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色彩の無い怪物は  作者: 深山 希
第一章 元色と熾紅
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第10話 とても幸せな未来予想図

 皆の拍手にウィルが芝居がかった一礼で応え、アルは少し恥ずかしそうに笑った。


「本当に、どちらも最高のプレゼントです」

 ルビアが潤んだ目で言えば、

「確かに、見ごたえのあるお芝居だったわね」

 ヴィオラは弟の頭を撫でつつ言う。


「わかり易くて面白かった!」「私たちだけで楽しむのが申し訳なく思える出来でしたね」「確かに、すごかった……」「うん、良いものを見せてもらったわー」

 誰もが二人を絶賛し、


「すごいね。旅芸人でやってけるんじゃない?」

 フォエミナなどは感心したふうに言ったが、ウィルは肩を竦めて返す。


「さすがに褒め過ぎですよ。本職の人はこんなものじゃ、」

「――良いな、それ」もう一人の演者が遮って言う「見栄えのするハルとルビアが看板俳優で、オレは脇役兼護衛役、物語おはなし好きのジェイを脚本に誘っても良い。旅に憧れてるヤツらを連れて大陸中を巡る――そんな将来はどうよ?」


 言葉に不意を打たれて、ルビアは不覚にも泣きそうになった。ただの思い付きにすぎないのだろうが、そこに当たり前に自分の名前が含まれていたことが、ここまで嬉しく思えるとは……


「それはそれで幸せな未来予想図かもしれませんが、他人の都合も考えましょうね? だいたい、ただの余興と生業なりわいとは大きく違いますよ?」

 けれどウィルは呆れたようにため息をつくのだ。


「大きな街じゃ通用しないかもしれねーけど、ここみたいな村の祭りの時期なら、充分喜ばれるレベルだったと思うぞ」

 どこか不満そうにジェディが言ったのに、ヴィオラもフォエミナも同意した。


 ルビアは目を閉じ、今一度夢想する。小さな馬車を設えて、アルやウィルとともに見知らぬ土地を旅する自分を。まずは有名な物語を、今回やったみたいに、飛び切りわかり易く演出するのが良いだろう。ある程度劇団の名が知れて来たら、脚本家ジェイの腕次第では、オリジナルの作品をっても良い。

 行く先々で新しい物語を仕入れて、それを本にして売るのはどうだろうか? 普段の会話や先ほどの即興劇を視るに、ウィルの語彙力はなかなかのものだし、ルビア自身、語彙力と字の綺麗さには自信があるので、きっと良い副収入になる。絵の巧い誰かが挿絵を入れてくれればなお良い。


 もちろん、慣れない旅は辛いことも多いだろうし、たくさん苦労もするだろう。これについてはどういったものがあるのか、ルビアには想像することもできなかったが。


 けれど、それは。『かもしれない』ではなく、確かに、幸せな未来予想図だ。


「なら試しに、次のお祭り――再誕祭さいたんさいで何か余興をやりませんか? 今度は私も役者として参加しますよ」


 ルビアの提案はほぼ全員の賛同を得た。

 唯一の例外も、


「――まぁ、それくらいなら付き合いますよ」肩を竦めて、同意はしたのだった。




「さぁ、じゃあ今日のメイン……ウィル君の、メイン。我が家の書棚をお見せしますね。他の皆には退屈かもしれないので、サリィとゲームでもしていますか?」


 ちょっとした失言もしつつルビアが問うのに、片づけ中の母がちらりと振り返ったりもしたけれど。


「わたしもゲームより本の方が良いかも」まずヴィオラが言い、

「オレもそっちに付き合うわ。字は読めるから、難しい言葉はハルに教えてもらえば良いし」アルがそれに続く。

「ウィル兄ちゃんがわかり易くしてくれるなら、オレもそっちが良い」アンバーが言い、

「三人だけでゲーム、ってよりも、全員そっちで良くない?」フォエミナの言葉に「そだねー」とサリィが答えて、そういうことになった。


 ルビアが父の部屋にある書棚に全員を案内し、ウィルのために表題を読み上げていく。


 いつもの笑顔に見えるが、いつも以上に楽しそうに見えなくもない。アルになら表情の違いもわかるのだろうか、などとらちも無いことを考えながら。


 先ほど話題に上がった『アゲート王国建国記』に、『教会史』『失地ミッシング・ランド研究』『死神島考察』『七彩教会の聖者』『七龍の伝承』『聖騎士伝承』『アゲート王国の旧跡』『精霊文字について』『宝石図鑑』『百花辞典』物語として『シグルヴェインの龍退治』『獅月シヅキ鎮姫シズキ』そして『人喰い龍と嘘つきハーリー』


 少しばかりためを作って最後のタイトルを告げても、ウィルの表情に目に見えた変化はない。あくまでルビアの目から見て、という前提がつくものの、少々拍子抜けだった。昨日の様子から考えれば、てっきり感激のあまりハグでもされるものかと……いや、別に期待していたわけではないけれども。


「やっぱり一冊目ですか。知らない話で無かったのが、少しだけ残念です」

 あまり残念だとは思えない笑顔で――やはりルビアに彼の表情は読み解けない――ウィルは言った。


「他にもあるんですか? いえ、確かに広げられそうな終わり方でしたけど」

「家には五冊目まであります。本は基本的に父さんの知り合いから借りて読んだものがほとんどなんですが、このシリーズだけは私が気に入ったので買い取ってくれたんです。なんでも書いているのはその知り合いの養子なんだとか……」


 いろいろと驚きの事実が出て来るが、最初に思ったのは、


「なら、旅芸人を始める時はぜひ作家枠で誘わないとですね」


「……貴女までそれですか」


 ウィルを大いに呆れさせることだった。わりと本気だったのだが。


「あれ? この本は?」

 と、フォエミナが手に取ったのは、タイトルの無い、簡素な表紙の一冊だ。


「あぁ。今回は関係無いので省略しました。我が家――母の生家の方ですね――の、レシピ本です」


「見ても良い?」


 がしっ、とルビアの両手を摑んで言ったのはヴィオラだったが。その行動に昨日のウィルを思い出したのはルビアだけでは無かったようで、どっ、と笑いが起こった。あの場に居なかったヴィオラはきょとんとしていたが。


「あ、ごめんなさい。良いですよ、どうぞ」


 フォエミナの手からレシピ集を手渡せば、とても嬉しそうに本を開いた。ウィルはそっぽを向いていたが、ひょっとして照れていたのだろうか。表情が変わらないのでわかり難い。


「……で、その人喰い龍、とかっての、どんな話?」

 との、アルの問に喜々として答えたのが誰なのかは、言うまでもないだろう。


「簡単に言うと人喰い龍と人間ひとが友達になる話、ですね」

 端的な言葉に、促されているように感じて、ルビアは口を開く。

「あ、私あのフレーズが好きです」


 胸に手を当て、引用するのはその物語のメインテーマ。

『人喰い龍と人間は友達にはなれない。それは当たり前のこと。世界の常識』

 敢えてそこで言葉を止めると、打てば響くようにウィルが続けた。

『それが嫌だというのなら、取れる手段は唯二つ。

 ――世界を変えるか、世界を騙すか』


「一人の嘘つきが、物語をハッピーエンドにするために、世界を騙す。そういう物語おはなしです」


 それからアンバーにせがまれて、ウィルとルビアとで一冊分の物語を演じた。男女のキャラクターで分けると、意外と同じくらいのセリフ量になって、完璧に暗記していたウィルに皆が驚愕していた。


 本の貸し借りをする約束を取り付けたことが、ルビアにとっては一番の収穫かもしれない。

ちょい短めですが、まとめるほど短くもないので、このまま分割でいきます。

劇中劇はぶっちゃけ5冊分も構想は無いですねー。せいぜい一冊分、かなぁ。まぁ、ルビアちゃんが言ってた通り、その先も広げられる要素はありますが。

あっちではまだ語られてないメインテーマがこちらで語られる矛盾。卵が先か、鶏が先か……


あちらは世界を騙す物語で、こちらは世界を変える物語です。


今回の話で一番時間かかったのは、ルビアちゃんちの蔵書リストです。

一冊昔書いた本のタイトルを紛れ込ませてたりします。

獣化してバーサク状態で戦う双子のお兄ちゃんと、唯一それを正気に戻せる双子の妹の話。物語はだいぶ破綻してましたが、この二人のキャラと名前は気に入ってるので、どっかでまた使いたいなー、なんて思ってます。


次回はちょっと遠出します。

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