りんごの木
珍しいものだ、りんごの木がある。
子供にとっては手を伸ばして、つま先立ちして、飛び跳ねても届かない。
男子女子、プースカ気味に頬を膨らませる。
「木、登って!」
「俺が~?」
「できないの?りんご、食べたいよ」
自分で行けないんじゃない。女子はスカートだ、ちょっと木登りには不向きな衣類で、その恥じらいも言葉に隠して伝えても、分からない年頃の男子。
「肩車だー!おりゃー!」
「きゃあ!?」
股下から女子を持ち上げて、驚かせながら、リンゴにその手を近づけさせる。女子は男子の頭を左手で抑えつけながら、右手でりんごを掴んでもぎ取った。わぁっ、と赤みの表情で
「獲れたよ!獲れた!」
「おー、良かった!」
「相場くん、もう降ろしていいよー」
2人で獲ったリンゴ。協力してきた男子におすそ分けして、ぶきっちょながら、リンゴの皮を剥く女子。可愛い動物フォークと、手づかみでお互いいただく。
◇ ◇
あれから結構な月日は経って、すっかり高校生となっている相場竜彦がそこにいた。今なお、りんごの木はあって、子供達の遊び場の一つとしてある。
今日、ここを通ったのはたまたま。友達の遊びでたまたまだ。
「舟、お前。あのりんごの木を知ってるか?」
「地元じゃねぇから知らん」
「あそこは別名、色を知る木と呼ばれていてな」
その当時のことが蘇る。誰だっけかって、くらいになってしまった自分なのだが
「女子を肩車して太ももと尻を体験するのと、女子に木登りさせて、パンツを見ることもできるりんごの木なんだ。女子って大抵、果物大好きだから、自分で獲らないと気がすまないそうだ」
「なんとなく分かった。お前、下心丸出しだったのか」
あの子の体は成長しているだろうか。そういや、
「あの時が俺に彼女らしい人がいた時期だなぁー」
「悲しいオチになるなや。いっちょ、ゲン担ぎにリンゴを採って来るか?」