまでレールを通すって大変だったろうなと砂漠での工事の行程を想像しマサヤは思った。
しばらく外の景色に目を奪われていると、ドアがノックされて食べ物がたくさん乗っているカートを押した販売員の女性が現れた。
「お客様、お食事の用意ができました、こちら大陸横断鉄道の名物エキベンでございます」
さすがは一等客室、食事までついているようだ。
大陸横断鉄道の名物だというこのお弁当は箱に入って小分けにされた色とりどりの具が目にも楽しい。
更には陶器の器に熱いお茶を注いでくれる。
やはり弁当には熱いお茶である。
「よし、では早速いただくニャ!」
シロが弁当箱を開けようとするのをマサヤが必死に阻止する。
「これは僕のだろ! 一人分しか料金払ってないんだからシロのはないよ!」
「ご主人! それは殺生だニャ!」
シロには黒狼の肉を持ち運べるように干し肉にした物を持ってきていたのでそれを渡しておいた。
「固いニャ、シロもお弁当が食べたいニャ……」
なんだか可哀想なので結局マサヤはシロにも少しおかずを分けてあげたのだった。
そんな騒ぎがありながらも列車は順調に進み。
日が落ちる頃には中継地点の燃料補給ポイントに到着した。
蒸気エンジンは大量の燃料を必要とするのでこのような補給を兼ねた駅が点在しているようだ。
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砂漠に設けられた大陸横断鉄道の燃料補給ポイント。
数件の家が並び交代要員の駅員が滞在し簡単な寝食ができるだけの小さな集落である。
その集落を見下ろす岡の上、マサヤの乗ってきた列車を遠くから眺める集団が居た。
「来た来た、野郎共、準備はいいか?」
「お頭、ほんとに男はみんな殺しちまって構わねぇんですかい?」
「ああ、若い女だけ拐いあとはみんな殺しちまえ、列車ってのは富裕層がたっぷりと乗っていやがる、あそこに乗ってる金品は全て俺達、砂漠のジャッカル団のものだ!」
「いくぞ野郎共、全ては大義のために!」
「大義のために!」
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燃料の積み込みの作業中にそれは起きた。
突如鳴らされた、異常事態を知らせる鐘。
外からは叫び声らしきものも聞こえる。
「おい、シロ!起きろ!なんかおかしいぞ」
「ワガハイもう食べられないニャ~」
「おい! 起きろって!」
乱暴にシロを叩き起こし外に出ようと立ち上がった瞬間
強引に個室のドアが開けられた。
そこには素肌に革ジャンを着込み、この世界にもモヒカンなんて文化があるのだろうか、真ん中だけ残した髪の毛を逆立てたヘアスタイルのいかにも悪人風の男。
手にはこれまた暴力的な山刀を手にしている。
「これはこれは若い兄ちゃん、こんな個室に乗ってるなんてさぞかし資産家のガキなんだろうな、恨みはないけど死んでくれるよな? 全ては大義のためだ」
グヘヘヘ、と男は涎を足らし、両手に握り締めた山刀をゆっくりと天井まで振り上げ力任せに振り下ろしてくる。
いや、振り下ろしかけた瞬間、瞬時にマサヤは懐に踏み込み喉にトリガーを突き入れる。
トリガーから刃が飛び出すのとマサヤが突いたのはほぼ同時だっただろうか。
男は喉から大量の鮮血を吹き出しその場に倒れる
「そんな大振りじゃ隙だらけですよ、おじさん」
マサヤのアドバイスもすでに男の耳には届いていないだろう。
男は喉からゴボゴボという音を立てやがて動かなくなった。
「こいつら何人居るんだろうな、他の乗客が心配だ、行こうシロ」
のんびりとした旅を送るつもりがそれを許してくれないのは血の魔術師の宿命だろうか。
マサヤは血の臭いの充満する車内へと繰り出すのだった。
砂漠を走る走る列車なんてロマンがあっていいですよね
いつかこんな旅をしたいものです