早瀬さとみの場合
西千葉駅の改札を出ると、左右に出口がある。早瀬さとみは頭上の案内標示を見ながら左に折れた。駅前の階段を登ると西千葉国立大学が見える。それを確認すると、再び階段を下りた。その隅に佇むファミリーレストランで時間をつぶすつもりらしい。
「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」
「はい、そうです」
「いま喫煙席しか空いていないのですが、よろしいでしょうか」
さとみが店内をうかがうと、禁煙席は確かに満席であった。こんな朝早くからよくファミリーレストランなんて来るのね、とやや呆れ顔を浮かべながら、
「構いません」
「それではご案内いたします。喫煙席お一人様ご案内です。いらっしゃいませー」
「らっしゃいあせー」
通された席はタバコの煙に包まれていた。こほん、と咳をして、さとみは大学ノートを開いた。細い罫線の間には、これまでに解いてきた数学の問題の解答がびっしりと書き込んである。赤ペンで大きく描かれたバツが目に痛いが、それでも文字の羅列を見るだけで気分が落ち着くらしい。
さとみは携帯電話の画面を見るともなしに見た。二月二十五日。今日は西千葉国立大学の前期入試当日である。