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僕らはニシコク法学部!  作者: 入山 片理
トリオ結成
8/8

トリオ結成(5)

 汗を拭きつつ入ったドアの先には、学部棟の一階・二階を合わせた高さのある大きな講義室が待っていた。後方の席に二人で陣取る。どうやら間に合ったようだ。

「ところで名前を聞いてなかったな。俺はコウジョウサトル」

「僕は竹下啓介って名前。コウジョウサトルってどんな字を書くの」

「コウは山口香さんの『香』、ジョウは水城奈緒さんの『城』、サトルは岩月悟さんの『悟』」

「人の名前ばっかりでよく分からないな」

「山口香さんは言わずと知れた柔道家、水城奈緒さんは言わずと知れたAV女優、岩月悟さんは言わずと知れた文芸評論家だよ」

「……」

 こうして会話の展開が見られなくなったときに、場面転換のために教授が講義室に入ってきてくれるのが小説のいいところである。

「はい皆さん御待たせ致しました。では『民刑事法入門』の講義を始めます。先ずレジュメを配りますので後ろに回して下さい」

 やがてレジュメが啓介と悟のもとにやってきたとき、二人は思わず目を見開いてしまった。レジュメが漢字ばかりなのである。

「『法は法律とは異なる意義を持つ語で有る』『民法を始とする民事法は私人間の権利義務関係を規定し(実体法)其の紛争解決をも規律して居る(手続法)』だってさ」

「補助動詞はひらがな表記にするって知らないのかな」

「この教授、たぶんバカなんだよ」

「えー、皆さんの元にレジュメは行き渡りましたか。講義を始めて行きませふ」

 講義が始まった。

「何故皆さんは此の学部で法律を學ぼうとしたので御座いますか。はい其処の男性」

「法学部がカッコいいからです」

「其れでは後ろの列の貴方。そう、貴方です」

 悟が指名された。講義室内の階段をハアハア息を切らしながら教授からマイクが渡される。

「全ては彼女を作るためです」

 講義室に失笑ともとれる声が漏れる。

「そんなことより、その漢字だらけの言葉遣いを止めてもらえませんか。レジュメだけならまだしも、発言まで漢字を多用する必要はないでしょう。だいいち『行きませふ』ってなんですか」

「これは失敬。読みやすく発言していくことにいたしましょう」

 そう言いながら教授は教壇に戻っていった。

「申し遅れました、私は民刑事法入門の民事法部分を担当いたします嶺岸辰之進です」

 啓介の基礎ゼミの教授だった。

「ん? 啓介、あの教授知ってるのかよ」

「基礎ゼミの担当教授らしいからさ。それよりなんで僕が嶺岸教授を知ってるって気づいたの」

「マジかよ、ってものすごい小さい声で言ったじゃん、今」

「そんなに小さい声が聞こえたのか」

「耳だけは良いからな」

 もはや地獄耳というレベルではないらしい。悟の前では下手なことを呟けない。啓介は密かに震え上がった。それでも講義は進んでいく。

「法律上、我々のような生身の人間は『自然人』、会社などのように生身の人間ではないけれど法律行為をすることができるものとして存在するものは『法人』と呼びます」

「生身の人間っていう言い方、ちょっとエロくね?」

 啓介は「僕もそう思った」とは言いたくなかったらしく、無視を決め込んだ。

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