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異世界憑依で運命をかえろ  作者: のこべや
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「お嬢様……」


「お願い ステラ」


 ステラはまだ何か言いたそうな口をつむると肩を落としてボクの準備のためにトボトボと部屋を出ていく。先程からステラとこんなやりとりばかりだ。王妃様が来られる日が近づくにつれてステラが何度もボクに心変わりはないかと問いかけてくるのだ。ボクだってできることなら戦いたくない。ボクは、皆から隠れているので当日はこっそり遅れて出発する。

 これだけお膳立てをしているのだからもしかしたら、ボクが到着する前に決着がついているかもしれないとほのかに期待している自分がいるのは否めない。できれば、そうあって欲しい。

 後は、ユスティーヌの到着だ。携帯などの連絡手段がないから気軽に「今 どこぉ?」なんて聞けないこの状態がもどかしい。そこん所は、頼みますよ神様、仏様、ユリエル様。間に合ってぇぇぇ。

 くわぁ~と大きな口を開けて膝の上のルオレナがあくびをする。近くには床にフラダ男爵領お手製のカードを広げて、神経衰弱をしているリリの姿も見える。

 平和だねぇ~。このまま、こんな日が続けばいいのに……。あっ、いかん。これ、やばいフラグだ。

 ボクの心配をあざ笑うかのように、すぐさま扉をノックする音が聞こえてくる。入ってきたのは、執事のセバスであった。


「どうかしましたか?」


「ザザ侯爵令息様がおみえになります」


 深々とお辞儀する彼から頭の痛くなる言葉が聞こえてきた。やっぱり、来ましたか。あの時は、ユスティーヌの思惑がわからなかったから慌てていたとはいえ変な別れ方しちゃったもんなぁ。

 ボクがあの時、殿下に会わなければ彼は王妃様と一緒にこちらに向かってはこなかった。エルゼン様はボクではなくユスティーヌを護衛していればここにはいなかった。これはもう、ボクが関わったから発生してしまった事なんだろう。会うのイヤだなぁ。

 ボクは、ステラの代わりに控えていたメイドさんに簡単に身支度を整えてもらうと、リリにここに残るよう伝えて、彼が訪れるであろう応接間に向かった。

 程なくして、エルゼン様の到着が告げられ、彼が部屋に入ってきた。


「ごきげんよう エルゼン様」


「あっ あぁ」


 ソファから立ち上がるとにっこりほほえんで迎えるボクの姿に彼は呆気に取られていた。最後に会った時は、何やら意味深な感じだったのに次に会った時は何事もなかったかのように迎えられて、さぞや混乱していることであろう。

 必殺「あの時の事は何もなかった」の術。

 要するにすっとぼけるのだ。彼に何を言われようともしらばっくれてやる。これ以上、重要人物を危険にさらすのはごめんだ。


「どうかなさいましたか エルゼン様?」


 ボクは彼に席を勧めながらシレッと問う。混乱している間に畳みかけてお帰り願うつもりだ。


「あっ いや なんだ 元気そうでその 最後に会った時何か深刻そうな表情をしていたから……」


 案の定、術中にハマった彼はしどろもどろになっている。チャンスだ。


「ご心配させてしまいましたか フフフッ お恥ずかしながら体力もないのにはしゃいでしまって疲れてしまっていたのです これ以上エルゼン様のご迷惑にならないようにと慌ててしまいました」


 どうだッ この完璧の言い訳。この完璧の笑顔。さぁ、帰れ。

 勝利を確信してニコニコ顔のボクとは正反対に彼の表情が曇っていった。一つ、瞳を閉じて熟考すると彼はボクの瞳を見据える。


「……うそだな」


 彼のこぼした言葉にヒクリとボクの笑顔がひきつるのがわかる。


「アレはそんな感じじゃなかった おまえはまた何を抱えこんでいる?」


 ただでさえ鋭い眼差しを細めて彼はボクに問い詰めてきた。なんでそこで断言できるんだよォ。アレか。ヒーローにありがちなよくわからん察する力か? 何でこんな時に発動させてるんだよ。ユスティーヌにやれよ、バカ。


「何のことでしょうか? 考えすぎではございませんか?」


 にへら~とボクは、何とか笑顔を保つと彼の言葉を否定する。それでも彼の雰囲気は崩れない。


「最近 白い獣に乗って教会に飛び込んだそうだな 無関係とは言わせないぞ おまえに何が起こっているんだっ」


 するどい。その気もないだろうが彼からの無言の圧力が怖いよぉ。ボク、殺されるの?

 しばらく背中に冷や汗をかきながら静寂の後、彼の視線が床へと向けられた。


「……それほどオレは頼りにならないか」


 あぁ、それ言っちゃいますか。はいそうですとかいったら、何かありますといってるものだし、違いますと言えば、ならなぜの泥沼論争になりかねない。

 いや、違うな。彼にはもうボクに何かあると確信があるのだろう。ならばこの問答は別の所にあるのか。


「オレは父上のような騎士になる それは誇りであり使命であると思っていた 騎士は力だ 剣は強さだ 力なき騎士に何ができる オレはそう思って脇目もふらず剣の修行に没頭してきた」


 彼は、ボクを見ずに下を向いたまま淡々と語り始める。ボクはただ黙って彼の独白に耳を傾けるしかなかった。


「なのに何一つ成し遂げられなかった おまえを見ていたら強さとは何だと思ってしまう オレはおまえの中に強さを感じた ただそれが何なのかわからない なぁ 教えてくれ おまえの強さとは何なんだ?」


 一連の出来事で彼の中で何かが変わったのかもしれない。迷走しているとはこのことなんだろうなぁとは思うけど、そんな事を女の子に、しかもご令嬢に聞いても答えられるはずがないじゃないか。まぁ、ボクは中身男の子だからよくわかるけど……。


「エルゼン様 あなたは強くなって何をなされるのですか?」


 ボクの問いに彼は頭をゆっくり上げる。


「騎士とは強さだ だから騎士となる」


「騎士となって何をなさるのですか?」


「騎士になって…… 騎士に……」


 彼の瞳があきらかに揺れる。多分彼は父親が騎士団長だから、その後を追うようにただただ、剣の強さを求めたのだろう。その結果が、コレだ。

「騎士が強い事に異論はありません ただ 強いだけではダメなのです 私は 騎士とは信念だと思っております」


「シンネン?」


「自分が正しいと信じた道を堅固として歩き続ける思いこそが騎士にあるべき姿だと思います あなたにはありますか?」


「信念…… おまえにはあるのか?」


「信念というほどものものはありません ただ 私にはやらなければならないことがある ただ それだけです……」


「やらなければならないこと…… 信念……」


 彼はまた視線を床に向けるとブツブツと口にする。こういうのってよくある騎士様のお話だよねぇ~。何のために強くなるのか。くぅ、男なら燃える展開だぜ。


「あの侍女や領兵達には信念があるんだな おまえを護るとそんな信念が……あぁ そうか そういう事なんだな……」


 なぜか彼は一人で納得すると、ソファから立ち上がり、ボクの側まで寄ると綺麗に片膝をついた。頭を恭しく下げ、彼の右手は心臓を握るかのように添えられる。いや、この態勢。まずくない?

 焦っているボクをよそに彼の真摯な目を向けら、告げられた。


「今だけでいい オレに…… おまえをオレの信念にさせてくれ」


 あぁ、やっぱりこうなったか……。こうなっちゃうんだね。まだボクはヒロイン枠から出てないのか? ヒロイン枠こえぇなぁ。でも、素直にかっこいいと思うよ。男なら一度でも良いから言ってみたいよね。でもボクがいう言葉は……。


「私を護ってくれますか 騎士様」


「御意ッ!」


 力強い彼の言葉がもういっそすがすがしく思うよ。なんでボクは、こんなヒロインみたいな台詞を吐いているんだよぉ、トホホ……。

 メイドさん達そんな呆けた視線を送らないでください。

 あぁもぉ、殿下に続いて彼まで参戦です。もう事態は最悪の方向に向きっぱなしですよユリエル様ぁ。それもこれもユスティーヌがヒロイン枠を蹴るからいけないんだ。頼むからさっさと来てくれよぉ ヒロイ~~ン。



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