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色彩の無い怪物は  作者: 深山 希
第一章 元色と熾紅
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第22話 再誕式

 再誕祭はまず、再誕式から始まる。今年成人する二人、ヴィオラとサリィが一人壇上で待つ神父のところへゆっくりと歩み寄り、すっとこうべを垂れた。男性であれば首の後ろでひとまとめに、女性ならば思い思いの形に結われることが多い髪だが、こういった式典の際には解くのが決まりだ。

 そういえばなんでだろうか、とルビアは首を傾げるが、さすがに式の最中に質問を――相手は勿論神父、ではなくウィルだが――することは自重した。


 サリィはほぼまっすぐな赤い色、ヴィオラは緩やかに波打つ紫色の髪を、それぞれ飾るのは、自身の名である花を金色の糸で編んだものだ。母とは違う色に生まれた場合はその花本来の色を用いるが、髪と同じ色の場合はあまりに映えないので、無垢な色である金を使用する。男の子の場合は父の色から受け継いだ名である石の飾りをつけるのだが、これはさすがに金色にすることはできないので、髪と同じ色であってもそのままだ。ひょっとしたら、自身を飾ることに対する男女の差が出ているのかもしれない。

 この日のために新調することになっている服の色は髪飾りとは逆で、女の子であれば父の色から名付けられた石の色、男の子は母の色を由来とする花の色となる。こちらは全て金色にするというわけにもいかないので、髪と同じ色であってもそのままだ。白は魔の色である無彩色にも通じるため、濃淡をつけることはあっても、白地を残すことはしない。


 ルビアの場合であれば、髪の色は青なので、金は使わず赤いサルビアの髪飾りに、服はアメシストの紫を基調にしたものとなる。


 ちなみにこの時に使った髪飾りが、そのまま献花祭にも使用されることになるのだが、それはまだ先の話だ。


 刻銘式で与えられていた銘は、ここで初めて明らかにされる。

 ……と、言っても、それはあくまで形式としてのもので、いわば公然の秘密というやつなのだが。赤ならば火、青ならば水というように、与えられた銘は最初からわかっている。


 神父としてはこの宣言こそが再誕祭の主題なのだろうが、それ以外、大人も含めたこの村の全員にとっては、ただの前座でしかなく、ありがたーいお説教は、大多数には聞き流されている。或いは全員に、かもしれない。皆にとってはこの後のお祭り騒ぎこそが再誕祭なのである。

 ちなみ成人を迎えた主役二名は、この日初めて飲酒を許される。というか強要されて、つぶれるまで呑まされるのが毎年の恒例行事だった。ごくごく稀に、最後まで意識を保っている酒豪の新成人もいるようではあるが。


 同じ出し物をするから、ということで、ルビアたち七人は諸事情により一番最後にしてもらった出番まで、一緒に祭りを楽しむことになっている。あまり乗り気ではなかった――というか、最初は出番まで家にいるつもりだった!――ウィルを苦労して説得したのはルビアとアルであり、今彼の隣にいるのもこの二人である。


 神父によって宣言される、ヴィオラは『夜の紫ナイト・パープル』、サリィは『火の赤ファイア・レッド』というわかりきっていた銘で、二人は拍手を以って大人の一員に迎え入れられていた。長話がやっと終わったことに対する拍手なのでは、などと思うのは、さすがにルビアのうがちすぎだろうか。


 ちゃっかりウィルの隣をキープしたルビアは――逆サイドにはジェディが居るのだが、かわいそうなことにルビアはそれに気づいてもいない――ウィルの顔を窺い見て、おや、と思った。


 表情はいつも通りの笑顔なのに、何故かそれが不機嫌そうに見えたのだ。


 何故? と考えて、その笑みがむしろいつもよりも深いことに気付けば、それが『作り笑い』であることに思い至る。殊更に笑顔を作る理由を想像して……ルビアはうきうきと熱を持っていた感情が、すっと冷えていくのを感じた。


 再誕祭で髪を解くのは主役である新成人だけなので、普段はまとめることなく流しているウィルの髪も、今日は首の後ろで一つに束ねられている。


 ――未だ、自身の色彩を得ていない、くすんだ金色の髪が……


 成人を迎えた二人が、色銘を高らかに告げられるのを、色彩を持たない彼は、いったいどんな気持ちで聞いたのだろう。笑顔の仮面の下に、どんな思いを隠しているのだろう。


『どうしようもなく、私の魂は劣っています』


 彼の声を、微笑を思い出す。

 なんでもないことのように語っていたが、劣等感を感じない、などということがあり得るだろうか。普通ならとっくに色彩を得ているはずの年齢の彼に、他人の色彩を認め祝う祭りへの参加を強要するのは、ひどく残酷なことではなかったか。


 誰かが壇上で歌い始めている。祝いの歌? が、ひどく遠い。目を向けずとも感じられる、祭りの華やいだ空気が今はむしろ煩わしかった。


 ――祭りを一緒に楽しむ? なんて傲慢な押し付けだろう。相手が楽しめない可能性をまるで考えずに、一緒に居られるとはしゃいでいた自分のバカさ加減に、泣きたいのを通り越して笑い出しそうだ。

 サルビア=アメシスト=バラスンは、どこまでも自分本位だった。


「――ルビア?」


 うつむき、唇を噛んだルビアの様子に、最初に気付いたのはジェディだった。どうかしたか、と心配げに覗き込まれて、気遣う相手が違うだろうと怒鳴りつけたくなるのを、深呼吸一つで呑み下す。


 ――笑え。うつむいたままで目を閉じて、ルビアは自分に言い聞かす。当の彼ウィルムハルトが笑っているのだ、無理でも笑え。彼ほどとまではいかずとも、表情を取り繕うのは得意だろう? 笑え、笑え、笑え。最後に三度繰り返し、顔を上げる。


「――ごめんなさい。舞台に立ってる人を見たら、緊張してきちゃいました」


 ごまかしきれなかったのか、それとも別の理由でか、ジェディが不満げな顔でウィルを睨む。今、ルビアが一番触れてほしくない相手に、


「祭りなんだから、ちょっとは楽しそうにしたらどうだよ……」


 よりにもよって、とはこういうことを言うのだろう。思わず手が出そうになるのをこらえることができたのは、そもそも無理に連れて来たのは自分だという自覚がルビア自身あったからだ。


「すみません。やっぱり白けさせてしまいましたか? お祭りや祝い事の、雰囲気自体は好きなのですが、どうにも私自身も楽しむ、というのが苦手で。来ない方が良かったですかねぇ……」


 素直に謝られたジェディは戸惑いを隠せず、中座する言い訳かもしれないと思ってしまったルビアは否定の言葉を吐けない。普段闊達なアルも、何故か辛そうに顔を歪めており、微妙な雰囲気になりかけたのを、豪快に打ち破ったのはフォエミナだった。

 ぱしん、と小気味良い音をさせてウィルの頭をはたき、

「そういうこと言うから、白けんの。やっぱり帰る、なんて言うんじゃないよ」


「その方が白けますか?」

「その方が白けるね」

「なら、帰るのはやめておきます」

「本気で帰るつもりだったのかい!?」


 大げさに驚いて見せるフォエミナ。『見せた』のだろう、実際。先の気まずい空気を打ち払うために。ウィルの真意がどこにあるのかは、ルビアではわからなかったが、


「では、傍観者的な楽しみ方にはなりますが、お祭りがつまらないわけではないので、気にせず、そっとしておいてもらえると助かります」


 その言葉に、アルが心底ほっとした表情を浮かべたのが印象的だった。


「アル君アル君、あれって本心なんですか?」ルビアが耳打ちすると、

「本心しか『言葉に』しねぇよ、ハルは」どこか含みのある答えが返る。


 なんとなくだが、ルビアにもわかった気がした。本心を隠すとき、ウィルはきっと嘘をつくのではなく口を噤むのだろう。いつもと同じように、微笑んで。好きに解釈すれば良い、とうそぶくように。慰めや気休めを口にするよりも、なるほどそれは彼らしいと思えた。

ちょい短いですが、キリが良くて週一ギリなので上げます。

再誕祭だとは言いましたが、お芝居本番とは言ってないので、今回は予告詐欺じゃないはずです、うん。この論法自体が詐欺師のそれだということはあっちの方に放り投げちゃいましょう。ぽいっとな。

お祭りの由来とか考えるの楽しいです。現実のお祭りでも、いろんな小道具とかに意味がありますもんね。そしてお祭りはまだ続きます。

ていうか誕生日会で複数話使ったのに、村を挙げてのお祭りが一話に収まるはずがなかったですね。

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