天使の事情 1
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「久しぶり…というほど経ってないかしら?」
「なっちゃんッ!」
懐かしい顔にボクは思わず詰め寄るとこの世界にきて言いたかったことを彼女にぶつけた。
「何でボクを女の子の中に入れたのさッ?! 普通は男の体でしょ」
やはり聞きたいのはこれである。結構強く言ったのになっちゃんはどこ吹く風といったような感じで受け流す。
「あら 聞きたいかしら?」
「もちろん」
ズイっと彼女が体を寄せてくる。男の時は彼女より頭一つ高かったが、今のこの体では丁度同じぐらいの背丈だからバッチリ視線があう。そのまま、顔をボクの顔の横に滑り込ませるとそっと耳元で彼女はとんでもないことを口にした。
「私 オスは嫌いなの」
「はぁぁぁ???」
今ボクはかなり間抜けな顔をしていると自覚できる。オス イコール 男ということは…。
「なっ なっちゃんってそっち系の人だったの?」
ボクは驚きで一歩後ずさろうとしたが彼女の手がボクの顔を左右で挟んで体を固定した。
「うふふふッ 可愛いわ ゆうちゃん」
顔を押さえつけられているのでトロ~ンとした表情の彼女の顔がモロ瞳の中に映る。
「この女 素材はいいけどなんだか陰気くさい感じだったの だからどうなるかと思ったけど中身が違うととてもよくなったわぁ さすがゆうちゃんね」
「あっ あの 奈々さんッ?!」
「ねぇ ゆうちゃん… キスしましょ」
「なななななッ 何言ってるのさッ」
慌ててボクは彼女から離れようとしているのに顔どころか体すらピクリとも動かん。
「別に今のゆうちゃんだったら問題ないでしょ」
確かに体は女だけど中身は男だから女の人とゴニョゴニョするのはやぶさかではないけど、この迫力はなんだろう。男だってこわい。とって喰われてしまうぅぅ~~~ッ
「さぁ ゆうちゃん 舌をだして」
「いきなりディープですかぁぁぁッ!!」
あぁぁッ なっちゃんの顔が近づいてくるぅぅ~。
「うおっほんっ」
目の前はなっちゃんの顔いっぱいなのでわからなかったが、どうやらなっちゃんの後ろに誰かいるようだ。その人からわざとらしい咳払いが聞こえてくる。
「人の愛の語らいを邪魔するなんて無粋な天使ね」
憤然としたなっちゃんがボクの顔を離して横にずれると、そこには短めの金髪を左右に大きく展開する羽根飾りのついた兜をかぶり、全身を白銀の鎧に身に纏った美女が立っていた。その瞳は虹色に輝き、背中には大きな白い翼が折り畳まれていた。
「時間がないんだ 速やかに用件だけ伝えたい」
「はいはい…」
そういうとなっちゃんは後ろに下がるかわりにその美女が前に出る。背丈は今のボクより高いため、見上げる形となった。見上げてみるなんて背の高かったボクには初めてだったのでちょっとドキドキしてしまった。
「お初にお目にかける 私はこの世界 ヴァンダルシアを管理するユリエルというものだ」
「あっ 初めまして… 斉藤祐ッ …じゃなくて レイチェル ルナフィンクです」
まだ、彼女として馴染んでいないため、つい元の名前を出してしまう。相手も事情を知っているとはいえ、危ない。危ない。そんなボクの慌てぶりに苦笑いを浮かべるユリエル様。やっぱりいたんだこの世界の天使様。
「あの 違う世界の人間が来るのはやっぱりダメだったんでしょうか?」
「いや 別の世界から魂を持ってきて入れ替えるのはよくあることだ 人間だってより強い血筋にするために別の血筋の人間と交わるだろ それと同じ感じだ」
「はぁ なるほど… では どういったご用でしょうか?」
「そう 堅くならないでくれ とにかく キミに礼が言いたいだけなんだ」
「お礼ですか?」
「あぁ ありがとう キミのおかげでやっかいだったエンディングがつぶれたよ」
「はぁ エンディングですか…」
まったく見に覚えがありません。ボクはどういうことなのかとそっとなっちゃんの方に視線を送る。
「まずはこの世界のことを説明した方がいいわね」
なっちゃんはボクの混乱の意をくみ取ってくれたのかユリエル様に進言する。
「そうだな… 世界は神が作りし子供であることはナズエルから聞いているな」
「はい」
「実はこの世界の子は生物が… 特に人間が争っている姿を見るのが大好きなんだ」
「うえぇッ」
変な声がでてしまった。この世界の子ということはこの世界がそれを望んでいると言うことに他ならない。確かロンデガルド王国の歴史も戦争の歴史だったような。小国を束ね統一して大きな国になったけど、今でも国境付近で思い出したかのように戦争をふっかけてくるのはこういうことだったんだ。何てはた迷惑な世界なんだ。
ユリエル様はそんな世界をよりよくしようと人間にお告げという形で助言したり、その者が持つ才能を覚醒させたりといろいろ手を貸して、1000年という月日をかけてようやくこのロンデガルド王国が誕生したのだった。
そして500年。王国は平和を維持してきた。精霊術を発展させ人々は豊かになっていったそうだ。めでたし、めでたし。と終わればよかったのだが、なんとこの世界は諦めていなかった。
「キミが18歳になった頃 この国は滅ぶ」
「へっ?!」
それは、あまりに唐突な終末宣言であった。
「どっ どうしてですかッ?!」
「キミはこの世界にある「触」を知っているか?」
「えぇ まぁ 彼女の知識にはあります 精霊と同じ存在で真逆な性質を持っていると… あと 触から魔物が生まれるとか…」
「概ねその理解で正しい。その触によって 国中に魔物が大量発生する」
「はぁ?」
魔物の大量発生? なんで? どうして?
「忌々しいことに世界が巧妙に触を500年隠してため込んでいたのだ その異常性に国の力は持たず衰退していく 力を失ったロンデガルド王国は周辺国家の侵略をも許し 世界はもう一度昔のような乱世に戻ってしまうのだ」
まさに、世界が望んだように…。何してくれてるんだ世界。せっかくファンタジーの世界に来たのに、結局 前と同じで18歳で死ぬなんてあんまりだよ。
「なんとかならないんですか? 例えば 魔物が生まれる前に触を消すとか?」
「触は消せない それができると言うことは同質の精霊も消せるという事になってしまうからだ」
確かに、それができるなら世界を作っている精霊も消え去って、今度は世界が滅ぶ。
「そうだッ! この世界の偉い人 例えば王様とかにお告げとかして対策をとらせるとか」
先に何があるかわかれば対策だって取れるよね。でも、ユリエル様は首を左右に振った。
「私は長い間 人間というものを見てきたつもりだ その中で先のみえない大災害を知らされた人間のとる方法は二つしかない 未来に絶望し己の無力さにつぶされて自殺するか精神をやられるかのどっちかだった」
「そっ そんなこと」
そんな事はないとボクは思いっきり言えなかった。なぜならボク自身がその証明であったからだ。頭が真っ白になりさっきからユリエル様に問い積めてばかりだ。もしこれが一方的なお告げで伝えられたらと思うとゾッとする。
よくある話で未来を予言した予言士はどうなった。結局ペテン師あつかいで結局その時が訪れるだけだったじゃないか。だったら自分一人でなんとかできたか? 世界規模の事柄に人一人の力がなんになるというのだ。
世界が真っ暗になってボクは力が抜けたように綺麗にペタリと床にお尻をつけた。そのボクの肩をそっとなっちゃんが支えてくれる。
「大丈夫よ ゆうちゃん そのためのコレなんだから」
そういうと彼女はボクの目の前に見慣れたモノを取り出した。
「携帯ゲーム機?」
お手頃サイズのゲーム機の真ん中のディスプレイが点灯し、画面にタイトルが浮かび上がる。ボクはそれを見つめながら言葉にする。
「狂愁のロンデガルド ~愛は運命を変える~」
「・・・・・・・」
「―――ッ!? ロンデガルドォォォォォッ?!」
なんとそのゲームの中にこの世界、ロンデガルド王国があったのだ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。