10話:宴の後
新年明けましておめでとうございます
今年もぼちぼち更新していくのでみなさまのよき暇潰しとなれたら幸いです
登場人物おさらい(ゲーム世界)
「シロ」
レベル3の能力で永続召喚された使い魔、本名はフェルディナント・フォン・シロニャルド三世、昔は古の賢者の眷族だったらしい、どう見てもただの白猫だが、猫ではないと言い張る。
「イタタタタ」
翌朝マサヤは頭痛で目が覚めた。
おぼろ気な記憶を辿る。
昨日は初めて飲むビールを周りの炭坑夫達におだてられて何杯も飲んでるうちについ楽しくなっちゃって…。
これからは気を付けよう…。
大人の洗礼を浴びたマサヤはふらつく足取りで一階の酒場へと降りていく。
昨日の大騒ぎが嘘のようにすっかりと片付けられた店内で朝食を食べる。
おかみさんが調子が悪そうなマサヤを心配してスープを出してくれた。
野菜が煮込まれたコンソメ風の味付けのそれは温かく体に染み込んでいくように二日酔いの体を癒してくれたのだった。
マサヤはおかみさんに礼を言い、宿を後にする。
今日は装備を整えて、いよいよ大陸横断鉄道に乗る予定である。
駅前には武器防具屋が何軒か並んでいる。
主に職業ごとに分けられているらしく戦士向けの店にはフルプレートメイルに大剣なんかも売っているが。
血の魔術師のマサヤには相性が悪いと思われた。
トリガーで片手が塞がっているのでもう片方の手だけではとても大剣は扱えない。
フルプレートメイルの防御力は魅力ではあるが、そもそも体に傷をつけなければ召喚の能力を発動できないのだ。
隣を見ると血の魔術師向けの装備を売る店があった、こちらはやはり動きやすい物を好む術者が多いのだろう、かなり軽装の物が多い。
少々値が張るがマサヤには昨日の黒狼討伐の軍資金がある。
結局鎖帷子の上に少し長めの皮のロングコート、それと赤く塗られた手甲を買うことにした。
ロングコートは鮮やかな白で動きやすさとお洒落さを兼ねた一品である
「その色を選ぶとはさすがご主人、シロとお揃いですニャ!」
とシロも絶賛していた。
防具だけで1500ゴールドとかなりの出費になったので武器はまたの機会ということにした。
RPGでは武器を優先して買うのが基本だが、それはあくまで宿屋で体力が全快になる設定でのこと。
この世界では怪我が致命傷になることも考えられる。
攻撃については能力を使えばある程度は補えるので、まずは防具というマサヤの選択は正しかった。
ちなみにこの世界の回復方法は宿屋で泊まって体力が全回復になることこそないが、傷の治癒については高性能の傷薬がある。
軽い切り傷くらいなら塗り込んで一晩経てば治ってしまうという驚きの代物である。
血の魔術師の能力と共に太古に開発された秘薬とのことだった。
山賊に襲われた日、マサヤの母が塗ってくれた赤い薬がこれであった。
高価なのだがこちらも必需品なので買い込む。
更に鉄道とはいえ砂漠越えになるので水は多目に持っておきたいところである。
その他着替えやら揃えると500ゴールドと結構な出費と荷物になった。
(これ、全部運ぶの大変だな…)
最悪召喚獣に運ばせようかと思っていたのであるが。
召喚獣の呼び出せる時間は与える命令によってかなり幅が出るようで。
「敵を倒せ」であればその戦闘中のみなのだが。
「この荷物を運べ」などの命令であれば目的地に着いて荷物を降ろすまで有効だったりとかなり長い時間使役することができる。
だが街中でゴブリンなんか引き連れて練り歩くのは見た目的に大変よろしくないと考え直した。
「ご主人、お困りかニャ? それならシロの出番ニャ!」
そう言うとシロは置かれた荷物入りの袋を大口を開けて飲み込んでしまった。
あきらかに口よりでかい袋をである。
そういえば巨大な毛玉を吐き出したときも顔と特に口の部分が巨大化していたことを思い出す…。
遠くで見ていた店員さんは腰を抜かしている。
マサヤはたぶんそうゆう生き物なんだろうと納得することにした。
(これ取り出すときってどうなるんだろうな……うん、かんがえるのは辞めよう……)
こうして準備も整い駅へ向かった。
写真が撮れないのが残念なくらい雰囲気のある石造りの立派な駅舎だ。
駅はこのノムゴンの街を訪れる旅の者やたくさんの商品を抱えて砂漠の国へ売りに行く商人など大勢の人で賑わっていた。
文明開化の幕開けといった感じである。
窓口で聞くところによると次の駅は砂漠の中継地点にある燃料の補給のための施設とのこと。
そのためその次の駅、砂漠の国の王都ダージリンへと向かうことになった。
そこで一つ問題が発生した。
「あの、お客様、大陸横断鉄道ではペットの持ち込みが禁止されておりまして……」
「ペットとはなんニャ! このフェルディナント・フォン・シロニャルド三世を捕まえてペットとは! オヌシは無礼であるニャ!」
「あの、なんていうか、一応こいつは僕の旅の相棒というか、他の動物と違って話せばわかる子ですし、ほら、トイレの躾も済んでるんで…」
「トイレの躾って! ご主人までワガハイを猫呼ばわりするのニャ!」
「いや、だってお前どう見ても猫だろ…」
「あのお客様…。それでしたら一等客室でしたら個室ですので、そちらであれば持ち込みの制限などは設けておりませんのでいかがでしょうか?」
「そうなんですか、それにします! いくらですか?」
「1000ゴールドでございます」
聞いていた額の倍にはなるが背に腹は代えられないだろう。
チケットを買うとなんと執事が現れる。
「お客様、荷物をお運び致します」
と言うやテキパキと荷物を運んでくれて、いかにも成金御用達といった感じの専用のホームに通された。
まさにファーストクラスの扱いである。
(これじゃあ旅というよりは慰安旅行だよなぁ…)
ホームに不釣り合いな高級なソファーに深く腰掛けて列車を待ちながらマサヤはまだ見ぬ砂漠の国へと思いを馳せるのであった。