閑話 家族として
別れは済ませた、と。
変わらぬ笑みを浮かべたままで、彼はこともなげにそう言った。
逢いたくない、わけがないだろう。と、こちらがそう考えることさえも否定するように、平静に。それは装うふうですらなく、ごくごく当たり前に、本心からそれで良いのだと言っているとしか思えない態度で。
同情や憐憫はおろか、共感さえも拒絶する。
ルビアであれば理解できるのだろうか。
アルならば想像がつくのだろうか。
彼が特別だと呼ぶ、たったふたりの友達ならば。
壁、と呼ぶほどわかり易いナニカがあるわけではない。それは目には見えず、触れてもそれとわからぬほど柔らかな、けれど絶対的な断絶――無彩色の隔たりが、其処には確かに在った。
でなければ、自分を探してくれている友達と逢えないというのに、心配されるようなことは無い、などという言葉が出てくるものか。
彼は、わたしたちには、弱音のひとつも吐かない。
此処の皆を大事にしてくれているのはわかる。
けれど、それは、順番がつけられるものなのだろう。アルやルビアのように、他の誰とも比べられないような存在では、ないのだろう。
心の奥深くになど、そう簡単に立ち入ることはできないとわかってはいるが、それでも悔しいとは思う。いや、もっと単純に腹が立つ。
彼にとって自分たちが……自分が、ただ魔女に託された護るべき者に過ぎないということが。
恋愛感情を向けてほしい、などと思うわけではないけれど、初めから対象外なのは気に入らない。いつぞやの、女の子だけで集まった時にも出た話だが。
わたしは、ただわたしとして見られたいのだと思う。保護対象のひとり、ではなく、他の誰とも違う、一個人として。
味方にすら弱さや脆さを見せない彼の在り様は、なるほど、王としては理想的なのかもしれない。
けれど泣き言のひとつも聞かせてもらえないというのは、家族のひとりとしては寂しいし、哀しい。
前回の補足。蛇足じゃないといーなー。
ルナが泣いて、サニーが呆れて、アニーが怒ったのは、だいたいこういう理由。
誰の視点かはご想像にお任せします。