閑話 初恋にはまだ足りない
「むぅ。なかなか手ごわいですね、ウィル君は」
皆が集まって来るであろう場所へと戻りながら、ちょっぴり頬を膨らませて独り言のように零す。子どもっぽい上に品もないと、母様にはいつも眉を顰められるが、この癖はなかなか抜けない。
「あざとい」
皆の姉さん、フォウナ姉さんにばっさり切って捨てられてしまった。
むむぅ、と更に頬を膨らませれば、
「そういうアピールは、男ども相手でなきゃ意味ないよ、ルビア」
「素ですよ、失礼な。そもそも私は、男の子にちやほやされたいわけでもないですし」
「あぁ。まぁ、そうかもね。だってアンタ、村の連中のこと下に見てんでしょ」
失礼を通り越して心外なことを言われた。
「そんなことないですよ? フォウナ姉さんのことはカッコいいと思ってますし」
「あぁ、言い方が悪かったね。言い直そう。
アンタ、村の男どものこと下に見てるね」
これは、すぐには否定できなかった。
「それは……そう、なるのかもしれませんね」
ある意味では、その通りかもしれない。
「ま、アンタの生まれを考えるとしょうがないのかもしれないケドさ。ヤロウどものこと、ちょっとはちゃんと見てやんなよ」
「その『生まれ』というのを、もし血筋という意味で言っているのだとしたら、それはまったく関係ないですよ? 私は、ただ母様のような恋がしたいだけです。身も心も、総てを擲つような激しい恋」胸の前で祈るように両手を組んで言い、それを下ろしつつため息一つ「――それにふさわしい人がまだ見つからないだけです。どちらかというと、生まれよりも育ちの方が問題ですかね」
「そんな相手そうそう……って、それでアイツか」
「アイツ、というのがウィル君のことなら、半分だけ正解です。今日のやり取りを見ていて、アル君にも興味を持ってますから」
――興味。それは、期待と言い換えても良い。或いは、彼らのような凡庸ならざる人が相手なら、母様のような恋ができるのではないか、と。
「アルムはともかく、ウィルの方はやめときな。手を伸ばす気がないヤツの手は取れないよ」
「何言ってるんですか。恋は障害が多い方が燃えるんですよ?」
そうでないと攻略のしがいもない、と零せば、フォウナ姉さんは深々とため息をつく。
「そうだった、アンタもアイツらの同類だった」
まぁ、とりあえず、さしあたっては。
「アル君が獲った魚は、私が届けますね」
届けに行った先に、既にウィル君の姿はなく、がっかりすることになるのを、この時の私はまだ知らない。
ルビアちゃんは恋愛脳。相手はまだ確定していません。
実はハル君の攻略難易度はそんなに高くないです。
攻略後の「どうあがいても、絶望。」を覚悟さえできれば。
次はハル君に自身の内面について少し語ってもらいます。
次回「二者択一」ご期待ください。