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異世界憑依で運命をかえろ  作者: のこべや
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 日もすっかり落ちた寝室のベットの上では毛玉のように丸くなっているルオレナと一緒に静かな寝息をたてているリリの姿が見える。眠れないボクは、窓辺におかれていた椅子に座りながらユリエル様との会話を思い出してはため息をついていた。

 ユスティーヌ様はいったい何を考えているのだろう。まさかヒロイン放棄とか言わないよね。そんな事になったらこの国はどうなってしまうのだろう。そんな事ばかり考えているとまた、ため息がでてしまう。


「そんなにため息ばかりついていると幸せが逃げていくわよ」


 座っていたボクの後ろから首に腕が回ってくると耳元に息を吹きかけられた。


「ひゃっ なっ なっちゃんッ」


 首だけそちらに回して抗議するとそこには澄まし顔のなっちゃんの顔があった。いつも突然のご登場に肝を冷やすよ。


「さっ いくわよ」


「えっ? どこへ?」


 突然現れて、当然のように促す彼女に困惑してしまう。なっちゃんは昔からこういう所あるよね。説明、プリーズ。


「決まっているでしょ ゆうちゃんにふざけた事を押しつけようとしている女の所へよ」


「それってユスティーヌ様のところだよね そんな勝手な事して大丈夫? ユリエル様が困らない?」


「知らないわよ それともこのままズルズル先延ばしにして手遅れになりたいの」


「それはいやです ぜひいこう すぐいこう」


 二つ返事でボクは了承する。こういう時のなっちゃんには逆らわぬべからずであると経験が物語っていた。


「でも あんまり勝手に動き回ると世界に見つかるんじゃ」


「私はゆうちゃんを送り迎えするだけよ 後は何とかしなさい」


 そうじゃないかと思ってたよ。


「それじゃ いくわよ」


「まっ 待って まだ心の準備がッ」


 問答無用にボクらを包むように光の球体が生まれると飲み込むように収束していく。その後にはボクが座っていた椅子ごとその場には何もなくなった。


 いや、まぁ。何と言いますか。心構えもなしに放り投げられるとは思ってもみなかったボクの目の前には目を見開いて固まっているユスティーヌ様がいた。

 やっほぉ~、久しぶりィ~、などと軽い言葉などかけられそうにない状況だ。そりゃびっくりするよね。いきなり自分の部屋に椅子に座った人が現れたらそうなるよね。

 ボクは彼女から視線をはずすと辺りを見渡しながら彼女以外の人間がいないか確認してみる。ボクと同じような天蓋つきのベットが見えるからどうやらここは寝室のようだ。お陰で彼女以外の人は見あたらない。ホッと一息つくボクの姿にビクリと肩を弾ませた彼女は、睨みつけるように再起動を果たした。


「あッ! あんた確か ロザリアのお姉さんのッ! それよりどうやって入ったのよッ! この世界に転移魔法なんてなかったはずだ」


 あからさまに警戒されている。テンパってこの世界の人間では決して言わない「この世界」とか「魔法」とか言っているよ。そりゃそうだよねぇ~。いきなり寝室に現われればそうなるよね。


「落ち着いて下さい ユスティーヌ様 不躾な突然の訪問 申し訳ありませんがこちらも事情がありまして あなたとお話がしたかったのです」


 ボクは慌てて椅子から立ち上がると弁解を始めた。ここで人を呼ばれてはたまらない。


「はなし? 話って何?」


 顔見知りということで少しは落ち着いてきたのか両手を前後につきだしていた構えが解かれた。それは柔道ですか? それとも空手ですか? ボクは投げ飛ばされるところでしたか? 蹴り飛ばされるところでしたか? さすがはヒロイン。戦闘能力もありそうです。

 それにしても改めて彼女の姿を足先から頭の先まで見直してみる。可愛らしい瞳がちょっとつり上がってはいたが概ね美少女の彼女だ。しかし、着ているモノが女性の服に疎いボクでも知っているモノだった。そう、スウェットパンツとトレーナーといういで立ちである。いいなぁ、ボクも欲しい。


「何? 変な格好とか思っているんでしょ?」


「あっ いえ 動きやすそうでうらやましいなぁ~と 私も欲しいと思っています」


「はぁぁ? ご令嬢がこんな格好するわけないでしょ バカじゃないの」


 あなたもご令嬢だと思うんだけど。


「そんな事より 何の用」


 もう動じなくなっているところがさすがヒロイン。

 それよりも話。話かぁ~。いきなりつれてこられたから何も考えていなかったよ。聞きたいことは一つだけどなんて言えばいいんだろう。困った。遠回しに聞くか。えええぃ、めんどくさい。男は度胸。いや、女か…。もう全てをなげうったボクはゆっくりと口を開いた。


「ユスティーヌ様 単刀直入にお聞きします」


「何?」


「なぜ ヒロインの立場を私に押しつけたのですか?」


 ボクのぶっちゃけた言葉に彼女の表情が凍った。パクパクとただ開閉していた口から声が漏れてくる。


「あっ あんた何者ッ?! 私がヒロインだと知っているって事はまさかあんたも転生者ッ?!」


 うん、その考えにすぐに思い当たるよね。だが、残念。


「転生者とはちょっと違いますがあなたと同じというのは概ね当たっています」


「私と同じって じゃぁ 日本人 マジでッ?! おぉぉ マジかァ」


 彼女の態度が先ほどの警戒が嘘のようにめっちゃうれしそうなものにかわった。


「なぁんだ それならそうと早く言ってよォ 私以外にもいたなんて天使様も人が悪い」


 そうか、そうかとなんだか一人で納得している。何このイヤな予感。


「それなら安心よね それじゃ 後はよろしくね」


 ものすごい良い笑顔で両肩をバシバシ叩かれた。ちょっと痛い。いや、そんな事より今彼女が不穏なことを口走ったぞ。


「ちょっと待って下さい 後はよろしくとはどういうことですか?」


「えっ? 私に代わってヒロインをやってねってことだけど」


 おいおい、マジかよ。何、わからないみたいに首を傾げているの。めっちゃ可愛いけど、こいつは譲れない。


「じょっ 冗談じゃありません ヒロインはあなたでしょ」


「えぇぇ いいじゃないッ 私なんかよりあんたの方がすっとヒロインよ うんうん まぁ 可愛いというより綺麗系だけど こう なんだろう 儚げで弱々しいのにスラッとした佇まいが心の強さを醸し出していて 守りたい 共に歩みたいって高貴な感じがする いいねぇ いいんじゃない」


 親指と人差し指をのばして両手で四角いフレームを作るとボクの姿を写真に撮るようにそこに納めながら彼女はうれしそうに語る。そりゃまぁ、所作は徹底的に覚えましたからね。そうじゃないと女の子なんて無理だったからね。


「それに殿下とのアレ 何なのよあの心通わせているような、つうかあの仲は お姫様だっこまでされて あの無感情仮面キャラのアーヴィンスに本当の笑顔むけられているなんて キャァァ 良いご褒美をありがとうございます 御馳走様でした」


「お粗末様でした ってぇ 見ていたのですか? それより殿下ってそう言うキャラだったのですか?」


「あれ? 知らなかったの?」


「私は この世界のゲームをやっていません だからヒロインなんて無理です」


「えっ? マジで? じゃぁ なんでこっちにいるのよ」


「えぇと 実は別件でこちらの世界にいるというか何というか」


 ボクは、かいつまんで彼女に新たなバットエンドが生まれたこととそのフラグをへし折るために来たことをつげた。


「マジかぁ~ ロザリアがそんな事になるなんて思ってもみなかったなぁ 確かにあの子が敵に回ったらつらいかも」


「あの 一つ聞きたいのですが ロザリアはあなたにとってどんな立ち位置なのでしょうか?」


 これは前々から気になっていたのでちょうど良い機会だから聞いてみた。


「ん? ロザリアは友達ポジだったかなぁ あのキャラ マナがヒロインに次いで高いから結構戦力として重宝していたのよ」


 その言葉にほっとした。うちの妹はヒロインの役に立つ位置にいて本当によかった。


「あの病的シスコンのロザリアのお姉さんねぇ~ ……なっとく」


 品定めするようにボクを上から下まで眺めるユスティーヌ様の視線になぜか悪寒が走る。


「まぁ ゲームのことなら私が教えてあげるから王子達とのキャッキャ ウフフはよろしくね」


「無理ですッ!」


「大丈夫 大丈夫 王子達なら絶対あんたを気に入るから」


「気に入るとかそう言う問題じゃないんですッ!」


「私に遠慮することないよ アーヴィンス イケメンだよ 他にもエルゼンとかイケメンがいるし まぁ ちょっと性格に難ありだから私はノーサンキューなんだけどね」


「ちょっと今 気になることを言いましたけど無理なモノは無理なんですッ!」


 ボクが頑なに断りをいれるので彼女の表情がだんだんイラついてきているのが目に見えてきた。


「もう 何が無理なのよ イケメンとの恋愛だよ うれしいでしょ?」


「うれしくありません」


 こいつは自分のこと棚に上げてぇ。ものすごくイケメン押してくるけど無理なモノは無理なんだ。だって、だってボクは……。


「だっ だって」


「だって?」


 ええいッ! ままよッ!!


「だってボクは男だからァッ 男と恋愛なんて無理ったら無理ィッ!」


「はぁぁぁあああッ?!」


 ボクの告白の声と彼女の間の抜けた声が部屋に響く。

 二人して、しばし一時停止していたかと思うと、無造作に彼女の両腕があがってムンズとボクの胸を鷲掴みにしてきた。


「なっ なにをしゅるかぁぁぁッ!」


 なんだか背筋がゾクリとしたので慌てて身体をひねって彼女の魔の手から胸を守る。


「女じゃないのよォッ! こんな男 いてたまるかァッ!」


「たっ 確かに外見は女だけど 中身は男なんだッ!」


 ボクは胸を両手で隠しながら詰め寄る彼女に言い放った。また動きが止まった彼女は、思案気にうつむくとボソリとつぶやく。


「あぁ そっち系か…… ……精神的BL ……ありかも」


「ないよォッ!!」


 彼女の不吉な物言いにツッコミを入れるが、彼女のお構いなしの瞳がまたボクの身体を上から下まで値目あげる。


「男ねぇ~ 確かにおかしいと思ったのよ こんな仕草も性格も男の理想をこれでもかって詰め込んだ女なんていてたまるかよと思ったけど へぇ~ 男だったかぁ~ なるほどぉ~」


 彼女の不適な笑みがちょっと怖い。しょうがないじゃないか、女の子なんて知らないんだから、男が考える女の子像になってしまうのは自然の摂理だ。


「だっ だから 殿下達と恋愛なんてボクには無理だから」


 腰が引けているボクの肩を彼女は逃げられないように勢いよく掴みあげてくる。


「大丈夫よ こういうのってその内 心が身体に引っ張られて女の子になるから問題ない」


「イヤだよ そんなのッ!」


 たとえ将来そうであったとしても今ではない。そんなの了承できるかッ。


「たくッ 煮え切らないなぁッ 男なら覚悟をきめろッ!」


「あんたがやれェッ!」


「やなこったッ 私は見ている方がいいのよッ 自分がその場に立つなんてありえねぇよッ なにが楽しくてそんな波瀾万丈な生活したいんだよ 私は平穏がいいんだッ」


「それは こっちのせりふだッ」


 やるやらないの不毛な戦いをボク達は数分間繰り返した。結論が出ないまま、延々繰り返されるかと思ったが突然、ユスティーヌはニヤリと口角をあげる。


「ふふんッ どんなに否定したってあんたはもうヒロインポジに足突っ込んでんのよ 望まなくてもイベントはあんたにも起こっていくわ 私は そのイベントを全部知っているから避けられるけどあんたはどうなのかなぁ?」


 痛いところをつかれてボクは言い返せずに唇を噛んだ。確かに彼女の言う通りだ。ボクはこのゲームをやっていないので今回のように彼女が避けたイベントをボクが知らずに消化していくことになりかねない。ボクにできることは、彼らに会わないことだけだ。しかし、偶然と勝手に会えてしまうのがイベントというものだ。そこで好感度をあげるような選択をしてしまってはヒロインまっしぐらになってしまう。


「ぐぬぬッ ボクは男だ だから彼らだってボクに惹かれる要素なんてない だから あんたがヒロインだ」


「あんた マジで言ってんの 私より女の子らしいわよ レイチェルお・姉・様」


 だぁぁぁぁ~~~ッ! ムカツクゥッ! 頼むよ、攻略対象者ッ ヒロインを間違えないでね。頭を抱えて悶絶するボクをおもしろそうに見ていた彼女は妙案とばかり突きつけてきた。


「じゃぁ こうしよう 全ては学園に行った時に決着がつくわ あんたは私より先に学園に入学すんでしょ 私が入るまでイベントを避けて好感度を全くあげなかったら私は黙ってヒロインをやってやろうじゃないの」


 その案、明らかにボクの方が不利なんだけど。しかし、ボクには断る選択肢はない。もうそれしかないのだ。


「絶対だよ ボクがイベントを避けきったらヒロインをやってよね」


「避けれたらね ウッシッシッ」


 くそ、イヤな笑いだ。

 ボクは、話が区切れたところで力が抜け、そのまま椅子に座りながら、盛大にため息をついた。そんなボクの姿を見下しながら彼女はあり得ないことを口にした。


「いいじゃん ただの恋愛ゲームでしょ 何そんなにマジになってるのよ」


「えっ? 恋愛ゲーム?」


「そうよ ゲームの世界なんだから いざとなったらこの国の事はこの国の人間に任せておけばいいのよ」


 ちょっと、待て。根本的にボクと彼女に決定的なズレがあることに気づいてしまった。


「あんたはこの世界がゲームの中の世界だと思っているのか?」


「そうでしょ」


 あっけらかんと答える彼女にボクは戦慄した。ユリエル様から聞いていなかったのか。

 その事実に行き着いた時、ボクは座っていた椅子を押し倒すように立ち上がると彼女の肩をつかんだ。


「なっ 何よッ?! マジになってッ」


「あんた聞いていなかったのかッ! この世界はゲームの中の世界じゃないッ この世界をゲームがまねたんだッ」


「はぁッ?! 何それ 意味わかんないんだけどッ」


 ボクは彼女に告げた。恋愛要素は、これから起こる大災害を避けるための人とのつながりであることを。そしてメインは、この国を救うことであることを。

 ボクの話を聞き終わった彼女は今までの飄々とした態度からあからさまに動揺していた。


「ちょっ ちょっとまて うそだろッ そんな重い役目だったのかよ だったらちゃんと言えよッ」


 なまじ知識があるから先入観でこの世界がゲームの中の世界だと決めつけてしまったのだろう。よくある好きなゲームの世界のキャラに転生しちゃったというやつだ。それと勘違いしたのだ。そして、恋愛ゲームだと決めつけた彼女は、本来メインであるあの防衛パートをゲームを楽しむサブの要素だと決めつけて重要視しなかったのだ。


「だったら 余計恋愛なんて暢気なことやってる場合じゃないだろうが」

 言いたいことは、わかる。あっちの世界では一応そこはゲームという体裁をとっていたからね。そう言う要素がないと売れないものね。


「しかたがないよ 彼らのつながりがないと有事の際に国を動かせないからじゃないのかな どうしてかは知らないけど……」


「……もしかして あぁ そういうことか……」


 彼女はブツブツとつぶやきながら一人納得している。説明、プリ~~ズ。


「それなら心当たりがあるわ」


「どういうこと?」


 彼女は少し黙って考えにふけると、神妙な顔つきになって答えた。


「王子達とつながりが必要になるのは この先のイベントで王様と騎士団長が魔物に殺されるからよ」



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