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色彩の無い怪物は  作者: 深山 希
第二章 無彩色の楽園と蒼紅の旅路
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第21話 命銘

 夕顔の時もそうだったが、カレンの日もまた、デートというよりも調査といったていを成していた。夕顔の時はハルが危険度を調査する側だったが、今日はハルが味覚を調査される側だ。デートらしいデートがしたかった、などとは少しも思わないが、さすがに少々釈然としないものを感じるハルだった。


 本日の質疑応答と、昼の試食会の検証結果を基にした新作料理がハルの前に運ばれてくる。まだ若干、昼の食べ過ぎによる胸やけが残ってはいたが、ハルはそれを得意の笑顔で覆い隠した。カレンが相手では見透かされている可能性もあったが。

 今日の昼食、カレンは全員分の好物を作って、それぞれひとくちずつハルにも味見をさせたのだ。ハルは偏食なので、食べられない食材は似た食感の野菜に置き換えて、味付けだけ似せたものを。


 トータルすると結構なボリュームだった。

 美味しいのは美味しかったのだが。


 デート(?)の内容を聞いた皆は、呆れ半分、納得半分といった感じだ。何かがおかしい、そんなふうに考えるのが自分だけではなかったことに、ハルは少しだけ安心していた。少数派が嫌なわけではなかったが、カレンのこれが此処の普通だと、いろいろと疲れそうだったので。


 午睡シエスタと色彩を名付けてもらった、という話になったところで、ルナが「カレンだけズルイ!」と言って騒ぎだし、当のカレンからちゃんと飲み込んでからしゃべるようにと叱られていた。


「いやぁ、別に『だけ』ってわけでもないわよぉ?」

 からかうように言った夕顔は、自分のデート(という名の尋問)の時は「魔王クンと二人の内緒」などと意味深なことを言ってはぐらかしていたのだが。

 猛毒の色彩の元暗殺者、などという話はできないから、間違ってはいないのだが……言い方に悪意を感じる。タチの悪いいたずら程度の悪意ではあるが。


「――ってことは、ユウちゃんもなんかつけてもらったんすか?」

 テーブルに身を乗り出してカレンに叱られているのは、彼女よりも年上……年上? ハル的に第一印象の自信が無くなって来たサニーだ。動きがいちいち大きいので、三つ編みにした黄色い髪がぴょこぴょこ跳ねまわっている。最初に出迎えてくれたカレンとルナ以外では、彼女とフロルが好奇心旺盛なようで、食事の時も良くハルに話しかけて来る。

 緑髪のフロルの方は、サニーほど言葉数が多くなく、近くで他の面々との会話に耳を傾けているのがほとんどだったが。それ以外は遠巻きに見ている感じだ。


「どんな名前かはヒミツだけど」

「まーたそれっすか。ユウちゃんはユウちゃんっすねー」


 そんな二人のやり取りに、ハルが思うのは。


 ――彼女に銘なんてつけましたっけ?


 という疑問だった。記憶をたどり、彼女を致死毒と挑発したことを思い出す。まさか、と思って視線を向けると、皮肉気な笑みを返されて、そのまさかだったと思い知らされる。


 ハルは頭を抱えた。


 いくらなんでもアレは無い。フェイタル・ヴェノムなどという銘は、表層でしかなく、夕顔の本質を表しているとは言い難い。


「夕顔さん。せめてフェ……前半部分をキドニーに変更しましょう」

 フェイタル、と言いかけて、それも大っぴらにするような単語ではないと思い直して言い換えた。


 キドニー・ダガーという武器がある。親切な懐剣、などという名を付けられたその武器は、戦場で致命傷を負って死にきれていない者を、一思いに楽にしてやる――つまりとどめを刺す用途に使われる。

 夕顔の毒も、それに通じるものがあるのではないかとハルは思った。だから安楽毒、優しい猛毒キドニー・ヴェノムだ。苦しめずに、眠るような死へと誘う、致命の毒。


 これに夕顔はそっぽを向いて「そ。」と一音で応えた。


「あれあれ~、ユウちゃん、照れてないっすかー?」

 にまにま笑って、サニーは夕顔を覗き込むが、

「そう見える?」と、余裕の笑みで返されて撃退されていた。

「さすがに強いっすねぇー」などと苦笑するサニー。


 気付けばルナがむくれていた。

 これはアレか、カレンだけズルイが、カレンと夕顔だけズルイに変化した感じだろうか。と、そのことに気付いたのはハルだけでは無いようで。


「まおくんまおくん、ひいきはどうかと思うっすよ?」

 だいぶ原型をとどめない感じの呼称よびかたで、サニーがじとりとした目を向けて来る。ルナっちとかシグシグとか、彼女の呼称は独特だ。

 ちなみにカレンのことは昔かーちゃんなどと呼ぼうとして、わりかしマジにキレられて、普通にカレンで落ち着いたのだそうだ。


「迷惑でなければ、皆に銘を贈りますよ。もう思いついてるひともいますし。アニーさんとか、」言いかけたところで、当のアニーが弾かれたように立ち上がる。

「えぇっ! わた、わたしっ!?」

「はい。貴女の歌声には、これしかない、というものが」

 いつもの笑顔でそう言うと、アニーは「あぅぅぅ」とうなって小さくなってしまう。歌っている時以外は控えめな性格らしい。


「おぉっ、じゃあ次はあーちゃんの番っすか?」

「心の準備ができたのなら、それで良いですけど」

「だ、そーっすよ、あーちゃん?」

「あぅあぅあぅあぅ」

 話を振られたアニーはますます小さくなってしまう。


「あーちゃんがダメならアタシが先でも、」「それはダメっ!」

 打てば響くような答えに、サニーはにまっと笑った。

「じゃあ明日のでぇとはあーちゃんで決まりっすね。まおくんまおくん、アタシの銘はひとつ、カッコカワイイのをお願いするっすよ」

 わたわたと慌てるアニーをスルーして。えらく難しい注文を受けたハルは「ふさわしい銘を考えておきますね」と逃げを打つのだった。


 が。


「む。なんすかなんすか、アタシにはカッコイイのもカワイイのも似合わないってことっすか」

 サニーからは逃げられなかった。

「今のところ、あまりカッコイイ印象はないですね。可愛らしいとは思いますが」

「おぅふ。まおくん、天然タラシとか言われたことないっすか?」

 大げさにのけぞってみせたサニーは、ジト目でそんなことを言った。

「いえ……あぁ、そういえば、言動には気を付けないと、女の敵、って言われる……なんてことなら以前に言われましたね」


「あぁ。昔っからそうなんだ」

 何故かカレンにまで呆れた目を向けられてしまった。

 ちなみにサラの視線は汚物を見るようなそれである。


「思ったことを思ったまま言ってるだけなんですがねぇ」

「まおくんは見た目綺麗すぎるっすからねー」

 今度は苦笑交じりに同情の目が向けられる。忙しい子だ。


 夕食が終わって、別れ際。

「まぁ、一週間はみといた方がいいっすよー」

 サニーに言われた言葉は、その時は意味がわからなかったのだが……


 翌日の朝食時、

「ご、ごめんなさい、やっぱり、心の準備が……」

 と、アニーに消え入りそうな声で言われて、このことかと察した。


 まぁ、急ぐことでも無いだろうと、ハルはそれからの一週間――本当に一週間を要した――自宅の書斎に用意されていた、未読の魔女の蔵書を読んで過ごした。物語は作家であるサクラのところにあるのだろう、ハルの家に用意されていたものは、もっぱら研究書の類だった。




 10日経った。


 いい加減待ちくたびれたハルが、別のひとを先にしようか、と言うに至って、ようやくアニーは覚悟を決めたようだった。


 ――いや、覚悟を決めるって。

デートにたどり着くまでが長くなったので此処で一度切ります。

次こそ「雪片花」です。

アネモネ・シルベストリスの和名は本当は「牡丹一華」なんですが、アネモネと牡丹のイメージが結びつかなかったので、別名のスノードロップ・アネモネから取って「雪片花」としました。

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