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異世界憑依で運命をかえろ  作者: のこべや
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 やってしまった。

 慌てていたとはいえ、ものすごくまずいことをやってしまったもんだ。破壊された教会のドアがいやでもジリジリとボクに罪悪感を膨らませる。父様の書斎の窓も粉々にしたっけ。あぁぁ、もうちょっとやりようもあっただろうに、ボクのバカ……。

 それでもなんとかユリエル様には伝えきった。なんとユスティーヌは男爵領から出発の手はずを整えていたらしい。さすがヒロイン。本当に何か持っているよな。それでも、ギリギリ間に合うかどうかである。胃が痛い。

 ボクはルオレナに乗りながら父様達と共にトボトボと屋敷の帰路に立っていた。誰も何も話さないこの空間が無言の圧力となってボクを襲ってくる。これからのことを考えると更に胃が痛くなってきた。

 玄関に到着すると、ロザリアが走り寄ってくるとそのままボクの胸に抱きついてきた。後ろに倒れそうな所を大きなルオレナの身体が支えてくれたことで事なきを得た。お姉ちゃんはひ弱だからもうちょっと加減してくれよ、妹よ。

 腰に回した腕に力が入っているので梃子とも動かない。そんな彼女は何も言わなかった。確かに心配させたボクが悪いんだけどもうちょっと力を緩めてほしい。だんだんシマってきてるよ。

 ギュッとスカートが引っ張られる感じがして見るとリリが握ってこちらを見上げていた。ボクはそんな彼女の頭を撫でてあげる。目を細めるリリから手を離すとボクは胸の中に顔を埋めるロザリアの肩に手をやり、ゆっくり彼女を離した。結構、抵抗するロザリアを引き離すとボクは、側にいる父様に向き直った。


「お父様 お話があります」


 どうせ、これから聞かれるのだからボクは腹をくくった。父様は、一つ頷いてボクらをリビングに連れていくと、大きなソファに向かい合わせに座った。

 部屋の壁には、ステラとウォルフ。ボクの右隣にロザリア。左隣にはリリが座っていた。

 ボクは、ステラに話したように父様にも、これからこちらに来る陛下達に起きる未来の話を語った。

 案の定、父様の眉間には深い皺が刻まれた。荒唐無稽すぎて信じられないといった感じだ。たとえ魔物に襲われたとしても白の騎士団が遅れを取るような魔物の存在など魔物討伐のスペシャリストの黒の騎士団の団長である父様には想像もつかないという。ボクもユスティーヌからの又聞きなのでいまいち実感がないので答えようがなかった。


「それならば なぜ教会になど慌てて走る必要があるんだ?」


 確かに、この話では強引に教会に走っていった理由にはならない。


「申し訳ありませんお父様 予想が外れてしまい 急ぎ精霊神様を通じて使命をもった方にお伝えしなくてはならなかったので取り乱してしまいました」


 うまい嘘がみつからなかったのでボクはそのまま話す。しかし、ユスティーヌの名は伏せておいた。どこかで知られて彼女の行動に何らかの支障が出ては申し訳がないからだ。それでも、衝撃的だったのか、ソファから立ち上がる父様と横で息をのむロザリアの姿が見えた。


「おまえは 精霊神様と会話できるのか…… そんな…… おまえはこれほどまでの使命を……」


 最後の方の声が消え去りそうでよく聞こえなかったが、確かめる前に力なく父様はソファに座り込んだ。


「お姉様はッ お姉様は どこにも行きませんわよねッ?!」


 ロザリアがすがるようにボクの腕をとる。正直、彼らが何に危機感を感じているのかボクにはわからなかった。場につられたのか、理解できていないリリが一点だけ問いかけてくる。


「ママはどこかにいくの?」


「私はどこにもいきませんよ」


 リリの頭をそっと撫でながら答えるボクの言葉にロザリアは顔を綻ばせた。そんなボクらの姿を柔らかな目で眺めていた父様は、壁に控えるウォルフの名を呼んだ。呼ばれた彼が父様の側に寄る。


「陛下がお越しになるまでに領兵を可能な限り集められるか?」


「陛下の警護の名目がありますので結構慌ただしく兵が集まっていても領民が不安になる事はないでしょう ですが……」


「領外となるとそうはいってられないか……」


「大量の兵が領の境に集中していては周りの領主達も何事かと不振がられます ましてや王家直轄領に大量の領兵が入り込むのは王家への反逆と受け取られるかもしれません」


 緊急事態だというのに面倒くさいものだ。


「では 私をお使いください」


「それはダメだァッ!」


 両隣の二人の肩がビクリと跳ねるぐらい父様は声を荒げた。ここまで否定されるとは思わなかった。この様子では、一緒に戦うなど絶対許してもらえそうもないな。父様は家族思いだから黙っていた方がいい。

 突然声を張り上げてしまった事を謝る父様に、ボクの考えた案を告げる。

 まず、領内に帰ってくる時に魔物に襲われたことを利用する。場所は王家直轄領ではあったが、領境を警戒するのは別に間違いではないはずだ。警邏のために兵が動いていても問題ない。ルナフィンク領は魔物が現れない場所として有名だが、他領から入ってこれないわけではない。だからこそ近くで現れたのなら常時魔物がいる他の領に比べて過剰に反応するのだと、言い訳にはなるだろう。

 その上に、レイチェルが王妃様を迎えにいくということにする。彼女はいろいろあったことは領民でも知ることだ。多少、行き過ぎの護衛の兵が付いていてもおかしくはないだろう。もちろん、ボクが乗っているであろう馬車は空である。もし、魔物の襲撃であちらの馬車が壊れた時の代わりにすれば一石二鳥である。先のボクの使えの言葉の意味に父様も納得してくれた。

 後、父様には帰ってきたのに悪いけどそのまま王都に戻って貰う。ボクが襲われた魔物の調査とリリの育ったあの村の警護の名目で黒の騎士団の部隊を派遣してもらう為だ。そして、父様もついでだからと陛下達と一緒に帰ってくればよい。

 これでかなりの戦力が期待できる。ボクの立案に二つ返事で父様は了承した。誰から見てもこの案なら魔物に襲われても安心だし、何よりボクが出てきていないのだがら安心したのだろう。ただ一人、ステラだけがジッとボクを見つめていた。ボクが彼らに黙って戦場に赴くことを彼女はわかっているのだ。


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