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色彩の無い怪物は  作者: 深山 希
第二章 無彩色の楽園と蒼紅の旅路
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第68.5話 かいぶつの条件

 一軍の将に必須の才とは何か。


 剣の腕だと言う者もいるだろうし、精霊術師としての能力の方が重要だと言う者もいるだろう。いいや、そんな一個人の能力などはどうでも良く、判断力こそが重要だと言う者もいるかもしれない。


 しかしクンツァイトは、そのどれでもないと考えていた。


 どれもあるに越したことは無いし、事実彼らの将であるスピネル――オリジナル・スピネルとは巧い言いようだ――は、その全てを有している。知る者は少ないが剣の腕前はあの剣匠龍に鍛えられたものだし、術師としても先の『昏白』を散らす程度の実力は持っている。そして判断力の無い者が、傭兵から騎士の身分にまで昇り詰められようはずがない。


 けれどそれらは、将の才でなく兵の才だ。


 将にとって真に必要とされるのは、殺す決断ができるか否かだというのが、クンツァイトの考えだった。


 それが敵であれば、殺せない兵などはいない。

 けれど、必要に応じて味方も・・・殺せなければ、将などは務まらない。効率的に敵を殺すために、より効率的に味方を殺す――兵を率いるとは、そういうことだ。


 まぁ、この考えも今となってはいささか変わってきてはいるのだが……それでも、軍という組織において必須の才であるという持論に変化は無い。


 そして、この一点に関して語るのならば。


 才を有しているのは、53人をひとつの術式で昏倒させた炎の色彩の少年ではなく、剣を持つこともできなさそうな細腕の少女の方である。


 彼女には商才がある、と少女の旅の連れは語った。けれどクンツァイトに言わせれば、彼女にあるのはむしろ将才・・だ。15という若さ……いや、幼さで、命の取捨選択ができる者などそうそう居ない。まして彼女は、戦うための訓練すら受けていないのだ。


 30歳、などと言ったのには願望が入っていた。戦士ですら無いというのに命を択ぶ覚悟を定めるなど、子どものすることではない――と、この考え方は確実にオリジナル・スピネルの影響だが。


 ――大切なひとを、目の前で喪った経験でもあるのだろうか?


 なんにせよ、天賦てんぷの才を持つ赤の少年と、尋常では無い知性を有した蒼の少女の組み合わせは、どこかの傭兵騎士とその謀臣に似ている気さえした。彼が率い、彼女が用いる兵に、自分は果たして勝てるのか、と自問する。

 今すぐ、ということであれば頷ける。相手はまだまだ子どもであり、付け入る隙はいくらでもある。けれど10……いや、5年もすればもうわからない。


 少年の成長速度であれば――その能力は恐ろしいという言葉でも猶足りない程だが――まだ予想はできる。けれど少女が将才を発揮するようになるのは、ただ覚悟が定まりさえすれば良いのだ。10年もあればほぼ確実、ことによっては明日にもその才能を開花させるかもしれない。


 だからこそ、取り込もうとしたのだが。


 クンツァイトが敵に回したくは無いと思った相手は、これで通算三人目である。一人目は言うまでも無く彼の将、オリジナル・スピネルで、もう一人はこの国の健国王、アゲート一世だ。当然三人目の少女は先の二人と比べると遥に未熟ではあるのだが……それでも、だ。

 その少女には世界を変えるほどに強固な意思を感じる。そして方向さえ定まったなら、路を切り開くちからは共に在る少年が有している。


 ……トラブルメーカーなどというレベルでは無い。



 まぁ。それでも。今はまだ、子どもであることに間違いはない。捕らえた敵の尋問は、クンツァイトで請け負う。

 これに関しては、彼の将も役には立たない……どころか、正直すぎて邪魔になるくらいだ。独立戦争の頃から、そうだった。


 たいした情報は持っていそうに無いが、敵よりも厄介な子どもたちに、少しでも手土産を渡すことができればそれで良い。


 追加で用意した2台の馬車は幌馬車に偽装した装甲馬車で、敵方が使っていたのをそのまま大型化したようなシロモノだ。これなら、多少騒いだところで、外まではっきり聞こえるということもないだろう。


 手足と口とを拘束された状態で詰め込まれた約20人――尋問(?)用にこちらの数は少なめに指示した――は、それでも馬車の床を覆いつくす程で。屍肉にたかる蛆虫が頭に浮かんだのは、そいつらのやっていたことを知っているからだろうか。


 連れてきた兵士――見た目が一番怖いという理由で選んだ――にクンツァイトが目配せすると、リーダーと当たりをつけた男をぞんざいに蹴り起こす。


 黄ばんだ肌だの劣等種だの、クンツァイトにしてみれば独立戦争時代だけでもう聞き飽きた罵倒が飛んで来たので、もう一発腹を蹴らせた。


「効率的に痛みを与える方法なら、独立戦争で飽きるほど実験済みです。まずは爪からにしましょうか」


 まるで世間話でもするかのような気安さで、クンツァイトは軽く微笑みかけた。威嚇してみせるより、無表情を取り繕うより、嗜虐的に笑って見せるよりも、これが一番効果的だと学んでいたから。


 将の才、とはまた違った話になるが。


 独立戦争当時、情報を命ごと絞り尽くすようなやり方で、かいぶつと恐れられた男がいた。


 どうやら、真にかいぶつであることに、色彩の有無は関係無いらしい。

一週間以上空いたクセして短くてすみません。書いては消しての繰り返しで、なかなか進みませんでした。

次はメインキャラの視点に戻るので、ここまではかからないとは思いますが……

次回「建国と至宝」(仮)お楽しみに。


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