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色彩の無い怪物は  作者: 深山 希
第二章 無彩色の楽園と蒼紅の旅路
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第56.5話 大掃除の真相

 尖晶石スピネル――まがいものだの貴石もどきだのと、散々に言われてきた名だが、最近は専ら『隊長』とだけ呼ばれることが多くなっていた。

 部下は慕ってくれているが……それだけに、スピネルは忸怩たる思いだった。


 こんな大層な役職に就いていながら、担当する街のゴミすら片付けられないでいるのだから。昔から彼の片腕であり、知略策略謀略を担う相棒は、スピネルは充分良くやっていると評価してくれているが、それでも、奴隷商人などをのさばらせているのは無能の証明ではあるまいか。

 ある時、そんな愚痴をこぼしたスピネルに、相棒は苦笑したものだ。


「耳が痛いね。そのヘンはどう考えてもボクの仕事だもの」


 そんなつもりで言ったわけじゃない、そう慌ててスピネルが言えば、「知ってる」との答えが返る。加えて、一網打尽にするための調査は進めている、という頼もしい言葉も。


 そんな折だった。

 成人して間もないような少女が、奴隷商を捕らえたと言って、隣国から戻って来たのは。おまけに彼女は、相棒の指示で泳がせていた裏切者のことすら、短いやりとりで見抜いてみせた。


 ――これは奇貨だ。


 スピネルはそう判断し、相棒にどう動くかの指示を仰いだ。

 彼女たちに協力させる、という案には、最初は反対した。子どもを関わらせるような案件では無い、と。既に充分に関わっている、との返答が有り、手伝わせるかどうかの最終的な判断はスピネルが直接視て行う、ということで話がついた。


 想像を遥かに超える少女のしたたかさに、結局スピネルは協力を要請することに決める。調査順を決定する少女ルビアの知性に、スピネルはしかし、頼もしさよりもむしろ危うさを感じていた。

 子どもばかりの一行で、彼女の頭の良さは、いつか経験不足によって足元をすくわれることになるのではあるまいか。そんな、漠然とした不安を抱く。


 今回に限って言えばそれは杞憂だったのか、次々に入る報告は過不足の無いものだった。ただ、調査の順番が予定と変わったことに眉をひそめていると。


 待機していた侍獣の姿が掻き消えた。


 ――跳んだ。


 そう理解した時には、スピネルも窓から飛び降りていた。二階程度の高さを問題にするような鍛え方はしていない。


 調査対象は残りひとつ。それはほぼ確実に暗色だと考えられていたところで。


 全力に近い速度で駆けつければ、事情を知らない部下たちが協力者を完全包囲していた。少女の罵倒を甘んじて受け、黄昏色の調査対象が『得意先』だと言っていたらしい名前を知らされる。


 その内のひとつが当たりだったと、数日間を懸けて相棒が見極めてくれた。

 これでこの街も少しは綺麗になった。そう安堵したスピネルを、ルビアが訪ねて来た。笑ってはいるものの、友好的な感情が一切感じられない表情で。


「私たちは良いように利用された。そういうことですか」

 開口一番、少女は嗤って言った。


「……待て、何の話だ?」

 スピネルには本気で何のことかわからなかったが、少女は続ける。


「最初から囮だった、ということですよね? 暗色連中の目を引くことさえできればそれで良かった。貴方が……いえ、貴方の部下が、でしょうか、裏で調査を進めるために、私たちの動きは派手であればあるほど都合が良かった。

 戦闘に発展することすら計算の内だとしたら、恐れ入ります。本当、巧く使って・・・くれたものです。協力者? 手駒の間違いでしょう」


「……何だと? お前たちを戦闘に巻き込むことが……計算の内?」


 ――そんな話は、聞いていない。


「――あぁ。まぁ、そうですよね。立場上、肯定はできませんか。良いですよ、それで。私はただ、負け惜しみを言いに来ただけですから。まんまとしてやられたけれど、その自覚くらいはあるんだぞ、ってね」


 去り際の、その蔑むような視線を、本当に誘導し、利用していたのであれば、負け惜しみだと受け流すことができたのだろうか。


 ――子どもは、護るべき者だ。


 相棒が、普段から汚れ仕事を引き受けてくれていることはわかっている。足りない知恵を補ってくれていることも知っている。


 ――それでも、こればかりは黙っていられない。


 普段は大っぴらに顔を出さないようにと言われているが、知ったことかと、スピネルは腹心のところに怒鳴り込んだのだった。

彼の視点をやる予定はあったのですが、途中で視点が換わるのもなんなんで、コンマ5話という形を取りました。分割されただけで予告詐欺じゃないよ!(言い訳)

次こそルビア視点で「黄昏色の真実」です。

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