第0話 とある少年の第一印象 赤
始まりと終わりよりもずっと前、此処から語り始めるとしよう。
気に入らない。最初に思ったのが、それだ。
小綺麗な顔をしていて、男か女かわからないようなヤツだったが、そんな見た目なんかはどうでもいい。
笑っているのに、笑っていない。それが気に入らない。
物腰穏やかで、誰とも争わず、どんな悪口を言われてもその綺麗すぎる笑顔を崩すことがない。
それは一切合切何もかもに、心を留めていない証拠のように思えて。物にも、言葉にも、人にさえも、きっとこいつは何の興味もないのだろう、と。
そいつ、ウィルムハルト=オブシディアン=エキザカム=ブラウニングという長ったらしい名前の男はそいうヤツだった。
男なのに石以外の名前がついているのは、母親が望んでつけたのだそうだ。
魔王討伐の英雄とは、名前負けにしてもひどい、というのは本人が語ったところのものだ。金無垢と呼ぶには薄汚れた色の髪に、閉じられたままの両目では、魔王どころか魔霊の一つも討伐できそうにない。
これならオレの方が遥かにマシというものだ。
自慢ではないが、オレの赤は生まれついてのもので、他の皆のように成長してから得た色ではない。だから物心つく頃にはもう、自在に火を扱うことができた。害獣や魔霊の類を狩る時だって、そこらの大人より役に立っている自信がある。
まぁ、ウィルムハルトの親父さん、元騎士だというシディさんに敵わないことは認めるが。
シディ、というのはたぶん、オブシディアンの愛称なのだろうが、自分の名前が好きではないと言って、誰に対してもシディで通しているらしい。たまに剣の稽古をつけてもらっているオレも、本当の名前は知らない。
そんなシディさんはともかく、息子の方はオレとはまるで正反対。
目がアレだから体を動かすのが苦手なのは当然だろうが、他にできることがないからと言って、父親が主催する精霊術教室で教師役を務めたのには驚いた。なんでもずっと目が見えないというわけではなく、昔から本ばかり読んでいたので、精霊術に関しても理論だけなら充分に教師役ができるだけの知識があるらしい。
絶対に友達にはなれないタイプだな、というのがオレの結論だ。
幕前の挨拶にも似た何か。どうか暫しのお付き合いを。