記憶の整理をしてみよう
ブックマーク、ありがとうございます。励みになります。
今回は説明回です
脳は眠っている間に記憶の整理をするとどこかで聞いたことがある。ボクは、彼女の記憶を夢という形で整理していた。
まずは、この世界の知識だ。ここはロンデガルト王国、古来よりこの大陸はたくさんの小国に分かれて戦争を繰り返していた歴史がある。国は亡くなっては生まれを繰り返しまた争う。そんな泥沼の戦乱が1000年と続いたがついに数多の小国を統一、平定してこの大国が500年の平和を維持してきた。しかし、国境付近では未だに周辺の諸王国との争いは耐えない。ロンデガルド王国は強大な軍事力と国力を持つため諸王国が単独で攻めてきても軽く返り討ちにしている。大敗を期した彼らはしばらくは大人しくなるのだが、なぜだか思い出したかのようにまた年単位で攻めてくる。そんな現状だ。
そしてこのロンデガルド王国の5公爵8侯爵の一つが我がルナフィンク侯爵家である。なぜ公侯爵の数が決まっているのかというとこの数はそのままこの国の政治の中枢を担っている数なのである。この先増える事も減る事もない。この席は誰かがのかなくては下のモノは座ることができないため人の揚げ足取りで必死なところもある。
では、我がルナフィンク家の仕事はというと…。すみません。わかりません。彼女の記憶に父親の仕事の記憶がありません。それどころか政治に関しての記憶もありません。多分、女性は政治に関われないようなそんなご時世なんだと思う。
父、ダグラスと母、シルビアの間に生まれた第一子。それがレイチェル・ルナフィンク 御年 15歳になる少女だ。15歳で死んじゃったなんてなんて不憫な子なんだと思ったがボクも18で死んでいるので人のこと言えないなぁ。
文字形態や言語は、さすがに日本語ではないが、ひらがなに似たようなものがあり、漢字 カタカナ 英語といったような様々な言語が混ざっている。これは多分、昔たくさんの小国を統一した名残なのだと思う。
とりあえず、このひらがなのようなモノを覚えておけば最悪なんとか文字は理解できそうだ。
彼女の思い出なのだが、ほぼないに等しい。なぜならボクもそうだけど、完全記憶保持者でもない限りすべての事を覚えている人なんていない。印象に残っていることだけで、しかもそれも大ざっぱにしか覚えていない。
あの時は何か楽しかったねぇ~とか、どこどこへ行ったことあったねぇ~ぐらいの情報である。それは過去に遡れば遡るほど希薄になる。
わかったのは、彼女はあまりにぎやかなところは苦手な、内向的でおっとりとした性格らしい。日中は読書したり刺繍をしたり、庭を散歩したりとまさにザ、お嬢様である。
よかった。ボクと似た感じの性格で。
真逆で、明るく活発で誰にでも分け隔てなく話しかけれる社交的な性格であるとかだったらボクは詰んでいたよ。
それはもう人が変わってしまったかのように思われるに違いない。もしかしたらここはファンタジーだから何か悪いモノにとりつかれたのではないかと勘ぐられて、監禁? 最悪、退治という名の死もありえる。実際、とりついている(?)のは事実なのだから目も当てられない。
無理して彼女になる必要なんてないんじゃないかとなっちゃんあたりなら言うかもしれないけど、死んでしまったとは言え彼女が進むべき人生を間借りしている自分としてはできるだけ彼女として生きていきたい。これはボクの自己満足だ。
とはいったものの、ハードルは高い。何せ女の子だ。どうしたらいいんだろう? 女の子ってどうやって生きているの? 自分がどんな感じで歩いていたとか、どんな感じで食事していたとか、どんなかんじで話していたかなんていちいち覚えている人なんていない。
女性と言えばなっちゃんしか知らないボクとしてはまさに、未知の世界である。まぁ、ほかに誰か相談できる人がいれば、男も女も体つきが違うだけで難しく考えるな、とかいわれるに違いないがあいにく言ってくれる人がいないためボクは堂々巡りの真っ最中である。
とにかく何か見本みたいなモノがないとボクはもう指すら動かす自信がない。藁をも縋る思いで彼女の知識の中を探ってみるといいモノがあった。貴族としての礼儀作法である。いわゆる淑女の嗜みというやつだ。
淑女としての立ち方、振る舞い、座り方などわからないボクにうってつけのアイテムである。こいつをベースに後はボクの知識上でのお嬢様を当てはめてなんとかするしかない。
こういう時、体が覚えてくれていて勝手に動くとかあったらいいのだが、やっぱり体を動かすのはボクであってどうしても動作はそっちに引っ張られてしまう。知識としてあっても実際できるとは限らない。自転車の乗り方を知っているからといって自転車にいきなり乗れるとは限らないということだ。起きたら、こっそり練習しよう。
家族の情報なのだが、母親のシルビアはロザリアを産んでしばらくして亡くなったようだ。死因は聞かされていない。なんとなく、周りの人の噂から母親は体が弱い方であったという話を聞いた記憶があった。多分、出産に体力が付いていけなかったのかもしれない。
残念なことに母親の記憶は一切ない。当時2歳の子供だから仕方がないのかもしれない。しかし、一応情報はある。眉目秀麗、才色兼備。「ロンデガルド王国の宝殊」とまで謳われる程の貴婦人だったらしい。ロザリアが美人なのはこの人の血を受け継いでいるから何だろうなぁ~とか思う。なぜ、記憶がないのに情報だけあるのかというと母親は現王妃ジョアンナ・ルデ・ロンデガルドと大親友だったようだ。これは、ジョアンナ王妃本人の口から聞いた話なので確かである。なんでも二人は王様のお后様候補という縁で仲良くなったらしい。母親は体が弱く、子供が産めるかどうか危ぶむ声が横から入ってきたためそうそうに脱落したそうだ。普通の家であれば問題ないけど王族となるとお世継ぎ問題は無視できないもんね。少し貴族の闇をみた感じで薄ら寒い。
父は寡黙で実直な性格なのだろう。あまり笑っている姿を見たことない。目つきが鋭く、若い頃はこの国の最高位である精霊騎士団に所属していたため体は筋肉でできているほど大きい。子供の頃の彼女はちょっと怖がっていたのを思い出した。
そんな性格な為かほとんど顔を合わせていないようだ。年頃の父親と娘の関係なんてこんなモノだろうとボクは思っている。ここに母親がいればもう少し円滑になるのだろうが今となっては無い物ねだりだ。
家族の他は…。 ステラを始めとする使用人達の顔しか浮かばない。マジでか? いや、自分の人間関係も似たようなモノだったから人のこと言えないな。あまり人付き合いはいい方でもないし、あまり彼女を知っている人が多いと、いつかボロがでてきそうでこれはこれでよかったのかもしれない。
とにかく、今思い出せる情報はこのぐらいのようだ。後は、なんとかして自分がレイチェルでないとばれないように生活しないと…。
それに、せっかく女の子になったんだから、女の子の世界というモノを見てみたいし、やはり別世界。ファンタジーの世界を満喫したいなどとちょっと浮かれている。
ボクはそんな事を思いながら意識を覚醒させるとパチリと瞳を開けた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。