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異世界憑依で運命をかえろ  作者: のこべや
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「えっ マジ?」


「マジ マジ」


 なぜか自然と二人して顔をつき合わせてひそひそ話になってしまった。こういう話をするとこうなっしまうのはなんでなんだろうね。


「もうすぐ暑くなるでしょ それで避暑地に王妃様が向かわれるからそれに王様もついてくるんだけど、その道中でね」


 暑くなるというのは夏がくるのだ。とはいっても生前日本の季節とはちょっと違う。この国は四季というよりは、だんだん暑くなってだんだん寒くなる感じの気候だ。王都より南に行くと更に暑くなり、王都より北に行くと雪が降るほど寒くなる。そんな感じの曖昧な気候だ。

 避暑地というのは、言わずもがな、我がルナフィンク領である。かの領は王都より北に位置するため比較的に涼しいのだ。もちろん、王族専用の別荘も建っている。王妃様も忙しかったのであろう、ここ数年は使われていなかったとセバスに聞いていた事を思い出した。

 そんな王家ご一行が魔物に襲われる。まぁ、ない話ではないけど、この国で最強の「白の騎士団」がついているのに不覚をとるだろうか。


「それなんだけど ゲームは学園から始まるから事後だったのよね 詳しいことはわからないけど私は相手が並の魔物ではなかったたんだと思う」

「並の魔物とか区別があるのかぁ 知らなかった」


「いや 普通は似たり寄ったりよ たぶん彼らが遭遇したのは『災厄の魔物』が生み出した分離体かもね」


 ラスボス関係に遭遇かぁ。それは、運がない。魔王を倒すために旅に出た勇者がいきなり魔王配下の将軍に遭遇したようなものだ。そいつは適わんだろ。どんなクソゲー仕様だよ。

 ボクがうんうん唸っていると突然、ユスティーヌがパンと軽く両手の平を打って目を輝かせる。


「そうだッ 今気づいんたんだけど このフラグ 折りにいかない?」


「はぁ? 王様達の死亡フラグを折る?」


「そうそう 元はその所為で王位が空席になり 王子が王を継ぐことになるんだけどまだ成人していなかったからその間王妃様が代理でつくことになるんだよねぇ でも 王妃様も重傷を負っていたからすぐには動けなかったのよ その間に文官共が好き勝手やっちゃって それと対抗するはずの軍部が団長不在で力をなくしちゃったもんだから宰相の独断場で もうしっちゃかめっちゃになるのよ」


 聞いているだけで頭が痛くなる事だ。この国の成人は学園を卒業した18歳で一人前となるのである。殿下が王位を継ぐ間に地盤を固められたわけだ。たぶんその所為でちょっとした災厄の兆しを見逃していたんだろうなぁ。文官って机の前にしかいないものね。内政が混乱しているところに魔物の大量発生になればそりゃ国も滅ぶよ。


「王様や騎士団長が生きていればわざわざがんばって王子達とのつながりなんてつくらなくてもよくね? 一人じゃぶっちゃけ無理だけど あんたと一緒なら……」


 鼻息荒くナイスアイデアと得意げになっている彼女には悪いけど。


「あっ ごめん それ無理」


「なんでよォォォッ!」


 ドスの聞いた声を張り上げ、目元をつり上げた彼女はボクの胸ぐらを…、ではなくて胸を鷲掴みにしてくる。なぜ、そうなる。ゾワゾワするからやめてェェェ。


「戦えよ こらッ 転移魔法なんてものが使えるならあんたもチートなんだろがッ」


「ごめんなさい 転移はボクの力じゃないんだ たしかにマナ保有量はチートにしてもらったけど 運動能力が絶望的なんだよぉッ」


 彼女の無慈悲な手を未だに振り払えないのはそういうことなのだ。別に好きで胸を鷲掴みにされているわけではない。彼女がちょっと本気になって出した手をさっきから外そうと腕に力を入れているのに全然びくともしない。そんなボクの非力でプルプルしている腕と真っ赤になっている顔を彼女は交互に見やる。


「嘘でしょ もしかしてこれで力入れてんの? 私でも腕相撲したら勝てそうなんですけど」


「うぅぅ いっそ殺して」


 さめざめとむせび泣きながら抵抗をあきらめて胸を揉まれ続けるボクの姿にハッと我に返ってくれたユスティーヌは手を離すとバツが悪そうにその手を頭の後ろに持っていく。


「あぁ なんかごめん でも くせになりそうな柔らかさだったよ」


「うっさいッ 自分の揉んでろッ」


 もういや…。帰りたい。


「そんなんでよく生き残れたね」


「ボクの側にはチートくさい侍女がいたからね それになっちゃんがいうにはボクは『固定砲台』なんだって」


「なっちゃん? オレンジジュース?」


「ちがう」


 ボク達しかわからないボケはいいよ。


「何? まだ他にも転生者がいるっぽい?」


「なっちゃんは違うよ」


「あっ そぉ」


 彼女は、さばさばした性格なのか、管理者ですとか関係を説明するのが面倒臭そうだったので、それ以上追求してこなかったのはありがたい。


「固定砲台だったらやっぱり防御かな いや それよりは移動だろう 何か機動力があがりそうな乗り物はないの?」


 そう言われても馬にも乗れないし、何かあったかなぁ。


「実は精霊獣と契約しているんだけど よくある話でその子が大きくなって背に乗れるとかないかな?」


「おっ? 精霊獣がいるの そいつは上乗 ちなみに私ももってるよ精霊獣」


「へぇ~ どんな子?」


「あの子」


 彼女が窓際の椅子の背を指さすとそこには羽毛が黄金色で羽の先と尾羽が虹色の鳥が黙ってこちらを伺っていた。気づかなかった。全然動かないから置物かと思ってたよ。


「名前はルクレンド 略してルーくん 元々はゲームのシステムナビゲーターのマスコットキャラよ この世界では一応 精霊獣ということになってるわ」


「へぇ~ よろしく ルーくん」


 ボクは、指先で彼の頭をなでてあげる。大きな瞳を細めて喜んでいるようだ。


「ホォ」


 オウムかと思ったら鳴き声はフクロウだった。ルオレナといい、想像を裏切るなぁ。

 カチカチと足をフミフミしたと思ったら、一羽ばたきジャンプでボクの肩に器用にとまったルーくんはボクの頬に自分の頭をグリグリと擦り付けてきた。うんうん、可愛いのォ~。


「ちょっと 何 人の精霊獣を手懐けてるのよ ルーくんもヘラヘラ媚び売んなッ」


 怒り肩で近づいてきた彼女は肩に乗っていたルーくんを両手で掴みあげるとそのままベットに投げ飛ばした。慣れたものなのかそのままベットに叩きつけられるわけではなく、投げ飛ばされた力をそのまま利用してスイーと滑空すると天蓋の上に着地した。

 おみごと。ボクは感嘆な声を上げながら拍手を送る。その行為に心底不満なのか彼女にジロリとにらまれてしまった。おぉ、怖い、怖い。


「ボクってこういうのに好かれやすいタイプなんだ」


 実際はなっちゃんの加護の所為なんだけどね。


「まぁ いいわ それよりも正確な日時を知らないのがネックなのよねぇ あんた 王妃様のスケジュールとか知らない?」


「知るわけないよ でも 避暑地ということはルナフィンク領に来ることになるんだから絶対事前に知らせがこちらに来るよ」


「おぉぉ そうか あんた ルナフィンクだったもんね すっげぇ~ 偶然 これはもう フラグをへし折りにいかないとね」


 たぶん、おそらく、いや確実に王妃様はレイチェル達に会いに行ったんだろうな。その途中でと思うと何だかやりきれない。


「まだ 問題はあるよ」


「何よ?」


「日時を知ってもあんたに速攻で伝える手段がない 手紙という方法があるけどいつ届くかわからないし 下手したら何かあって届かないこともありえるかもしれない 知ってからこっちにくるのにどのくらいかかるの?」


「あぁぁ ルナフィンク領とここでは距離が離れすぎてるもんね 手紙に一週間 そっちに行くのにまた一週間 準備もあるし あのタヌキ親父を説得するのにぃ~ ……だめだ ぜってぇ 間に合わねぇ」


「こういう時は通信機みたいなアイテムとか作ってないの?」


「法具の事? ムリムリ この世界はそれに関しては全然発展してないんだもの」


 ヒロインパワーでも法具に関しては作れていなかったのか。


「そっちこそ さっきの転移で知らせに来て そのまま連れて行ってくれればいいじゃない」


「だからアレはボクの力じゃないんだ アレはほとんど奥の手みたいなものだし ボクもいつでも彼女と連絡が取れる訳じゃないんだ」


「チッ つかえない」


 ちょっとイラッとくる。舌打ちぐらい隠そうよ。

 それよりも連絡手段。連絡手段。電話のように遠くにいる人間にパッと繋がって話ができる方法。


「そうだ ユリエル様だッ」


 ひらめいてしまった。教会にいけばユリエル様と繋がって会話ができる。これはたぶんヒロインであるユスティーヌもできるはずだ。だったらユリエル様に伝えてもらえばいい。

 ナイス案とばかり説明するとあきらかにイヤそうな顔が返ってきた。


「えぇぇ~~~~ いやよ あんたはその一回でいいけど私はその間 毎日意味もなくあの天使の所に赴くわけぇ めんどくせぇ」


「めんどくさいとか言うなッ ボクだって毎日ユリエル様の所に赴くから行こうよ」


 ユリエル様だってちょっぴり寂しいのにちがいない。彼女と約束したしお話相手になるぐらいなんでもないじゃないか。だいたい、女の子っておしゃべり大好きな生き物じゃなかったのか。

 そんな事を熱く語るボクを訝しげに見ながら彼女は渋々了承する。


「わかったわよ せめて三日に一回でいいでしょ」


「そこは毎日行こうよ」


「わかったよ 一週間に一回ね」


「増えてどうするッ」


 こいつはダメだ。ここで言い合っても絶対3日に一回になるだろう。さすがに事が事だから全然行かないということはないと思いたい。

 ボクが疑わしく半目でにらんでいると、彼女はヒラヒラとうっとうしそうに手を振った。


「大丈夫だって 私の勘は当たるのよ その日が近づいたら何となくわかるから問題ない ヒロイン補正を信じなさい」


 おい、さぼる気満々じゃねぇか。

 ボクは天蓋の上でこちらをジッと見つめているルーくんを見上げる。


「頼むよ ルーくん」


「ホォ」


 羽を往々しく広げて頼もしい一鳴きが返ってきた。彼女のことは彼に任せよう。


「何か腹立つわね」


 不満げにつぶやく彼女は放っておく。


「でも そっちに行く理由がないのよねぇ」


 確かにルナフィンク領の別荘は貴族なら誰でもあるわけではない。王家はもちろん公侯爵ぐらいまでしかないので男爵である彼女の別荘はない。ボクからも彼女を呼ぶ理由がない。実質的にはまだ一回しか会っていない仲なのだ。何か彼女がこちらに来る理由はないだろうか。


「そういえば 再三こちらに問い合わせていた案件なんだけど…… それで今度温泉を掘ろうと……」


「ぜってぇ いくッ! 何が何でもいくッ!」


 ふと思ったことを口にしたボクの台詞に被り気味に食いついてきた。そのやる気をさっき見せて欲しかった。


「よし その辺の計画を打ち合わせするために天使の所へいくから ちゃんと報告してきてよね」


 目的が変わっている。大丈夫かこのヒロイン。ユリエル様のうんざり顔が見に浮かんできそうだ。


『ゆうちゃん そろそろ……』


 鬱々しているボクの頭の中になっちゃんの声が響いてくる。もう、そんなに時間をかけていたのか。とにかく、ヒロインの真意を確かめられたので今回訪れた目的は果たせたはずだ。その辺に関しても明日教会にいってユリエル様に報告しよう。


「それじゃ 結構長居したし ボクはこれで」


「えぇ 温泉頼んだわよ」


「はいはい」


 呆れて無愛想に答えるボクの姿は、光に呑み込まれるように彼女の前から掻き消えた。



 一瞬の世界の暗転の後に見慣れた部屋の風景と見慣れた幼なじみの顔が目に入った。どうやら自分の部屋に戻ってきたようだ。


「あっ!? 椅子を置いて来ちゃった」


「最初に心配する事がそれなの? さすがゆうちゃんね」


 呆れたとため息をこぼしながら彼女は足下にいるルオレナを抱え上げた。


「そういえば なっちゃんは何で出てこなかったの?」


 強引に連れて行った割にはボク一人、置いていくんだもん。理不尽だよ。彼女はボクの不満を当然でしょうがというように鼻で笑う。


「決まってるでしょ ああいう女を見ているとその軽いおつむを握り潰したくなるからよ」


 あぁ、昔からなっちゃんはあの手の女性とは馬が合わなかったよね。確かに会わせられないや。でも、会話は聞いていたのだろう。彼女から可視化できるようなイライラオーラがにじみ出ていたからだ。それよりもとばっちりでルオレナの首がしまっているから離してあげて。


「それよりもいいの ゆうちゃん」


 彼女の問いかけの意味が分からずボクは首を傾げた。


「この世界のために命を張るという事よ そのフラグをたたき折るには相当の激戦になる事は覚悟して置かないとダメだわ」


 それを言われると正直怖いし、責任が重い。


「よしんば フラグを叩き折れたとしてもその先の未来は確実に変わるわよ ヒロインも知らない未来の流れになることは免れないわね それでもやるの?」


 彼女の静かな問いかけにボクは息をのむ。確かに未来は変わる。しかしラスボスを倒したわけではないので知っている未来の流れを無かったことにするのはデメリットかもしれない。


「それでも ボクは王妃様に怪我をしてほしくない」


 ボクははっきりと彼女に言い切った。レイチェル達を親身になってくれている優しい王妃様。今でも母様を友と思っていてくれる王妃様。そんな人が不幸になって欲しくない。

 そんなボクの思いになっちゃんはやっぱりため息をこぼす。


「私は何もできないけど やるのなら 利用できるものは全部使いなさい」


「なっちゃん?」


「ルオレナを使いなさい ステラも使いなさい そして ヴォルフ達 領兵隊も使いなさい 父親の率いる黒の騎士団も利用しなさい できるものならロザリアも使いなさい」


「なっちゃん……」


 彼女の真摯な瞳がボクを射抜く。彼女の言いたいことはわかる。それでもボクはためらってしまう。自分でもわからないあやふやな未来にどう言えばいいのだ。下手をしたらボクは死んでくれと言っているのかもしれない。いうのもおこがましいが為政者が戦場に兵士を送る気持ちというのはこんなものなのだろうか。

 「ナ~」となっちゃんに抱え上げられていたルオレナが一鳴きしたので自然と彼に視線が注がれる。


「力を貸してくれるの ルオレナ?」


 ボクの問いに彼はもう一度力強く鳴く。


「ありがとう」


 ボクは感慨に瞼を閉じた。あぁ、素直に力を貸してと言えばいいのだ。

 まだ何も始まっていない。これからだ。これが未来を変える一歩なのだとボクは心の中で噛みしめていた。


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