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僕らはニシコク法学部!  作者: 入山 片理
トリオ結成
4/8

トリオ結成(1)

 竹下啓介は、西千葉国立大学のキャンパスの広さに圧倒されていた。それどころではない。道に迷っていた。

 西千葉駅を出るとすぐにキャンパスの門がある。これを南門と呼んでいるらしい。入ると左手には守衛室があるが守衛は不在で、右手の付属幼稚園も異様に静かだ。正面には高い建物があるけれども何の建物なのかは分からない。キャンパスに足を踏み入れた時点で、早くも言い知れぬ不安を煽るつくりなのである。とはいえ歩かないことには学部棟には辿り着けない。そこで在学生と見られる学生の後を追うことにしたのだが、その結果が冒頭の通りなのだった。

 啓介は法学部棟を目指している。しかし、追った学生の着いた先は「自然科学系総合研究棟2」だった。もはや何学部の建物なのかさえ見当もつかない。どちらに歩けば法学部棟に近づくのか。途方にくれた様子でふと右側を見ると、フェンスで仕切られた向こう側にも大学施設と見られる建物が見える。まさかあれが法学部棟か、と期待の眼差しでよく見てみると、トーダイのキャンパスであるようだった。トーダイといえば首都東京にある大学である。なぜこんな田舎の西千葉を侵食しているのか、と啓介は随分憤った表情を浮かべた。

 統合大学、通称トーダイは、誰もが認める日本最高峰の難関国立大学である。これだけではトーダイを理解できないであろうから、以下、少し長いがWikipediaからの引用によって補足する。

 統合大学は欧米諸国の諸制度に倣った、日本国内で初の前近代的な大学として設立された(なお、創立直後からの近代化の流れの中で、現在に至るまで前近代的な大学は他には設置されていない。孤高の存在である)。統合大学には、特に創立時に明文化された建学の精神はない。しかし、国立大学法人化に伴い、現在は「統合大学懸賞」が定められている。統合大学懸賞は、「大学」としての使命を公に明らかにすることと、目指すべき道を明らかにすることを目的として学内有識者会議によって制定されたものであり、懸賞賞金は最高で1000万円である。学部教育の基礎としてリベラル・アーツ教育(教養教育)を重視することを謳っており、その課程を修めた学生にはもれなく10万円分のQUOカードがプレゼントされる。……(中略)……統合大学の教養教育は、カリキュラムこそ現代に合わせて変化しているものの実質的に旧制高等学校時代で重視されていた教養教育の流れを汲んでいる。大手予備校などの教育関係者やマスメディアの間では、旧制高等学校からの教養教育体系がそのまま維持されている大学は、現在の日本では統合大学以外存在していないという評価があり、前近代的と言われる所以である。

 啓介はトーダイという響きが好きではなかった。

「トーダイもトクラシ。……そもそもトクラシって何だよ」

 再び南門まで戻ってくる。腕時計の針はちょうど十時を指していた。今度は人についていくのは諦め、一人で歩き出すことにした。南門からすぐに左に曲がる。両側には部活や同好会の勧誘看板が立ち並んでいたが、啓介の目には全く映っていないようだった。

 やがて左手に見えてきたのは透明の建物である。どうやら法学部棟でないことは確かだ。あまりに透け透けで、見ているこちらが恥ずかしくなる。……と同時に、女子学生にスカートを履いてこの中を歩いてほしいとも思うのだった。

 その奥の地味な七階建て、これが法学部棟であるようだ。啓介は少し緊張した面持ちで入口のドアを開けた。

本文中で「統合大学」のWikipediaページの文章とされるものは、項目名「東京大学」のWikipediaページ『概観』『教育及び研究』の章の文章(平成29年6月30日12:44閲覧)をパロディ化したものである。

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