第19話 夕顔
前回の無彩色サイド
平和な隠れ里にやべーヤツ(元暗殺者)が居た。話をした結果、ハル君は無害認定する。
時間が余った。
夕顔曰く、デートは一人につき丸一日なのだそうだ。
「なんならオンナを教えてあげようか?」しなを作って言う似非修道女に、
「間に合ってます」ハルはそう即答していた。
「えっ、ちょっ、なに、まさか嬢と? あの堅物をどうやって堕としたの?」
身を乗り出す夕顔の発言に、何やら含みを感じたりもしたが。
「あり得ません」ハルは再度即答していた。
「えー。」何故かつまらなそうに夕顔が言う「じゃあなに? 今まで居たところに恋人でも居た?」
「恋人、というわけではありませんが」
「それに近い相手は居たんだ?」
「花飾りをもらいました……と、これって、此処でも通じます?」
どの程度の独自文化が築かれているものか、とハルが問えば、
「それって告白よね?」夕顔が答えた。興味津々の様子だ。
「はい。その時は髪色を隠していたこともあって受け取りませんでしたが……今のところ、彼女以外とそういう関係になるつもりは無いです」
「わぉ。ベタ惚れ?」
「どうなんでしょうね。正直、恋愛感情というものは良くわかりませんけど。それでも、私の大切なひとは、彼女を含めて二人だけです」
魔女に託されたユートピアは、護るべきものとして認識しているが、ハルが個人の感情として大切だと想うのは、アルとルビアの二人だけだ。
……今なお、生きている者に限れば。
「とりあえず外の二人にも入ってもらおっか? あんまり時間がかかるようだと、あらぬ疑いをかけられるよ?」
「貴女の冗談はいちいち下品ですね」
にまにまと笑う夕顔に、ハルはため息で応えるのだった。
「話は済んだの?」とシグルヴェインが訊いて、
「はい。私の考えすぎでした」ハルが笑って答える。
「それで、時間が余ったので、今のうちにいくつか訊いておいて良いですか?」
「えぇ。どうぞ」
ハルの問いに、首肯したのはサラだ。取り繕ってはいるものの、その眼差しは疑いに満ちていた。具体的に言うといったいナニをやっていたのか、という。
直接的に訊かれなかったハルはさらりと流すのだが。
「まず一点。此処には大人は居ないのですか?」
成人年齢の者は何人か居るようだが、『親』の世代は居ない。少なすぎる人数といい、コミュニティとしては随分歪だ。
「此処はおばあ様が創った避難所のようなものですので。城の方に居る者たちも、成人して間もないくらいの者ばかりですね」
「……城、ですか。」
やはり魔王城などと名付けられているのだろうか、などと埒も無いことを一瞬考えたりもしたが。少なくとも、この森にそれらしき物は無い……はずだ。
「今は交通手段が出払っているので、すぐにご案内することはできませんが」
やはり離れた場所にあるようだ、とハルは納得した。いずれ案内されるならばそれで良いと、城のことはひとまず記憶の隅に追いやる。
「ではもう」一点、と言おうとしたハルを遮って、
「その前に、私からも良いでしょうか?」サラが言った。
どうぞ、とハルは手で促す。
「ユウガオの目が赤いのは何故です?」
その問いに、ハルが何か答えるより先に。
「魔王サマに激しく責められて、泣かされちゃった」
当の夕顔がなにやら体をくねらせたりしながら、一概に間違いだとも言い切れないことを言った。こういう嘘つきはタチが悪い。
サラが汚物を見るような目をハルに向ける。その背後で、夕顔がべっ、と舌を出していた。
「あぁ、無駄に色気を振りまいているよりも、そうやっていた方がずっと可愛らしいですよ」
苦笑と共にハルが言う。別段意趣返しのつもりもなかったのだが、何故か夕顔は真っ赤になってうつむいた。意外と褒められ慣れていない……などということもないだろうに。
「あなたねぇ……可愛いトカ、大人のオンナに言うことじゃないよ?」
「おばあちゃんを思い出してわんわん泣いてたひとが何言ってるんですか?」
この発言はまぁ、意趣返しだが。
「ちょっ!」夕顔が真っ赤な顔で睨みつけてくる。
「妙なことを言うからですよ。あと大人だの女だの言うなら、私なんて『無駄に美人』とか言われてましたよ?」
「いやあの、陛下? なんで得意げなの?」
シグルヴェインが苦笑の雰囲気を滲ませて言えば、
「確かに、言い得て妙ではありますが……」
サラも同意し、困ったように眉根を寄せる。
「そうでしょう? うまいこと言いますよね?」
「いや、だからなんで得意げなの?」
「言ったのがさっき話してた大切なひと、だから?」
シグルヴェインの再度の疑問に、推量形で答えたのは夕顔だ。
「正解です。よくわかりましたね」
「態度でわかるよ。花飾りじゃない方?」
「驚いた。本当に良くわかりますね」
「そりゃあ、惚れた相手つかまえて『無駄に美人』だなんて言わないでしょう」
「そういうものですか?」
「あなたはちょっとオンナゴコロを学びなさい」
難しそうですねぇ、とやる気の無い笑顔で応じるハルと、夕顔とを見比べて、シグルヴェインがきょとんとした目で言った。
「随分仲良くなったんだね? ここに来る前はピリピリしてたのに」
「まぁ、懸念が解消されたので」
ハルは肩を竦めて、それだけを答えた。
一連の流れで何かを察したのか、最初から何か思うところがあったのかは不明だが、シグルヴェインは夕顔に探るような視線を少し向けてから頷いた。
「陛下が納得したなら、それで。」
「相変わらず硬いわねぇ。硬くするのは」「ちょっと黙れ」
何を言い出すのか想像がついたので、ハルは最後まで言わせずに斬り捨てた。
「貴女はそればっかりですか」ため息混じりに言えば、
「だってココ、退屈で」悪びれもせずに夕顔が応じる。
「嫌いですか? 退屈。」
最初にそうしたように、単刀直入にハルが問えば、夕顔はくすりと笑った。
「いいえ。嫌いだったら、ココには居ないわね。
ホント、容赦なく斬り込んでくるわねぇ、魔王サマ。言葉の刃を急所に一突き、って感じ? 暗殺者も真っ青だわ」
ひどいブラックジョークは、掘り下げずに流すことにするハルだった。
夕顔はそれに一瞬つまらなそうな表情を浮かべはしたものの、すぐに気を取り直した様子で続けた。
「ま、冗談くらいは大目に見てよ」
「ピンクと黒の二択でなければ」
ハルが言うと夕顔は声を上げて笑った。あとの二人は良くわからなかった様子で首をひねっていたが。
「面白いねぇ、魔王サマは。ねぇ、時々話し相手になってくれる?」
「退屈しのぎ程度で良ければ」
ふふっ、と笑って夕顔が言う。
「充分よ」
そんな二人のやり取りに、シグルヴェインなどは目を丸くしたりしていたが。
なんとなくだが、ハルには夕顔の気持ちが理解できた。隠し事の負い目が、此処の住人との距離をほんの一歩だけでも空けさせる。村に居た頃のハルと同じだ。
だから総てを知っている相手というのは実に気楽なのだろう。魔女の代わりが務まるなどとは思わないが、多少の慰めにはなるだろう。
「それで次の質問なんですが。皆さんは色彩の銘を魔女からもらっていますか?」
「いいえ」と、答えたのはサラだ「遠見の魔女は遠くを視るのには長けているけれど、近くはあまり視えないのだと言っていました」
なるほど、其処に嘘は無いのだろう。ハルは皮肉な気持ちで納得する。いつぞやのハルと一緒だ。『最初から視えない』とは一言も言っていない。
おそらくは、精霊に関する虚偽の代償なのだろう。近しい者を偽った所為で、近いものほど視えなくなった。
自身の視力の一部を切り捨ててまで、魔女はいったい、何を企図していたのか。
――楽は、させてもらえないのでしょうね、きっと。
おそらくは自分も、魔女が支払ったのに匹敵する『何か』を捧げることになるのだろう。そんな予感がハルにはあったが、それがなんであるのかまでは、神ならぬひとの身にわかろうはずもなかった。
あとひとつ、ルナの能力のことも気になってはいたが、それは直接本人に訊くべきだろうと思い直し、ハルは此処で訊くことはしなかった。
ペースアップ(超加速)
まぁ、遅筆の筆者にしては、って前提がつきますが。そんなわけで今回もあまり長くはないですが、どうにか月10話更新を達成しました。ここ最近の目標です。
次からはデート回ラッシュです。キャラ紹介とも言う。
サブタイは今回みたく和名で行こうと思ってます。
次回「金盞花」(予定)お楽しみに。




