トリオ結成(3)
彼は、とても初対面とは思えないほどの馴れ馴れしさで啓介に話しかけてきた。
「今の女の子、知り合い?」
「いえ、今初めて会いました」
「めちゃくちゃかわいかったよな」
「ええ、そうですね」
「おっぱいも大きかったし」
「……えっと、そこまで見てませんでした」
「見てなかったの? 男としてどうなの、それって。エッチなこと好きじゃないの?」
「嫌いじゃないですけど……」
面倒な人が来てしまった、と啓介は心の中でため息をついた。
「嫌いじゃないだろ? この歳になったら、男女問わずエッチでしょ」
「はあ」
「今度あの子を見かけたらよく見てみな」
男子校出身ということもあり、啓介は同年代の女性との接し方がよく分からなかった。会話をするだけでも少し緊張してしまうのだから、初対面で胸の大きさなど確認することなどできるはずがない。そんな啓介の胸のうちを察したのか、彼は話題を変えた。
「それはそうと、部活とかサークルとかどうするのよ?」
「まだ決めてないですね……、バイトしようと思っているので、もしかしたら入らないかもしれません」
「マジで? サークル入った方がいいと思うけどなぁ。まあ、そうはいっても俺も全然決めてないんだよ。とりあえず今日は馬術部行ってみるけど」
「えっ、もしかして新入生ですか?」
「そうだよ、だからその堅苦しいですます調をやめてほしいんだけど」
「分かりました。ところで何学部なんですか…いや、何学部なの?」
せめて法学部以外であってほしいと思いながら尋ねた。
「法学部よ」
「あっ、そうなんだ……」
「君の学部は?」
「法学部」
「同じじゃん!」
啓介は逃げ出したくなった。どんぶりの中に残っていたひとかたまりの薄切り豚肉を口に頬張って、飲み込む前に立ち上がった。お先に、と別れを告げる。
「ほさひに」
「え? 食べ終わってから喋れよ」
「……お先に」
食堂を出ると、四月とは思えない強い日差しが身体に刺さった。今日はもう大学に用事はない。とはいえ暇だからと言ってキャンパスを探検しようものなら再び迷子になりかねないだろう。明日からの講義のために、早めに帰宅することにした。南門まで出てくると、黄色い電車が西千葉駅のホームに入ってくるのが見える。この時間帯は十一分に一本しか電車が来ない。啓介はゆっくりと駅へと向かった。