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異世界憑依で運命をかえろ  作者: のこべや
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「ねぇ 私 ついてこなくてよかったんじゃないの」


 馬車から降りてきた妹様はなぜか不機嫌だった。自分だけ目立たなかったのはご不満だったのかな。胸に抱えているルオレナの毛並みがボサボサになっている。また彼に被害が……。

 ボクはソッと彼女からルオレナを回収して抱き抱える。


「では ロザリアも馬に乗りますか?」


「うぅ お姉様…… そういう事じゃないのよ」


 肩を落としてしょんぼりしてしまった。違ったらしい。やっぱり女の子の気持ちはわからん。よくわからんので慰めがわりにポンポンと頭を撫でてあげると、とたん機嫌が良くなった。やはり妹様の気持ちはわからん。

 店の中に入ると中肉中背のおじさんがニコニコしながら寄ってきた。


「ようこそおいでくださいましたルナフィンク侯爵令嬢様」


 ステラがこっそり彼がこの商会の会長のエバンスだと教えてくれる。


「頼んでおいたものを見せてもらえますか」


「どうぞ こちらです」


 用意されているのは筆と絵の具なのだが、この絵の具は生前みたいにたくさんの色があるわけではない。確か昔は鉱石や宝石から色を作っていたと聞いたことがあるのでこの世界でもそうみたいだ。おかげでお金がかかるかかる。趣味でできるモノではないね。それにボクはそこまで本格的にやる気はないので申し訳ないけど、紙を数十枚に穴をあけて紐で括ってもらうことにした。なんちゃってスケッチブックである。後は描く為に黒炭があればいいや。ボクがリクエストを伝えるとすぐに用意しますということになったのでしばらく店の中で待たせてもらうことになった。

 店の奥に用意された席を勧められたが店の中を見て回りたいので遠慮した。ロザリアは、店の人が持ってきてくれた装飾品に目を輝かせている。女の子ならあんな感じじゃないといけないんだけど、やっぱり興味がないモノには惹かれないんだよね。


「ほんとうかっ?!」


 突如、店内にエルゼン様の声が響く。興味を惹かれたボクは、そちらに足を向けた。


「どうかなさいましたか?」


「あっ いや…」


 こちらに振り向いた彼の手には見知ったカードの束が握られていた。


「えっ? トランプ」


 それは紛れもなくトランプであった。


「おや お嬢様はコレをご存じで?」


 エバンスが期待を込めた目をこちらに向けてくる。


「えぇ まぁ」


 ボクが作ったいい加減なモノではなくちゃんとマークはスペード、ダイヤ、クローバー、ハートになっているし、10は軽武装の兵士の絵、11はフルプレートの騎士、12は女王、13は王の絵が描かれ、ジョーカーは魔物の絵であった。女王の絵がなんとなく王妃様に似ているのは記念メダルみたいなものかな。正に職人が手がけた一品である。


「こちらはフラダ男爵領から取り寄せた物でございます ザザ侯爵令息様のご希望の品を聞いたとき、前にそのような物をかの領内で目にしたことがありまして取り寄せさせました ご希望の品でございましょうか?」


「あっ あぁ あったんだな トランプ……」


 困惑しているエルゼン様と違ってボクは納得顔だ。ありがとうユスティーヌ様。こんなめんどくさい物まで作っていたなんて感激です。


「かの領はいろんな珍しい物を生み出す 今やこの王国の注目の的でございますから目が離せません しかし何分にもこちらの商品の使い方はフラダ男爵と懇意にしている商会しか教えてくれませんので大量に取り寄せるわけにもいかなかったのです お知りだというのならできればこの『トランプ』の使用方法をお教えくださりませんでしょうか?」


 確かに使い方がわからなければただの紙束だ。遊び方を秘匿するなんて商売上手だな。


「では あちらで遊びましょうか」


 ボクは、先に勧められたテーブルに二人を誘った。大の大人とババ抜きやるのもどうかと思うが、やってみた方が早い。ルナフィンク領でも流行るといいな。


「ところで 男爵領には他に何かありませんでしたか?」


 もしかしたら、彼女が他にもゲームを作っているかもしれない。ボクの問いにババ抜きのルールーを紙に書き留めていたエバンスが顔をあげた。


「申し訳ありません 確かに何かあったのかもしれませんか 何分にも使途が不明な物が多くて……」


 自信なさげな回答だったが他にもあるような言葉にボクの期待はいやがうえにもあがる。行ってみたいなフラダ領。今はちょっと無理かなぁ。帰ってくる時も襲われたばかりだしね。当分旅行は無理だな。


「また 珍しい物がありましたら取り寄せてもらえますか?」


「かしこまりました」


「それにしても噂では これらの物は男爵ご令嬢様が考え出したと聞きましたが本当かどうか」


 知ってます。彼女しか考えられませんよ。


「フラダ男爵令嬢が?」


 黙っていたエルゼン様が口を開く。おや? ユスティーヌ様を知っているのかな? さすが未来のヒロインの騎士様。もう知り合いだったのか。もしかしたら、もう一目惚れしちゃっているとか。


「お知り合いですか?」


「いや」


 えっ? 即答だったけど、どういうこと?。


「いっ いえ お知り合いでしょ?」


 あまりに彼女のことをあっさりしていたのでつい慌てて問いただしてしまった。


「う~~ん 言われてみれば…… 確か先の殿下の誕生パーティーに紹介されたような…」


 腕を組んでマジで思案顔のエルゼン様を見ていると不安になってくる。嘘でしょ。なんでそんなにヒロインの印象が薄いの。


「あぁ 思い出した いたなッ 男爵に引きずられるように紹介された令嬢が 落ち着きがなく挨拶が終わるとさっさとどこかに行ってしまった変わった奴だったからなんとなく覚えているぞ あれが噂の男爵令嬢か」


 おいおい、マジかよ。何やってるのヒロイン。それじゃまるで避けているみたいじゃないか。殿下の時といい何をやっているんだユスティーヌ様は。

 いや、待てよ。逆にその方が印象に残るのか。現にエルゼン様は彼女を変わった奴だと覚えていたな。おぉ、さすがヒロイン。ぬかりがない。


「ユスティーヌ様とは私もお会いしました 可愛らしい方でしたね きっとエルゼン様とお似合いですよ」


「えっ いや まぁ 確かに見た目はよかったが… あっ いや …俺は…」


 ボクはヒロインをよいしょしようと笑顔でそういうと彼が慌てて要領を得ない言葉を発し始めた。フ・フ・フッ わかってるよォ。それは照れだね。そんなボク達のやりとりを見ていた店主が思いだしたかのように話題をふってきた。


「そういえば フラダ男爵令嬢様といえば ここ数年にかけて何度も問い合わせがきているのですが 私では要領を得ないのですよ」


「何かありましたか?」


「あのお嬢様 『オンセン』というモノをご存じですか?」


 おおう……。やっぱり考えることは一緒だったらしい。同じ日本人だもんね。真っ先に思いつくよねぇ。しかも数年前からとは……。


「必ずあるから探して欲しいと言われているのですが 何の事やら……」


 前提に温泉を知らないのだもの話が進まないよね。彼女もまさか温泉を知らないとは思っていなかったんだろうな。でも、ユスティーヌ様が言っているのだから温泉はあるのだろう。


「え~と 自然に沸いたお湯の溜まり場でしょうか 天然のお風呂になるのですよ」


「そんなモノがあるのですか?」


 訝しげに彼は腕を組むと天井を見上げる。


「それで何をするのでしょうか?」


 そんな質問で返されるとは思わなかったよ。ここまでお風呂の価値観が違うとは。


「ゆったりつかれば心が癒せますしさっぱりしますよ ついでに効能もあれば身体にも良いですから」


「はぁ……」


 うん、わかっていない表情だね。よし、ここは便乗しておこうかな。温泉を探したらこの商会に頼んで施設を整備してもらおう。ユスティーヌ様のおかげで温泉の足がかりができたなぁ。ルオレナに源泉を探してもらおう。


「お嬢様」


 まだ見ぬ温泉に夢を馳せていると座っているボクの後ろにステラは近づくと耳打ちしてきた。


「何かありましたか?」


「はい 教会の使いの者が訪れまして 神父様がご心配されているとのことでお嬢様にお会いしたいと申してきました」


「そうですか」


 教会かぁ。そういえば、レイチェルは教会によくお祈りにいっていたみたいだし、神父様とは顔見知りなのかもしれない。その辺の記憶が一切残ってないんだよなぁ。バレないようにするには極力避けた方がいいのかもしれないけど、教会というのが魅力的なんだよ。きっとすっごく綺麗なんだろうな。ネットの画像で見た海外の教会は色とりどりの光が溢れたステンドグラスが室内を照らし出し、神話を模したきれいな壁画などあって荘厳なんだろう。生で見たことないので超見てみたい。


「では 教会に参りましょうか」


「えっ?」


 意気揚々と立ち上がったボクに予想外な声がステラからあがった。


「どうかしましたか?」


「いっ いえ なんでもございません お嬢様 くれぐれもご注意くださいませ」


 最後の方はボクにだけ聞こえるように声を潜めてくる。心配性だな。ただ教会見に行くだけなのに。

 ちょうどできあがったスケッチブックもどきを受け取ると、今度は馬車に乗って教会を目指した。なぜか用もすんだはずのエルゼン様もついてきたけどね。きっと彼は暇なのだよ。つき合いが良いことで……。


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