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色彩の無い怪物は  作者: 深山 希
第二章 無彩色の楽園と蒼紅の旅路
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第26話 黒瑪瑙

前回の無彩色サイド。

膝枕(子守歌付き)でハル君爆睡。ルビアちゃんが知ったら狂乱しそう。

オレたちのでぇと回はこれからだ!

 平穏な毎日が続いていた。それに不満があるわけではなかったが、疑問ならばあった。むしろ日増しに膨らんでいく。


 ――いったい、何のために、魔女は……?


「サラさんに質問です」

 夕食時にそう問いかけると、ほぼ全員の視線が集まった。黒髪で年長のニクスだけがマイペースに食事を続けている。

 随分大げさな反応だな、と首を傾げるハルに、ルナが言う。


「まおー君? サラ、ってゆーのは役名で、嬢の名前じゃないよ?」


 ――そこか。


 言われてみれば、ハルは説明していないし、サラが自分から語るとも思えない。シグルヴェインは……ハルと同様、忘れていたクチか。


「そーいやまおくん、前にもそう呼んでなかったっすか? てか、そもそも嬢が名前間違えられて黙ってるのもおかしーっすよね?」

 サニーがハルとサラとを見比べて言う。


「あー……役名と同じだったのは偶然です。嬢、という呼び方を家族でもない私がするのもどうかと思って、考えた名前が『サラ』というわけです」


「なるほどね」と、銀の髪に視線を向けて呟いたのはサクラだ。


「あ。やっぱり由来は同じでしたか?」

「そうだね。でも……いつかタネ明かしをするつもりだったのに、先にバラすなんてひどいじゃないか」

 唇を尖らすしぐさは、少しばかり子どもっぽくて、ハルにルビアを思い出させた。あの子も基本的には落ち着いて、大人びているクセに、時折こんなふうに年相応の表情を見せたものだ。

「……やれやれ。そんなふうに笑われたんじゃあ、怒るに怒れないじゃないか」

 サクラが肩を竦め、ハルは小首を傾げる。


「どんなふうに笑ってました?」

「泣きそうな顔で笑ってたよ。あんな顔されちゃあ、責められない」

「ちょっと友達のことを思い出してただけなんですが……」


「まおくん? サクっち? 二人だけで通じ合ってないで、わかってないヒトにも説明してほしいんすけど?」


 サニーにジトっとした目を向けられて、ハルはサクラに言ってしまって良いか訊いた。ここまで話して黙っていられないだろう、と返される。


「サラというのは『純銀』という意味なんですよ。雷光の姫に似合うでしょう?」

「雷光の……姫?」と、何故か当のサラに問い返される。

「――? 『雷光姫らいこうき』って、呼ばれてませんでしたか?」


「姫? 鬼じゃなくて?」と、息を吐くように失言をしたのはルナだ。サラに射殺すような視線で睨まれて、顔を青くしている。


「あぁ、なるほど。それでサラさんはあの時不機嫌になっていたんですね。『鬼』も『姫』も、精霊文字では同じ読みをするんですよ」


「なるほどなるほど。いーセンスしてるっすねー、まおくん。あたしもこれから、サラって呼んでも良いっすか?」

 にっ、と笑ってサニーが問えば、サラは「どちらでもお好きに」とそっけなく返す。精霊の光に満ちた森の中では、ハルにも感情の色を視て取ることはできない。眼を塞がれたようで不自由ではあったが、これはこれで悪くはなかった。

 相手の感情が一方的に筒抜けというのは、少しばかり退屈だ。


 ……まぁ、魔境に在っても感情が全て筒抜けだった友人も居るのだが。


 とりあえず今回は、家族から呼ばれても良い程度には気に入ってもらえたのだろうと、ハルはポジティブに解釈しておくことにした。


「話が逸れてしまいましたが、結局のところ、私に何をさせたいのでしょう?」

 ハルが問えば、サラがわかり易く失望の視線を向けて来る。


「それを陛下自身に考えてもらうことがおばあ様の望みです。

 まずは護るべき者を知ること。けれど……そうですね、こちらが準備したものを見せておいても良いでしょう。明日はニクスに案内させます」


 それでも食事の手を止めなかったニクスだが、サラに再度名を呼ばれ、きょとんと首を傾げた。外見的には20歳程で、青年と呼ぶべき年齢なのだが、まるで幼子のような反応だ。

「あした? まおー、あそぶ?」

 たどたどしい口調は、どうやら素だったらしい。ハーリー役の棒読みは、慣れない演劇で緊張していたというわけではなかったようだ。

「えぇ。宝物を見せてあげてください」


 サラがそちらの対応をしている間に、ハルにはカレンが説明してくれた。

「ニクスは言葉を覚えている途中なの。ずっとひととは関わらずに生きて来たみたいで。此処へ来てから、まだ一年経ってないわ」

 年齢的に最古参かと思えば、なんと真逆だった。年上のお兄さんに案内してもらうのではなく、幼い子どもの相手をするつもりでいた方が良さそうだと、ハルはちっとも苦く見えない苦笑を浮かべるのだった。




 翌日。予定通り(?)子どもの相手をすることになる。

「かくれんぼ!」

 などと言われて姿を隠された時には、放っておいて家に帰ってしまいたい誘惑にかられたりしたものだが。


「隠蔽専門みたいな色彩をどうやって探せと……?」


 隠れている相手を探す、というよりも、散歩のつもりで開けた森を歩く。ハルがこの楽園で把握できているのは、自分の家と歓迎会が開かれた中央広場、いつも食事をしている元魔女の家にして墓標がある野外食堂、楽園の食事を全てまかなっているカレンの家、アニーの野外音楽堂くらいのものだ。

 サラとシグルヴェインの家はハルの家の隣らしいが、知らないところの方が多い。いずれ案内されることになる場所も多くあるだろうが、今のうちに一回りしてみても良いだろう。


 光の中にぽっかりと闇がある、などというのであれば簡単に見つけられたのだが、夜の闇の色をしたニクスはそこまで甘くはないようだ。『隠れ鬼ハイドアンドシーク』とでも名付けようか、と一瞬考えもしたが、それは色彩と言うよりも術の名称だな、とハルは思い直す。

 彼の色彩は、やはり『夜』だ。心穏やかな、優しい夜。静かな眠りの色。


静夜サイレント・ナイトといったところでしょうか?」

 考えがまとまり、足を止めたタイミングだったのは、ただの偶然だろう。


「わっ!」

 と、ニクスがハルの背後で叫んで姿を見せた。


 弾かれたように、ハルは振り向く。


 当たり前だが、そこには夜色の髪と瞳のニクスが居た。直前まで、ハルにすら何の存在も知覚させなかった青年が、こてりと首を傾げる。

「……あんまり、びっくりしてない?」

 少し不満げな口調でニクスは言うが、ハルは充分驚いている。彼が自分から出て来なければ、ハルはいつまでも見つけることなどできなかっただろう。


 ……力押しで魔法を壊す、という手段は無いでは無かったが。


「びっくりしても叫んだりするタイプじゃないだけですよ。まったく気づいていなかったので驚きました。野生動物でも騙せるんじゃないですか?」

「だませるよ?」こともなげに言われた。

「実証済みでしたかー。私が言うのもなんですが、此処の皆は規格外ですねぇ」

 自分が誰よりも人外であることはハルも自覚している。ハルのちからは世界を壊す力だ。心からそう望めば――望むことができるかはとりあえず措いておくとして――世界そのものに死を命じることも不可能ではないように思う。『魔王』とは良く言ったものだ。

 理由が無ければ使えない不便なちからは、理由さえ有れば不可能の無い万能のちからでもあった。まさに『魔法』だ。


「きか……がい?」先ほどとは逆方向に首を傾けるニクスに、

「すごい、ってことです」ハルはわかり易い言葉に直してやった。


「すごい? すごい! まおーに、すごいの、みせる!」

 ニクスが言うと、ハルは彼の背後の大樹に気付いた。


 大樹、である。皆の家ほどのサイズのそれは、どう考えても見落とすような大きさではないが、ニクスが魔法(おそらく)を解くまで、そちらに意識が向くことは無かった。


 そしてニクスの背後でのそりと身を起こした、夜色の獣にも、また。

 それは暴走した時の紅蓮と同程度の大きさを持つ、しなやかな猫科の肉食獣――豹、が一番近いだろうか。成人男性を複数名乗せて走れそうなサイズの豹が、現実にいるかどうかは知らないが。


「これは……確かに、凄いですね。貴方の侍獣ですか?」

「じじゅ……? んーん。まま!」

 がば、と、ニクスがママと呼んだ精獣に抱き着く。


「ママ……?」

 なんとなくだが、予想がついた。

 捨てられた……か、どうかはわからないが、ニクスが自身の庇護者を求め、集束した精獣がこの夜色の豹で、魔女にこの地へと招かれるまで、彼は彼女(?)とだけ共に在ったのではないだろうか。思っただけで全て伝わる相手とだけ居たのであれば、言葉を知らないのも頷ける。


 ……と、またニクスの姿が消えていた。傍らの大樹へと向かったのであろうが、彼は本当に、息をするように自然に姿を消す。


「此処は貴女たちの家なのですか?」

 名も知らぬ精獣にハルが問えば、彼女は小さく首を振る。


 家ではないのであれば……宝物庫、か。昨日サラが口にしていた『宝物』という言葉をハルは思い出した。精霊の子たちの隠れ里であれば、どれほどの宝が出て来ても驚くには値しないだろう。などと考えていると、宝物庫(仮)からニクスが出て来る。


 彼が手にしたものに、ハルの目は点になった。


「これ! すごい?」


 凄い? 確かに凄い。ありとあらゆる色彩を閉じ込めたようなその宝玉は、かろうじて片手に納まるかどうか、といった程度の大きさで、それより遥かに小さく、品質でも劣ったものならハルも……いや、ブラウニング家も所有していた。


「――国宝じゃねーか!」

 思わず、いつぞやのアルの叫びが口を突いた。


 其処に在ったのは、精霊の瞳玉。正真正銘、国家の証となる宝玉であった。


「……じゃねーか?」ニクスが不思議そうに首をひねっている。

「あー……いや、すいません、つい。」

 返しつつも、ハルの意識は内に向いていた。


 こんなものが此処に在る、ということは、魔女は国でも興させるつもりなのだろうか? けれどハルには、世界の敵が表に出ることなど、悪手としか思えなかった。隠れ潜むことができるのであれば、それに越したことは無いだろうと。


 この時は、そう、思っていた。

お待たせしました!

月10話、どころか週1ですらオーバーしてしまいました。これは切られても文句言えないレベルなので、言い訳はしないでおきます。せめて物語の質だけは落とさないように頑張ります。

次回「蛍石」(予定)少しずつでもペースを戻していこうと思います。

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