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色彩の無い怪物は  作者: 深山 希
第二章 無彩色の楽園と蒼紅の旅路
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第76話 楽園の乙女たち

「ぶっちゃけ皆、まおくんのことはどう思ってんすか?」


 開口一番、そう問いかけたサニーに、女子一同は沈思黙考した。


 おや、とサニーは意外に思う。彼女としては出会い頭に必殺技をぶっ放すようなつもりでぶっこんだのだが、存外破壊力は低かったらしい。


 ふむ、と顎に手をやり、真っ先に答えたのは、サラだった。


「もう少し王らしく、威厳を持ってほしいと思いますね」

「あ、うん。そゆことじゃないっす」

 サニーはそれを一刀両断。的外れ、というか、自分で専用の的を用意して射貫くのはやめてもらいたいものである。

 何故ガールズトークのフリが君主論になるのか。


 場所は旧カレンの家。彼女が魔王の家の隣に引っ越して、ルナと暮らすようになった今ではキッチンとしてのみ使用されているそこの二階に、ユートピアの女性全員が集まっていた。絨毯代わりの柔らかな苔をフロルが生やしてくれたので、いつでも横になって眠ることができる。

 男同士で親睦を深める、と言った魔王は、それを毎週の恒例行事にするつもりのようで、それなら、とサニーが声をかけてこちらは女子会を開催する次第となったわけである。


 ……ちなみに、連れ出すのに一番苦労したのはサクラだ。物語のネタになるかもしれない、と言ってどうにか参加させることに成功した彼女の答えはこうである。

「話の合う良い友人だと思っているよ」

「あーたもサラとあんま変わんないっすね」


 思わず漏れ出た本音に、男性口調の少女は憤慨する。


「心外だ!」

「……どういう意味ですか、それは。」


 ――そーゆー意味っす。


「あー、はいはい。戦闘脳と作家脳はほっといて。

 あーちゃんのその反応は意外っすね。もっとわかり易く赤面したりするもんかと思ったんすけど」


 名前を呼ばれたアニーが顔を上げた。長い前髪で隠しているので、目が合う、ということは無いが。左右で色彩が違うという話は聞いていたが、サニーはそれを直接見たことは無かった。

「――え? ……そ、そう、かな……?」

「そっすね。わりとあからさまにまおくんラヴかと思ってたんすけど、そーでもないんすか?」

 サニーが正直にそう問うと、アニーは首をひねったり、天を――と言ってもそこにあるのは天井だが――仰いだりした後に、こう答えた。


「……ウィル、君は、おばあちゃん、みたい……」

 それは奇しくも、サニーが彼に直接告げた感想と同じで。

「おぉう。意外と、もてる、ってわけでもなったんすかねぇ? ルナっちも違うんすか?」


 唯一アルコールを禁止されて最初はむくれていたが、出されたそれが魔王のお気に入りと聞いてあっさり機嫌を直した少女に問う。


「……うーん、別に嫌いじゃないから、まおー君がどーしても、って言うなら付き合ってあげてもいーよ」


 なんというか、随分可愛らしい返答だった。ほっこりしたので、いろいろぶち壊しにしそうな下ネタお姉さんユウガオは後に回して、サニーはカレンに水を向けた。


「……対戦相手?」


 料理人として、という意味だろうか。なかなかどうして、ズレた返答だが。


「いや、あんだけあからさまに甘えまくっといてそれは……」

「お願い忘れてっ!」


 頭を抱えてしまった。


 ――ウチのお姉ちゃんは、ワリとポンコツです。


 そして、修道服が冗談にしか見えない最後のひとりは。


「そうねぇ」窓辺りに腰かけて、外へ向かって煙管をふかしながら、ユウガオは言う「彼の子どもなら、産んでも良いとは思うわね」


 予想外のド直球にサニーですら言葉に詰まる。アニーはここへきて顔を真っ赤にしているし、ルナは不機嫌そうに唇を尖らせていた。カレンとサクラは興味深そうにしているが、前者の表情はややルナ寄り、だろうか。

 サラの反応が薄いのが、意外と言えば意外かもしれない。


「え、なんすか、マジ惚れっすか」

 身を乗り出した拍子にグラスの中のサングリアが少しこぼれたりもしたが、正直今はそれどころではなかった。


「そういうのとも少し違うわ。彼には笑えない冗談だ、って言われちゃったし?」

「うっわ。それはさすがにひどくないっすか?」

 ほとんど求婚のことばに対して、その返しはあんまりだろうと、むしろサニーが憤慨するが、当のユウガオは平静そのもので、「そ? あたしもまったくの同感だったケド?」などとのたまった。


 力が抜ける。

「……あー。ユウちゃんはそーゆーヒトだったっすね」


「――それで、あなたはどうなの?」

 ユウガオに問い返されて、サニーの口許に苦い笑いが浮かんだ。

「いや、なんてーか、あのヒトの見てくれだと、一緒に居ても女同士感しかないんすよね。所作とか流麗なんてもんじゃないし。

 つか、たまにやる指で唇をなぞるしぐさとか、なんなんすかね。男の色気、なんて言葉もあるっすけど、アレは完全に女のそれっすよ」


『わかる。』


 皆の心がひとつになった。


 ――というか今、サラまで声をそろえていたような……


「そのクセ、口説き文句としか取れないようなセリフをしれっと吐くからタチが悪いんすよねー。それも混じり気無し、純度フォーナインオーバーの本気で……口説く意図なんて一切無しに。」

「まったくです。仮にも魔王ともあろう者が、あんな軟弱なことでどうしますか」

 相変わらずズレてるサラはとりあえず無視、するつもりだったのだけれど。


うちでくらい、アレでいいんじゃないかい?」たしなめるように、サクラが言った「いや、口説き文句まがいのセリフは、どうにかしてほしいとはボクも思うけれど。王様だって家に帰ってまで王様であり続けやしないんじゃないのかな?」


「ついでに言うと」と、言葉を引き取ったのはユウガオだ「必要に駆られれば、いくらでも『魔王』を演じられると思うわよ、彼なら」


「ユウちゃんのまおくん評価が飛び抜けて高いのは正直意外っすけど、内容自体はアタシも同感っす。ただ単に今んとこ、王として振る舞う機会が巡ってきて無いだけっすよ、まおくんは。」

 ついでに言うと。そんな機会は無いに越したことがない、というのがサニーの偽らざる思いではあったが……それはそれとして。


「つーかっすね、アタシらにとって恋愛対象とはちょっと違う、って聞いたらあの男、どんな反応すると思うっすか?」

 自分の中ではとっくに答えの出ている問いをサニーは投じた。


「……落胆、は、しないだろうね。少なくとも」サクラが肩を竦め、

「――安心しそう、かな。むしろ。」少し哀しげに、カレンが笑う。

 同意するようにユウガオが苦笑して。


「それってなんかムカつかないっすか?」

 サニーが腰に手を当て宣言すると、誰もがきょとんと目を丸くした。


「いえ、別に……」「今戦闘脳の意見は訊いて無いっす」

 視線も向けずに斬って捨てたのはさすがに不満だったか「じゃあ何故呼ばれたんですか私は……」などとバトル系女子がぼやいている。


「いや、誘わなくてもこーゆー席には来るじゃないっすか、お嬢ってば。ハメを外し過ぎないようにー、とか言って」

 マジメっ子、とからかうように告げてやると、否定できなかったのだろう、戦闘脳な優等生は口をつぐんだ。


「んで、話を戻すと、っすね。いくら本人が無駄に美人だからって、こうもあからさまに対象外じゃあ、なんか女として負けた気がしないっすか?」

 グラスを軽く振って、サニーは一同をぐるりと見渡す。


「いやそれお互い様なのでは……」優等生の空気の読めない正論は無視。


「わからないでもない、かな」最初に同意したのはカレンで。

「……わ、わかる気が、する、かも……」うんうん、とアニーも頷く。

「ルナはよくわかんないんだけど?」まぁ、この子はまだ子どもだ。

「ボクはどうでもいいかな、そういうのは」と、サクラは肩を竦めて。


「……サクっち? そんなんで中身まで男の子になっても知らないっすよ?」

「それは困る!」意外と即答だった。

「あ、困るんすね。やー、まだそこまで侵蝕されてなくて良かったっす。んじゃ、作戦は任せたっす!」

「任され……って、えぇ!? なんでボク!?」

「そりゃあ、シナリオと言えばサクっち! いよっ、作家先生!」

「恋愛小説を書いてないことぐらい知ってるだろうに……」

「んー、でも他に適任居ないんすよねー」


 ふと視線を転じれば、酒精よりも煙を嗜む妙齢の美女が、いつになく穏やかな笑みをたたえていた。


「……ユウちゃんはノってこないんすね」

「ん、まぁ、あたしはどちらかというと、魔王サマ寄りの思考だから。むしろ今くらいの距離感が心地良いわ」


 彼よりの思考、そう言われたからだろうか。その時のユウガオの微笑は、魔王のそれと良く似て見えた。

今回の没タイトル「そうだ、女子会をしよう!」まぁ、ほぼギャグ回だし、これでも良かった気もしますが。

この子たちの関係はハーレムとは似て非なる何かです。てかぶっちゃけまだみんな子どもです。あ、エロイお姉さんは除外で。

次は暦を翌月に進めてハル君の初めての○○です。やっと予定が決まった。

「フランボワーズ」お楽しみに。

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